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探訪 モノ作りの現場から/“一針一心”のモノ作り/明石被服興業(明石HKC) 宇部工場/国内、屈指の縫製工場/開業から見守る門前の桜

2016年05月30日(月曜日) 午後12時48分

 中学校や高校のころ、入学式から卒業式まで3年間、同じ制服を毎日着用していたという人が多いはずだ。当たり前のように感じるが、一般衣料に置き換えると、なかなか3年間も着用に耐えられる衣料など少ないと気付かされるに違いない。制服がいかに丈夫に作られているか。そこには学生服メーカー各社の長年蓄積してきた技術力がある。今回、明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC、岡山県倉敷市)の生産面を担う、明石被服興業(明石HKC)の宇部工場(山口県宇部市)に足を運び、モノ作りにかける姿勢を垣間見る。

 JR宇部駅から車で西へ約5分、明石HKCの主力工場である宇部工場の外観が見えてくる。門のそばには3月末から4月初旬に訪れれば、きれいに咲きほこっているだろうと思われる立派な桜の木が2本ある。実はこの桜、1969年に工場が稼働し始めたころ、第1期目に工場へ入社した従業員たちの手によって植えられたものだという。

 当時は宇部周辺で採用した従業員を2~3年間、本社工場で経験させ、再び宇部工場で働いてもらい、徐々に技術力を高めていった。200人ほどの従業員からスタートした工場も、1970年代に入ると一時期500人となり、主力工場としての存在感を発揮する。

 2001年には工場棟を全面的に建て替え新築。そのころ国内アパレルの多くがコストメリットから縫製工場を海外に移すなか、総工費約13億円をかけて国内に縫製工場を作り直すということで「これほどの規模の縫製工場を国内に作って大丈夫なのか」と、大きな話題になったほどだった。

 大掛かりな設備投資となった背景には、工場開設から「30年がたち、先代の社長にはモノ作りの会社として強い思い入れがあったんでしょうね」と話すのは、沖田英夫工場長。実際、宇部工場の建て替え新築を決めた先代の故・河合正照社長は当時、「今後ここを拠点に国内生産基盤の一層の強化と安定した品質の維持を目指す。多品種少量生産の強化と生産性の向上、国内で蓄積した優れた技術を次の世代に継承していきたい」という言葉を残している。

 その言葉通り、建て替え当初は年間60万点ほどだった生産量も、今では連携する協力工場を含めて、年間126万点と倍増以上に拡大。詰め襟服、ジャケット、セーラー服、コート、スラックスなど様々なアイテムが生産できる、日本でも屈指の縫製工場へと成長した。「品質」「納期」「生産性」の3つを常に意識し、従業員一人ひとりが日々、技術の練磨に取り組む。

〈世代交代で若返り進む/技術継承し成長続ける〉

 現在、工場の従業員は360人(近隣の宇部テクノパークアソートセンターの従業員も含む)で、8割以上が女性となる。鉄筋2階建ての工場で、1階は原反の保管スペース、裁断、仕上げ、検査、2階が縫製作業場となる。

 学校別注の対応増加により、多品種小ロット化が進んだことで、原反の保管スペースには表地だけで3000品番以上もある。裏地やボタンなどの副資材を含めると相当数に上ぼる。同じようなカラー、織り組織の生地が並ぶだけに、裁断前、仕様書通りの生地かどうか確認するため、念入りにチェックされる。

 自動裁断機(CAM)は6台あり、うち4台はここ数年で入れ替えた最新設備だ。高速化によって、以前に比べ生産性が向上した。

 縫製は、ミシンが約400台あり、ほかの工場には珍しいスウェーデン製のハンガーシステム「イートンシステム」を採用する。とくにスラックスの生産に効力を発揮し、通常の縫製ラインに比べ「1・5倍ほど生産性が高まる」(沖田工場長)と言う。縫製するものをハンガーに吊るしながら工程ごとに移動させるため、シワが付きにくいというメリットがある。

 また、自動搬送ロボットも2台導入しており、次の工程へと製品送りを自動化、効率的な生産体制を構築している。

 生産ラインは、スラックスが1ライン、男子ジャケットが2ライン、女子ジャケットが2ライン、夏物セーラー服が1ライン、冬物セーラー服が1ラインの計7ライン。1ラインにつき、30~35人(夏物セーラー服は16~17人)を配置する。

 男子ジャケットの1ラインは“マルチライン”と呼ばれ、生産状況に応じて女子ジャケット、詰襟服も縫うことができる。「まさに二刀流ならぬ“三刀流”のライン」で、難度の高いアイテムにも対応できる。

 ジャケットの場合、生地投入から裁断、縫製、仕上げなど一連の工程を見ても、200工程(各社の仕様書によって工程の数え方は異なる)に及ぶ。多品種小ロットで頻繁に縫製するアイテムが切り替わるなか、品質を維持するのはかなり難しい。

 それでも「入学式から卒業式まで手入れさえしてもらえれば、ずっと着てもらえるようなモノ作り」を常に意識し、「“一針一心”のモノ作りをしていこうと、絶えず従業員に伝えている」。

 この4~5年は開業当初から工場を支えてきた従業員たちが引退し、世代交代が進んだことで、平均年齢は39歳と若返った。沖田工場長は、「しっかり技術を継承しながら、さらなる成長をしていきたい」と述べ、これからも工場として進化の道を歩み続ける。

    ◇

 門前の桜が散ってしまうころ、入学シーズンで生産に追われる繁忙期だった工場に、一息つける時期が訪れる。沖田工場長は散ってしまった桜を見て毎年こう思うのだと言う。「今年も無事に生徒一人ひとりに制服を届けることができたんだな」

〈「皆さん、よろしくね!」/制服をより身近な存在へ〉

 明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)は、学生服のユーザーである10代に制服をより身近な存在としてアピールするため、ブレザー服姿の帆風(ほかぜ)あおい、セーラー服姿の神楽(かぐら)小町、学生服姿の藤栄(ふじさか)しおんの少女3人のPRキャラクターを設定している。

 帆風あおいは同社の設立と同じ12月1日生まれの16歳。手話が特技という設定で動画の中でも披露している。制服はネイビーブルーのブレザーに赤いリボンの清楚なイメージ。スカートは同社のコーポレートカラー「スマートブルー」を基調にしたオリジナルタータンチェック柄。ほかの2人はオリジナル「富士ヨット」の代表的なアイテムを着こなす。

 イラスト・原画はインターネットで人気に火がついた深崎暮人さん。キャラが活躍するのは印刷物ばかりではなく、動画やイメージソングも製作した。3Dモデル製作にISAOさん、映像・編集にまさたかPさん、音楽製作にbuzzGさんと若者に人気のクリエーターが顔をそろえる。声優陣は帆風あおいに金元寿子さん、藤栄しおんに巽悠衣子さん、神楽小町に東山奈央さん。

 昨年11月に都内の展示会場で行われた発表会では一般のファンも交え、帆風あおいの動画やイメージソング、グッズなどを披露。今後は販促のほか「日本の文化と当社の制服文化を融合させ、世界に発信していきたい」と“クールジャパン”展開も視野に入れる。