メーカー別 繊維ニュース

回顧2016

2016年12月26日(Mon曜日) 午後4時37分

〈紡績/●円高で収益低迷から一服●不採算分野から撤退加速●新たな機能加工にも脚光〉

 2016年の紡績の業績に大きな影響を及ぼしたのが為替動向だ。紡績は海外生産のウエートが大きく、糸・生地から製品まで商品の多くを海外調達している。15年までの円安で、海外調達コストの増加が収益を圧迫する構図が続いていた。ところが16年に入ってから状況が一変する。急速に円高が進んだことで、収益低迷から一服することができた。

 こうした状況下、紡績各社とも事業構造の改善にも取り組んだ。将来性の見込めない不採算分野からの撤退が加速した。皮肉にも15年までの円安局面が紡績にとって続けるべき事業と、そうでない事業を峻別(しゅんべつ)するきっかけになったようだ。このため大手紡績だけでなく中堅紡績も含めて収益性重視の事業運営への転換が進んだ。

 中には量販店向け製品OEMから撤退するなど大胆な動きもあった。生産拠点を中国からベトナムなど東南アジア地域にシフトする動きも目立った。こうした取り組みは順調に成果を上げており、ここに来て紡績の収益性は明らかに改善傾向となっている。

 一方、商品開発の面では、新たな機能素材・加工が脚光を浴びた。特に抗ウイルス加工や防汚加工、防虫加工といった衛生に焦点を当てた機能素材・加工への注目が高まった1年と言えそうだ。新たな感染症へのリスク意識や蚊などを媒介とする感染症への関心が世界的に高まっていることが背景にある。

 ここ数年の間に繊維評価技術協議会が抗ウイルス性や防汚性に関する試験方法・評価基準を策定し、国際標準化を進めたこともある。国際規格があることで、客観的な性能評価が可能となり、素材メーカーにとって商品の性能を訴求しやすくなっている。こうした新しい機能素材・加工への注目は来年以降も続きそうだ。

〈合繊メーカー/●急激な円高が業績に影響●アクリル短の市況が悪化●ポリ短は構造改革の効果も〉

 合繊メーカーの2016年は11月までの急激な円高に苦しんだ1年だった。大手7社の4~9月連結決算は全社が減収。為替の期中平均レートは1㌦=105円と前年同期の122円から大きく円高に振れたことによる海外子会社の邦貨換算差や輸出の手取り減少などが影響した。

 円高は原油価格の低迷と合わせて製造コストの面ではプラスに働く。しかし、国内の市場規模が漸減傾向にある中で、各社とも今後の成長に向けてグローバル展開を拡大していく方向にあり、円高の影響がより大きくなっている。米国大統領選以降の急激な円安進行は来年に向けての追い風となりそうだ。

 需要面では中国やブラジルなど新興国市場の成長率が鈍化した。特に中国内需の低迷は、海外市場に目を向けた中国メーカーの安値攻勢につながり、東南アジアの繊維市況にも影響を与えた。日本市場も百貨店アパレルの低迷や昨年の暖冬の影響のほか、昨年のけん引役だったインバウンド需要も落ち着きを見せ、衣料用途は全体として振るわなかった。

 素材別で最も苦戦したのはアクリル短繊維だった。主力市場の中国で4月からアンチダンピングの暫定措置が始まったこともあるが、より大きいのがフェイクファー市場の低迷だ。特に中国内需向けはトレンドの変化や流通在庫の問題もあり、低調なままシーズンを終えた。今後に向けて、資材用途の拡大や中国以外の市場開拓など事業構造の転換が急がれている。

 一方、ポリエステル短繊維はアクリル短繊維と同じく前年比2桁%の生産数量減少が続いているものの、こちらは構造改革の効果が出てきた1年だった。3月までに構造改革を終えたユニチカの産業繊維事業は黒字化し、帝人の構造改革も計画通りに進捗(しんちょく)している。

〈商社/●収益改善も予断許さず●中国生産へ揺り戻しも●川下へさらに踏み込む〉

 2016年度の上半期業績が減収増益になったことが、今年を象徴している。2割程度進んだ円高は主力の製品OEM(相手先ブランドによる生産)、ODM(相手先ブランドによる企画・生産)事業の収益改善にある程度の効果を発揮した。各社が取り組んだ業務改善も下支えし、流通の変化に応じた顧客ポートフォリオの見直しも進んだようだ。

 年初、期初から事業環境認識は厳しく「円高で地合いの悪さが隠れてしまった」と警戒する声が根強くある。15年の暖冬で市場の流通在庫が多くなっていることから予断を許さないが、急な冷え込みで防寒衣料が動きだしたことには歓迎する向きが多い。

 生産面は国内のファッション衣料消費の低迷を受けて変化が見られた。この4~5年で進んできた東南アジア諸国連合地域への生産シフトは、中国に戻る形で止まった。

 小ロット・短納期への要望が強まったことが理由だ。顧客が売れ筋を見極めてから追加発注を掛ける戦略にシフトすると、生産拠点は距離が近い場所に持って来ざるを得ず、デザイン提案能力、素材開発力で裾野が広い中国生産が改めて価値を見直されることになった。同様の傾向が進むという見解が各社で見られる。

 情報発信やニーズ把握などで、消費者に直接アプローチを仕掛ける取り組みも見られた。価格と価値のバランスをしっかりと判断して購入する“賢い消費者”が増えていると言われる中、素材開発や製品企画提案の精度を高めるには、最終消費者を対象とした、ニーズの的確な把握、情報発信の仕掛けがB2B製品供給を担う商社としても外せない機能となってきた。製品ビジネスは店頭販売に貢献する形で、より川下に踏み込んだ提案機能を強化する方向にある。

〈生地商社/●輸出拡大機運が顕著●モノ作り困難に苦悩●瀧定大阪の損に激震〉

 生地商社の2016年は、輸出拡大機運がさらに高まると同時に、産地のボトルネックが表面化、モノ作りの采配に各社が苦悩した1年だった。為替デリバティブに関連して瀧定大阪が多額の損を計上したことも、業界の一大関心事だった。

 スタイレムが中国市場向けの日本製生地販売を前期比1・5倍に拡大するなど、一部例外は除いて輸出拡大が顕著に表れた。

 例外は、2007年の輸出専任部署立ち上げ以来、初めて今上期が減収に転じた瀧定名古屋などだが、同社でも3年後に現状の倍増の50億円、さらにその先には縫製品も絡めた100億円の構想を打ち出しており、意欲は高まりこそすれ衰えていない。その他各社の輸出実績はおおむね大なり小なり伸びており、国内市場の不振とは裏腹に、輸出に活路を見出す生地商社の戦略が鮮明になった年だったと言える。

 一方、モノ作りの困難さは深刻化した。撚糸工程や染色工程、サイジング工程など各産地でボトルネックが顕在化し、発注者である各生地商社の頭を悩ませた。各社トップからは「産地との関係を改めて強化」といった方針が打ち出され、この方針を具現化できたところのみが商機をつかむことが再確認された。今後も日本で抜本的に生産スペースが拡大されることは考え難いため、製販連携を強固にすることが、生地商社の販売拡大により直結していくのは間違いない。

 瀧定大阪が為替デリバティブ解約違約金の220億円を含む特別損失300億円を計上したことも今年を代表する大きなニュースだった。名実ともに国内服地業界をけん引する同社に対して同業他社のトップから、「しっかりと経営を立て直し、業界をリードしてほしい」といったエールが相次いだことも印象的だった。