メーカー別 繊維ニュース

座談会/世界水準の力をどう生かす

2010年05月25日(Tue曜日) 午後1時17分

 世界で覇を争う力を持つ日本の繊維機械メーカー。彼らは、日本のユーザーとのパートナーシップをどうしようと考えているのか。また、いち早く回復しつつあるアジア市場へどのように販売しようとしているか。有力機械メーカーの首脳に語り合っていただいた。

出席者(本社社名五十音順)

豊田自動織機常務執行役員・大西 朗氏

島精機製作所常務取締役・竹鼻達夫氏

村田機械繊維機械事業部営業部長・野村貫則氏

津田駒工業常務取締役・岩倉煌一氏

高まるアジアの存在感

――激動の2009年を経て、アジア市場、そして日本市場の構造はどのように変化したか。

 大西 機械メーカーにとって08年、09年は大変厳しい年だった。しかし、昨年の後半ぐらいからようやく、受注のペースが戻ってきている。アジア市場中心に回復してきた。

 織機の市場としては圧倒的に中国が大きく、次にインド、加えてブラジルなども伸びている。紡機受注の回復は織機よりも少し遅れたが、最近になってパキスタン、インドネシア、バングラディシュなどからの受注が回復している。世界全体でみても、アジア市場の存在感がはっきりしてきた。

 チューリッヒで開催されたITMF(国際繊維製造者連盟)に参加した。そこでの報告によると、トルコ市場が回復しているようだ。ただ、アジアに比べると様相が違うと言っていた。トルコは欧州への繊維の供給基地という位置付けだったが、07年、08年までに減少した。しかし一部のエクセレントなユーザーが、これ以上は延ばせないということで設備投資をし始めている。

 それに比べると中国、インドは拡大を含めての投資で、勢いがまったく違う。インドの勢いがかなりいいという意見がたくさん出た。中国はもちろん市場が大きいから少し回復するだけで大きな需要が出るが、勢いそのものはインドの方がいいという意見があった。

 日本については、我々にとっても我々のお客さんにとっても厳しい環境が続いている。ただ織機について言えば、新合繊などの織物分野で、付加価値の高い高機能品を扱っているユーザーさんは、量的に大きな拡大は期待できないかもしれないが元気だ。受注も得ている。

 多品種小ロットもキーワードになる。ニッチ分野への提案力があるユーザーさんが元気だ。そんなユーザーさんにより密着して、それぞれのニーズに応えている。付加価値の高い織物を作るための提案や省エネ化するための提案に対するニーズは、日本でも引き続き高い。そんな要望に応えていく。

旺盛な長繊維分野の需要

 竹鼻 織機関係は09年前半から中盤が大底だった。09の後半から、中国からの引き合いが増え、インドもよくなってきた。これらが今回の回復を牽引している。

 特に中国の長繊維分野での設備更新需要が非常に旺盛だ。中国の公的機関のコメントによると、化繊関係、長繊維関係で、過去最大の老朽設備の淘汰を行っている。このことが大きな牽引材料になっている。

 中国、インドだけでなく、インドネシア、最近では韓国、台湾への輸出も回復している。いずれにしてもアジア。アジアでの回復が大きい。

 日本については、フィラメント分野で、機能性や付加価値の付与などによってがんばっている企業がある。海外へも展開しようと色々な試みをしている。以前ほどの量的ボリュームはないにしろ、元気な企業もいる。一方、スパン分野は厳しいようだが、この分野でも新しい展開を試みている企業ある。多いに期待したい。

B級糸分野からも注文

 野村 当社は、紡績機械とワインダーを生産しているが、09年の1月から4月までは、ほとんど作るものがないという状況だった。それが回復に向うきっかけのひとつは、中国政府の4兆元規模の内需振興策によって不景気を乗り越えたこと。

 中国から欧米向への輸出が激減したことで、輸出に向けられていたいわゆるA級の糸が中国国内に流れた。中国の紡績設備規模は1億から1億2000万錘と言われているが、そのうちA級糸を作れる設備、つまり自動ワインダー化されている設備はおよそ40%ぐらい。その自動ワインダーで巻いた高品質パッケージが、残り60%のB級、C級の市場に流れ込んだ。この結果、B級、C級糸メーカーの間でも、自動ワインダーへの入れ替えが始まった。

 加えて、沿岸部の人手不足が深刻になった。マニュアルのワインダーには1台当たり4人から5人配置されているが、自動化するとそれが1人か2人で済むようになる。内需に流れ込んだAクラスの糸への対抗措置と省人化の二つの目的で、一気に自動ワインダーの採用が進んだ。昨年6月以降、一気に受注が増え始め、フル生産の状態に入ってきた。

 それと同時に差別化、高品質化のために当社の「ボルテックス」精紡機を導入しようとする動きも中国で出てきた。「ボルテックス」精紡機で作った糸には、毛羽が出ない、毛玉ができないといった特徴がある。このような特徴が、レーヨンの紡績に適すると評価され、一気に受注に結びついている。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)と中国の自由貿易協定(FTA)が発効した。中国の原綿は世界相場の10%ぐらい高い。それまで関税つきで中国に入っていた糸が無税になり、中国の糸の方が高くなった。このため、中国から、インドネシア、ベトナムへ糸の引き合いが非常に増えた。これによって、インドネシア、ベトナムで一気に紡機増設の動きが出た。リーマンショックの影響で閉鎖、倒産した紡績会社も何社かあった。これによって設備が減少していたところに、引き合いが回復し、新増設につながった。

 リーマンショックで輸出が減り、中国もインドも糸を国内需要に振り向けた。

 その結果、韓国で糸が不足し始めた。このため韓国でも紡機の入れ替え、増設がみられる。昨年の10月ごろから非常に増えてきた。

 先ほどトルコの話しが出たが、トルコも中国やインドの糸にやられっぱなしで、縮小が続いていたが、両国から糸が回ってこなくなり、同国紡績会社への糸の要求が増えている。

 日本については、リーマンショック以降、デフレに拍車がかかっている。

 700円から1000円のジーンズに代表されるように良くて安いものへの要求が高まっている。国内向けだけで生産するには限界がきているように思う。

 繊維メーカー各社の海外シフトが進んでいる。デフレ傾向の中では、生産拠点を中国や東南アジアに求めざるを得ないだろう。

中国でPC機への移行

 岩倉 07年は設備投資が盛んだったが、08年のリーマンショック以降落ちて、昨年の10~12月ごろまでは低迷状態が続いていた。今年の1~3月から、中国からだけではないが引き合いが増えた。1~3月は前年同期よりも良くなっている。今も、お客さんの反応はいい感じだ。底を打って上昇しつつある。

 中国マーケットは、米欧向けの輸出が一時減少していたが、底を打って上昇しつつある。一方で、大手への集約がみられる。競争力のあるお客さんへの引き合いが増えているようだ。南アジアでも同じような動きがみられる。

 イタリアも、悪くない状態になりつつある。ホールガーメントへの引き合いも活発になりつつある。トルコ向けは2年ほど前まで低迷していが、その後、欧州向け輸出が良くなっているからだと思われるのだが、設備投資意欲が出てきている。

 中国には、ハンドニット機でモノ作りしている企業が結構ある。米国向けに輸出している大手でも、ハンド編み機とコンピュータ編み機の両方を使っている。人件費の高い地域の工場では既にコンピュータ化が進んでいる。依然としてハンドを使っている工場が多い地域でも徐々に人件費が上昇しているため、コンピュータ編み機へのシフトがおこってきている。

 日本については、セーター、カーディガン類の消費量は減ってはいない。それに占める国産品の量もこの10年ぐらいあまり変わっていないが、わずかだ。生き残るために、クイック・レスポンス対応とか、少し高いが消費者に認めてもらって買ってもらえるようなモノ作りを一生懸命しようとされている。売れている機械は、日本ではホールガーメントのウエートが非常に高い。効率のいいもの作りができるように、ニットの編み機以外に、オールインワンのデザインシステムも提案している。現物を作らずに、シミュレーションでアパレルさん、ニッターさんの間のやり取りをできるようなソフトを開発し、提案している。これを活用すれば、トータルコストを圧縮できる。多品種少量生産するには、たくさんのサンプルが必要なので、その効率を高めるための提案だ。これは先進国でどんどん採用されている。

意欲ある企業をサポート

――厳しい環境が続く国内ユーザーとのパートナーシップの今後について、本音の議論をお願いしたい。

 大西 エクセレントなお客さんは残っているし、元気だ。そんな日本のお客さんのニーズは厳しい。そういうところと一緒に技術開発をする。それは我々にとってもメリットがある。

――共同開発した技術が機械に詰め込まれて中国に行ってしまうと悩む声もユーザーの間にはある。

 野村 同じ機械を導入したからといって、同じ物が作れるようになるとは思わない。機械が同じでも、(日本と同等のものを作るには)扱い方、設定など色々な要素が必要だ。

 日本には、紡績協会非加盟会社分も含めると100万錘、海外工場分も含めると300万錘の設備がある。これは一つの大きな塊だ。縮小ばかりが言われるが、日本の紡績会社にはしっかりしたネットワークがある。国内生産についてのみ言えば、開発色が強まることは間違いない。そういったお客さんの色々な要望に応えることが大事だと思う。そのことが、競合国に技術が流出するという問題提起に直結していると考えるのは、正しくないような気がする。

 竹鼻 衣料の分野と非衣料の分野を分けて考えてみたいと思う。衣料の分野で低価化という流れと、高付加価値化の流れがあるが、この二極化がますます日本で進むと思う。若い人たちは、一部では高級衣料も身に着けながら、安いもののもうまく着こなしている、使い分けている。団塊の世代以降の人たちは、そういうことが非常に上手になっている。

 問題は、高付加価値なモノ、価格の高いモノを着る人達が減っていること。この分野を維持できれば、日本の生産業は存続できると思う。そこで、国内だけでなく海外へ展開する必要がある。展開力、開発力を持っているお客さんがたくさんいる。当社もそういう企業とお付き合いをすることによって、お互いに向上できると思う。

 非衣料、産業資材の分野では、衣料関係が不安定だということで一時産業資材分野へシフトする動きがあった。しかし、リーマンショックでこの分野が大きな打撃を受けた。衣料用の場合が2、3割ダウンだったのに対し、産業資材分野は7、8割の減少を余儀なくされた。その意味では非衣料分野はリスキーだともいえるが、繊維が金属製品にとって代われるような分野もある。その分野に注力しようとするユーザーさんもいる。そんなユーザーさんと一緒にやっていくことで新たな展開も出てくると思う。

 日本の繊維産業はまだ十分やっていけると思う。ただ、かつてのように産地化、産地形成はなくなってきており、意欲有る企業同士の連携が増えると思う。このような動きをサポートしていきたい。

 またハード面だけでなく、新しい素材、製品展開のテーマにユーザーと一緒になって取り組む力を日本の機械メーカーは持っていると思う。欧州はもちろん中国の機械メーカーには無い力を日本メーカーは持つ。そういうソフト面からも、一緒にさせてもらうということは十分できると思う。

先進国でやれるモデル

――島精機さんは期間限定ながらも百貨店と組んでホールガーメントの販売を行うなど、面白い試みをしている。

 岩倉 新しいビジネス・モデルを開発して、それを普及させることが機械の需要にもつながるだろうとの思いがある。当社の社長も、日本のニット産業にがんばって欲しいという強い思いを持っている。先進国でやっていけるニット事業のために、ホールガーメントを出した。ソフトウエアの開発も併せて行ってきた。

 当社は、コミュニケーション・スペースというのを日本はもちろん海外に設けている。そこにサンプルを置いて、こんなモノを作られてはどうですかという提案もしている。皆さんと同じで、売って終わりの機械ではないので、サポート体制も充実させている。そんな体制が最も充実しているのは、日本の機械メーカーだ。

 輸入が中心だったアパレルさんの中にも、国内で調達したいという動きが出ており、ニッターの確保に動きつつある。まだそれほどたくさんのボリュームではないが、良質ものをクィックレスポンで欲しいから、日本で作るという動きがある。景気が回復してその量が増えれば…。デパートで個人のご希望を聞いて、それを製品にするという需要もあるわけだから。

 ホールガーメントの機械自体、発売から10何年になるがずいぶん変わってきている。かつては、機械のコストが高いのと、使い方が難しいという面があった。コストについては生産性を上げることで対応してきた。柄組みなどオペレーションの難しさについては、コンピュータソフトでカバーするウエートを上げてきた。発売当初に比べるとずいぶん進化している。それがこれからどういう風に反映されるか。

 竹鼻 織物の分野でもいいものをクイックレスポンスで欲しいという要求は増えている。これをするには、機械だけでなく、それを使うユーザーさんのノウハウが大変重要なファクターだ。日本のメーカーはそういう力を持っている。

仕掛けでアジア市場開拓

――アジア市場へのアプローチと開発の方向性について。

 野村 開発の方向性は高生産性と高品質、差別化に集約されると思う。アプローチの仕方について言うと、かつては、引き合いがきたお客さんに値を出して、ライバルメーカーと戦いながら受注を得るというやりかただった。でも、気合と根性でということでは通用しなくなっていると思う。提案型の営業が必要だ。

 そこで、ボルテックスを使った製品でいかに儲けていただくかという提案から始めた。アパレルさんに糸や製品を持って行って、見ていただく。アパレルさんに認めていただいたら次の段階へと。紡績さんのお客さんの声が、紡績さんに届くような仕掛けをしてきた。7、8年たってようやく、その仕掛けが実りはじめた。メーカーは何かを仕掛けないと何も変わらない。その仕掛けをどう考えるかが大事だ。機械を使っていただいて、どうやって儲けていただくか。それを常に考えていかないと、普通のメーカーになりさがってしまう。

 竹鼻 中国も新しい設備、生産性の高い設備を求めている。いい品質の製品を作り出せる機械を提供するという方針に変わりはない。中国の労働コストが上がってきているので、それに対する提案がこれからは必要だと思う。加えて、省エネなど環境問題に対応できる提案が大事だ。中国以外のアジア諸国に対しては、生産性が高い機械を提案することに加え、イニシャルコストを下げられる提案が必要だ。

 大西 基本的には皆さんと同じだ。それに加えて言うと、紡機の場合は、中国の紡績機械メーカーにどう対応するかということが大変難しい課題だ。リング精紡機についていうと、現地の部品メーカーとのパートナーシップも必要になってくる可能性はある。

 ただ織機については、その可能性はまだない。中国のエアジェット織機メーカーを3社ほど見てきたが、作り方をみても、機械の中を見ても、(日本の)優位性が保たれているし、今後もある程度あるだろう。もちろん、それに甘えることなく、先ほど竹鼻さんがおっしゃったようなキーワードでの開発を進める必要はある。

 日本の機械の良さをお客さんに聞くと、安定性だと異口同音におっしゃる。中国メーカーの機械の場合、Aの機械はいいがBのはさっぱりということがまだある。我々の生産技術、品質の安定性(の高さ)は生きている。精紡機のオートドッファーは日本製が一番いいと言う。これは維持していかないといけない。

 欧米に比べて日本が優位なのは、ロジスティック。中国、アジア市場に対する物理的な近さ。それと文化的な親和性。これも生かしていく必要がある。

圧倒的存在の「ITMAアジア」

――ITMAアジア+CITMAへの期待を。

 野村 キーワードは「チャレンジ・フォー・ザ・ネクスト」。次の業界が儲かるために、差別化、高品質化するために何を提案できるかを今回のITMAアジアで出したい。

 竹鼻 今年のテーマは「スマートエコロジー」。環境と生産の調和ということをテーマにした。主力製品のジェットルームで、高速性を基本性能として追求するとともに、日本製品のもつ高品位、汎用性の高さ、加えて簡単操作を含め、我々の考え方を出す。

 岩倉 ここ3年をみると、当社の出荷台数の7割ほどが中国、香港市場向けになっており、非常に重要なマーケットなので、力を入れている。昨年末から発表している色々な新しい機械を中国のみなさんに見てもらう。

 大西 展示会の中で、「ITMAアジア+CITME」は圧倒的な存在だと思う。

 出展面積、出展者数、来場者数、来場国の多さ等々からして、世界最大の見本市だ。他のどの展示会よりも圧倒的にこの展示会に、お金、人を投入する。