繊維街道/私の道中記 辻洋装店社長  辻 庸介 氏 (1)

2016年07月11日(Mon曜日)

「洋服づくりは人づくりの道」

 昨年11月、「東京都中小企業技能人材育成大賞知事賞」の大賞を受賞した辻洋装店(東京都中野区)。重衣料を中心に高級婦人服を手掛ける縫製メーカーだ。繊維業界初のこの快挙を成し遂げた同社・辻庸介社長は、繊維業界の裏方的存在であり、人材の確保なしでは成り立たない労働集約型の縫製業で、「洋服づくりは人づくりの道」を掲げ、幾多の困難を乗り越え、独自の繊維街道を歩んできた。

                 ◇

 辻洋装店は1947年の創業で来年70周年を迎える。その強みは、高水準の技術力と徹底した生産管理体制にある。

 当社は、一般的にプレタポルテ(高級既製服)と呼ばれる高級婦人服の専業メーカーです。従業員は50人ほどで大量生産型の受注ではとても成り立ちません。1日当たり平均生産量は80~90枚、難しいものだと50~60枚程度と少ない。高い技術力が何よりも不可欠で、そのため徹底した生産管理体制をとっています。

 CAD/CAMの活用はもちろん、裁断前に生地を寝かし独自の加湿システムで素材を乾燥から守る湿度管理、少し離れたアトリエでのグループ単位による縫製、一部手作業によるまとめ仕事、中間チェック、検針、3Dハンドプレスなど、少人数(4、5人)のチーム単位で一貫生産することで高い品質を保っています。「一番いい服は辻さんのところに頼みたい」と言ってもらえるほど、うれしいことはありません。

 「洋服づくりは人づくりの道」と掲げる同社。高い品質の維持にも社員一人一人の技術力が不可欠で、そのための人材育成には特に力を入れている。

 一般的には中途採用の方が即戦力になりやすいのですが、基本的に新卒採用しか行っていません。と言いますのも、ノウハウのない真っ白の状態から教え込むほうが、当社ならではのモノ作りを理解しやすいと考えるからです。

 また日本人の採用にもこだわっています。業界では海外生産が主流になった頃から、実質的にはコスト削減を目的に外国人技能実習生の採用が増えました。当社が加盟する東京婦人子供服縫製工業組合でも、各組合員に対して外国人技能実習生の活用が呼び掛けられました。

 ですが、最長でも3年で帰国してしまうため、当社での採用には至りませんでした。高い技術力を最大の強みとしている以上、3年で高水準の技術を培うには短いと感じているからです。結果的に日本人になっているという面もあります。

 こうした高い技術力と人材育成へのこだわりが、価値の高い洋服作りにつながり、モデル企業と言われる存在に。外部からの工場見学者も増え、昨年は学校関係者から同業者まで約400人が訪れた。

 見学者からはよく「人材育成をするともうかるのか?」と聞かれました。「そうではないが、強いて言えば企業の継続につながるのではないか」と答えています。新卒採用は例年5、6人といったところですが、今春は9人採用しました。そのうち一人は15年ぶりとなる高卒者です。一度は断ったのですが、「どうしてもここで働きたい」という本人の強い希望を受け採用に踏み切りました。

 「どうしてもここで働きたい」。しかし、この言葉が聞かれるまでの道は平たんではなかった。