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シリーズ工場へ行こう!浅野撚糸~撚糸企業が“常識”覆す~

2010年09月29日(Wed曜日) 午後1時50分

 撚糸企業がブランドを立ち上げ、タオルを販売する――。浅野撚糸(岐阜県安八郡)が、これまでの既成概念を破り、おぼろタオル(津市)との連携でタオル「エアーかおる」の開発に乗り出したのは2005年。今では「インターネットでの購入者のうち64~65%がリピーター」(浅野雅己社長)と、圧倒的な支持を受ける背景には、“日本でしかできないモノ作り”を追求するとともに、一介の撚糸企業の“常識”を覆す発想があった。

産地を襲う中国産の攻勢に/「一時は廃業も考えた」

 新幹線の岐阜羽島駅からタクシーで約10分。日本三大清流の一つ長良川を渡ってすぐのところに浅野撚糸(岐阜県安八郡)がある。1969年の設立以来、岐阜県を代表する撚糸企業としてグループ工場のネットワークを構築してきた。

 新素材開発の要を担う開発センターに村田機械のツイスター「36M」4台、ダブラー「608」2台を設置。グループ工場にはダブルツイスターが32台、ダブラー18台(うちQT方式16台)、ニッカム2台を保有する。

 そんな浅野撚糸でも2000年以降、中国からの安い製品攻勢に対し、生産量が減り始める。「商社の海外生産シフトへの動きは早かった」。国内から中国を中心とした海外へと生産が移るなか、浅野撚糸は、他社にはできない高い技術力で、輸入品に何とか対抗しようと試みる。

 一時、ストレッチブームの到来で、コアヤーンの生産が伸びた。受注量は月間200トンを超えるときもあった。しかし、そのブームも長くは続かない。中国でコアヤーンの生産が活発化するのに比例して生産量が減るとともに、単価も大きく下落した。「一時は廃業を考えた」。かつては岐阜県内に400社以上あった撚糸企業もいつの間にか30社ほどになっていた。

“魔法の撚糸”を開発/「エアーかおる」の誕生

 「生き残るためには独自の商品を生み出さなくてはいけない。とにかく中国と同じ商品を作っていては勝ち目などない」。2003年以降素材開発の日々が続いた。毎月30件以上の試験は当たり前、「多いときには70件を超えることもあった」。試行錯誤の末、2005年にクラレトレーディングと共同開発したのが、糸に空気の層を作る撚糸工法「ミラクルエアーツイスト」だった。これは世界初の撚糸工法となる水溶性糸と特殊合撚技術を利用し、無撚糸の柔らかさと中空糸の軽さを併せ持った糸だった。まさに“魔法の撚糸”と呼ぶにふさわしい糸に仕上がった。

 中空糸は、糸の芯に使った水溶性糸を溶かし、糸の中が空洞にしたもの。魔法の撚糸は綿糸のファイバー一本一本の間に空隙ができ、ふわふわした感覚とボリュームを実現した。通常の無撚糸は元の紡績糸の10~20%の撚り数になり毛羽落ちしやすくなる。魔法の撚糸は撚り回数が元の紡績糸とほぼ同じであり、その分、毛羽落ちしにくく、ふっくら感が持続するという画期的な糸だった。

 ただ、「糸だけを売ろうとしても、なかなか商売に結びつかない」のが現実だった。糸の特徴を生かす製品を作り、その感触を消費者に直接伝えていくためにはどうすればよいか。そんな思いを描いていたなか、おぼろタオルと出会う。2005年10月、取引銀行主催の企業マッチングで両社は出合い、中国が真似できない世界に通用するタオルをめざすことで合意、これまでにない新たなタオルの開発に着手することになる。

 もちろん、今治や泉州といったタオルの有力な産地があるなか、それらの産地でも作ることができないようなタオルを作ることは容易ではなかった。一介の撚糸企業がタオルという製品を作り、ブランドを作っていく。常識で考えれば“非常識”な発想だった。

 神戸の老舗ベビーアパレルのファミリアにアドバイスを受けながら試作は2年間でなんと4000枚を超えた。07年5月、ようやくファミリアへの採用が決まった。これまでにないタオル「エアーかおる」誕生の瞬間だった。

急速に広がる市場/岐阜県知事がトップセールス

 ファミリアの採用や展示会への参加をきっかけに、テレビショッピングや有名デパートから注目を集め、急速にエアーかおるの市場が広がる。三越や高島屋、東急ハンズ、ヒマラヤなどの百貨店・専門店、三越通販や生協(コープ)事業連合といったカタログ関係、ジュピターショップチャンネルや楽天市場といったネットショップ・テレビ通販など販路が拡大。今年4月末までの累積出荷数は30万枚を超えた。今では「岐阜県の知事自らがトップセールスをしてくれる」ほどだ。

 エアーかおるの販売が軌道に乗ってきたことで、魔法の撚糸のタオル以外への用途開拓も進んだ。ナチュラルストレッチ、軽量、通気、保温、吸汗、速乾、防皺、ソフトという特徴を生かし、織物では紳士スーツジャケットや婦人スーツ、シャツ、ユニフォーム、ボトム、寝装寝具などが商品化、またニットでもインナーやセーター、ジャージー、アウターシャツなどの用途へ販路が広がった。

 今年、新たにエアーかおるのバスタオル版「エニータイム」を開発した。通常のバスタオルに対してほぼ半分の大きさで、抜群の吸水性を生かし、サイズをコンパクトにすることで使いやすさを追求したものだ。

 セールスプロモーションによって認知度を高めながら、百貨店や通販カタログなど販路を拡大。テレビショッピングのジュピターチャンネルでは1時間に1000万円以上も売り切るほど人気商品で、すでに8月末までに10万枚を生産、来年4月までには販売目標とする20万枚をほぼ確実に達成できそうだ。エアーかおる全体で見ると、生産量は50万枚を超える。

 9月にはイトーヨーカドーへの販売も決まった。「多少高くても日本製のいいものを売ろうとする動きへと(GMSの)体質そのものが変わってきた」と、浅野社長は安値一辺倒だった流れの変化を察知する。

中国内販は“恩返し”/国内でモノ作りの連携強める

 8月初旬には初めての海外展示会となる「上海国際ギフト展」へ出展した。4日間でブースには2000人が来場し、850社と名刺を交わした。浅野社長は「中国では日本製のギフト市場が育つ可能性が大いにある」と感じた。「中国人バイヤーは日本での実績を重視する」ことから、国内の“追い風”に乗って「中国内販も広げたい」。すでに上海の久光百貨〈上海〉で試験販売を開始している。

 10月には上海万博での日本館イベントステージ「岐阜県の日」に産業プロモーションコーナーに出展するとともに、伊勢丹での試験販売も予定している。「すでに2万枚ほど上海で備蓄し、上海の百貨店をアンテナショップに中国全土に販路を拡大」をうかがう。

 浅野社長は「中国への生産シフトによる危機感から、新しいモノ作りが生まれた」と振り返る。その“恩返し”の意味でも「日本製の良さを知ってもらいたい」と中国内販への強い意気込みを示す。「これからは日本で生産基盤を持っている強みが発揮されてくる」。それを証明するためにも今後、中国市場での成功が不可欠となる。

 さらに浅野社長はこれからのモノ作りは「安くていいもの」から「こだわりのもので相応の価格になってくる」との見方を示す。そういったモノ作りをしていくためにも紡績、撚糸、染色加工、織り、縫製、販売の「全ての技術の集大成“オールジャパン”で海外市場へ挑戦していく必要性がある」と強調、志を同じくする企業との連携を推進する。

逸品拝見/とどまらない新開発「super zer0」

 浅野撚糸の開発は「ミラクルエアーツイスト」で生み出した“魔法の撚糸”だけではない。エアーかおるの販売を軌道に乗せながらも、毎月30件以上の試作を繰り返し、「常に素材開発に挑戦している」(浅野社長)。

 最近、新たに開発したのは水溶性糸と特殊合撚技術を活用し、通常の糸に比べ約43%以上も膨らみ(バルキー性)がある超無撚糸「super zer0(スーパー・ゼロ)」だ。「ここまでハイバルキー性がある糸は世界初」であり、国内外で特許も申請した。

 スーパー・ゼロは、紡績糸と水溶性糸を合わせ、紡績糸の逆方向に200%の撚りを加えた後、水溶性糸を溶解。エアーかおるのように織り、編み、製品の段階で水溶性糸を溶解させるタイプではなく、糸段階で溶解させ「これまでの発想ではなかった」ものだ。

 溶解後の糸は「過小に評価」しても約43%以上のハイバルキー糸となる。空気を多く含み、見た目以上の軽量感があるとともに、わたに透き間ができることで、その透き間が膨らみを持たせ、柔らかい生地になり、防シワ機能を持つとともに、洗濯後の方がより膨らみや柔らかさが増す。繊維間に空気を保持することで保温力や毛細管現象による吸汗能力が向上、通気性により速乾性にも優れる。

 さらに強烈な撚りトルクが、水溶性糸が溶けた後も残存することで、伸縮性を持ち、ポリウレタンやPTT繊維の力を借りなくても、その素材100%でナチュラルストレッチを実現。あらゆる短繊維でスーパー・ゼロの機能を持たせることが可能だ。

 今後、ジーンズやインナー、アウターニット、ジャケット、タオルなど様々な用途開拓を進める。