秋利美記雄のインドシナ見聞録(36)/退屈な街にはならないように

2017年03月21日(火曜日) 午前10時21分

 ベトナム人は路上のカフェや屋台が好きだ。朝な夕なに、涼しい風のそよぐ屋外のカフェに人々は集い、語り合う。ベトナムらしい生活の一こまだ。

 だが、こうした光景もそのうち見られなくなってしまうかもしれない。今年の旧正月前後からホーチミン市では歩道を歩行者に取り戻すという大義名分の下、歩道の違法占拠を一斉に取り締まる動きが始まったからだ。路上カフェのような商売はもちろん取り締まりの対象になるし、路上駐車、違法占拠建築物なども徹底して処分する方針を打ち出し、実行されている。これまでも、警察による取り締まりは頻繁にあったが、一過性のもので、取り締まられ、罰金を科されても、しばらくするとまたすぐに商売を始めていた。いわば、いたちごっこだった。

 だが、今回は違う。

 ホーチミン市第1区人民委員会のハイ副主席が自ら現場で出て、文字通り陣頭指揮を執っている。辞表をかけて断行すると公言して取り組む彼の姿は連日テレビや新聞で取り上げられ、多くの支持を取り付けている。というのも、一般市民はもちろんのこと、政府機関の建物であろうが、青ナンバーの公用車であろうが、強制撤去、レッカー車での車の移動など、容赦なく処分しているからだ。

 ホーチミン市は、街の中心である第1区を、シンガポールをお手本にして整備すると標榜(ひょうぼう)している。そのために、長年市民に親しまれてきた、トンタットダム通りに広がる旧市場もまもなく閉鎖されることになった。旧市場は、肉や野菜といった食料品から衣類などまで販売する路上屋台の集合体で、まさしく処分の対象になる。

 外国人バックパッカーが集まるブイビエン通りは夜な夜な路上で夜遅くまで旅行者でにぎわっている地域だが、これも道路や歩道での営業が禁止される。その代わりこの通りは、シンガポールのオーチャード通りなどに見習って歩行者天国にする計画がある。

 私はベトナムに来る前に2年弱シンガポールに住んでいたのだが、その頃からシンガポールはゴミのポイ捨てや歩きたばこ、横断歩道以外での道路の横断などには罰金を科すといった徹底ぶりだった。シンガポールは奇麗すぎて実に退屈だとシンガポール人の友人は口癖のように言っていた。

 街が整備され、奇麗になっていくのは歓迎すべきことだが、同時に個性が失われていくとつまらなくなる。東南アジアの都会は発展するとどこも同じ姿になりがちで、面白みに欠ける。整備するのはよいが、退屈な街にはなってほしくないものだ。

あきとし・みきお 繊維製品輸入販売会社カラコロモ〈東京〉代表、ミラン・コンサルタント〈ホーチミン〉副会長