繊維街道/私の道中記 辻洋装店社長  辻 庸介 氏 (5)

2016年07月15日(Fri曜日)

人の営みに完成形はない

 2003年、中小繊維製造事業者自立事業に採択され、婦人オーダー服の専門店「TSUJI」を同じ中野区内に出店した。

 祖業とはいえ、試行錯誤の連続でした。デザインやパターンも当社で用意しなければなりません。最初は文化服装の同級生であるデザイナーに依頼し、その後は雑誌などを参考にパターンを起こしていきました。

 そうした中、ある社員のパターンが評判となり、毎年数着依頼するリピーターも出てきました。中には一人で22着も注文してくれた人もいます。また、作り手が良いと思ったものは売れると気付きました。10型作っても「売れる」と感じた2、3型程度しか売れない。売れ筋という意味が分かった気がします。

 しかし採択から5年、最終年度の08年にTSUJIは閉店する。

 初めから5年やって悪ければやめるつもりでした。結果は可もなく不可もなくといったところでしたが、リーマン・ショックで主力の縫製工場が不振気味になり閉店したのです。ただし得たものは多い。パターンを生かした服作りを追求してきただけに、大きな自信となりました。

 その後は本業の婦人服縫製に注力。パターン技術に加え、売る立場を経験したことで改めてモノ作りを突き詰めていく。

 オーダー服専門店を通して消費者に直接触れることで、多少は商品を見る目が養われ、デザイナーの微妙なニュアンスの要望にも対応できるようになりましたが、デザイン自体には口出ししないことにしています。デザイナーにはデザイナーの世界観があります。売る側を経験し、その難しさを知った故に、モノ作りの勝負が当社の生きる道だと再確認しました。

 人材育成にもいっそう力を注いだ。新入社員向けに縫製やパターン設計の実習型訓練を導入したり、熟練技術者の作業動画を作成しタブレット端末で自由に見られるようにしたり、技術を習得しやすい環境を整備する。また縫製に携わる多くが女性とあって、育児休暇に加え、復帰後の柔軟な勤務体制も整えた。

 モチベーションが高まり心豊かに働ける職場作りが社員の定着につながり、良い服作り、利益に結び付きます。利益第一だった当初は、社員が離れる一方で技術力の向上どころではありませんでした。

 モノ作りは文化度や勤勉さといった要素が大きく関わります。特に縫製は、高級品も低価格品も使うミシンは基本的に同じです。作り手の技術力の違いで大きく変わり、製品に表れるのです。

 人の営みに完成形はなく、常に次を考え進化していくことが重要です。今後もパターンと縫製の力を高め、オンリーワンになっていきたい。この思いを社員や3人の息子たちと共有し、次の世代で企画力も加味できればと思っています。

(この項おわり)