特集 アジアの繊維産業Ⅰ(1)/高度化するアジア戦略/構造変化を見逃すな

2017年09月14日(Thu曜日) 午後4時39分

 日本の繊維産業はアジアのそれと連動した発展が欠かせない。素材と縫製の両面でその関係は継続して広く・深くなっている。中国が依然として不可欠な生産拠点として存在感を放つ一方、ここ数年、同国からの生産移管で受け皿となってきたASEAN地域は、域内・国内一貫生産に貢献する形で、素材産業を発展させ、その過程で、アジア全域にまたがってモノ作りの高度化が進展。同時に、こうした国々の高成長を取り込む、消費市場としての事業戦略も重要性が急速に高まってきた。日本の繊維産業はどのような戦略を取るのかを、本特集では2日間にわたって考察する。

〈“面”で捉えるモノ作り進展〉

 中国とASEAN地域とを組み合わせたサプライチェーンの構築が進展している。日本繊維輸入組合が財務省貿易統計を基にまとめた1~6月のアパレル輸入統計は、16年同期と比べると中国からの輸入点数が微増。ASEAN地域からの輸入も拡大基調だが、その伸びが落ち着いた。

 対日製品OEM/ODMで実需期まで引きつける発注傾向が強まり、地理的に近い中国からのQR調達が促進されている。ドル高人民元安傾向で競争力を増していることも背景だ。

 それでも、ある商社のベトナム縫製工場社長は「ASEAN地域への生産シフトが中国生産とせめぎ合いながら進んでいる」と語る。輸入全体に占める中国シェアは金額が61・6%(前年同期比1・3ポイント減)、点数が66・6%(0・9ポイント減)と下がる一方、ASEANからの輸入は金額25・4%(1・4ポイント増)、点数が24・2%(1・3ポイント増)と上昇した。過去の「圧倒的な中国生産」ではなく顧客の要望や為替の状況に応じて、こうした産地の使い分けが可能になっている点は注目すべきだろう。

 ASEAN諸国自身にとっても今後の成長戦略を描く上で、モノ作りの高度化が欠かせない。繊維製品を主要な輸出産業とするベトナムは、外資や外国の技術人員に頼る形で、川上・川中産業を育成し、繊維の総合産地化を目指す取り組みが最大の課題。インドネシアも自国調達できる素材を基盤に、縫製をSPA向けカジュアル、シャツ、スポーツ、スーツ、白衣といった得意分野へ特化させる方向にある。

 ASEAN地域を活用したサプライチェーン構築は、経済連携協定や自由貿易協定を活用した非関税メリットの創出が前提。人件費増などのコストアップや人員確保難が深刻化する中国生産の受け皿となっている理由だ。コスト低減、同地域を起点とした海外市場への進出と言う、日本の繊維産業にとっての課題も推進力となり、アジアのモノ作りを高度化させる。

〈変貌する各国の役割〉

 今年は、香港が英国から中国に返還されて20年、アジア経済・通貨危機から20年となる。この期間に遂げた両地域の変貌も“高度化”を視点に捉えることが可能だろう。

 香港は、ASEAN地域への生産シフトが進んでいる今、日本にとって繊維ビジネスでの役割が相対的に低下したように見えるが、欧米市場開拓をにらんで現地にあるバイイングオフィスに攻勢をかける動きが、むしろ重点戦略として役割が高まっている。ASEAN地域を面で捉えて域内で素材・縫製を一貫生産するオペレーションでは、香港に広域化したサプライチェーンを管理する機能を持たせるケースも多い。

 通貨の暴落を招いたアジア危機も、銀行の運営や金融システムの健全化で“乗り越えた”どころか、改めて力強い成長を示すようになった。有識者は口をそろえて「足元で懸念材料はなく、再び経済危機を起こすようなことはないだろう」との見解を示す。

 一人当たりGDPは5万ドルを超えるシンガポールを筆頭に、2万7千ドルのブルネイ。そして、9500ドルのマレーシアは欧州連合加盟国の下位国を上回り、1万ドルをうかがう。消費市場として、こうした国々の成長を取り込むかが課題となってきた。小売業、サービス業の進出が既に盛んにみられる。

 もちろん、1200ドルを超えたばかりのミャンマー、カンボジアもあり、域内格差は大きい。消費市場としての展開、生産拠点としての活用の仕方を見極めながらの高度化戦略が進んでいくことになる。

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 これらの観点から、今回の特集は「高度化するアジア戦略」をテーマにした。

 今日14日付特集の巻頭企画では、29日に国交正常化45周年を迎える日中関係が、今後どのような形でその互恵関係を発展させるべきなのかを日中友好協会の丹羽宇一郎会長と日中経済貿易センターの下村彬一副会長に話し合ってもらった。

 タイやインドネシアなどASEAN地域諸国を見舞った「アジア経済・通貨危機」から20年。改めて力強い成長を示す同地域が、その背景として何をどう変えて来たのか、どのような方向性を採るのかを有識者に聞く。さらに、消費市場としてアジアの成長を取り込もうとしている小売り企業の海外戦略を髙島屋グループの取り組みから探る。

 同じく15日付の企画では「高度化するASEANのモノ作り」を取り上げる。インドネシア、タイ、ベトナムに拠点を持つ日清紡テキスタイル、クラボウ、東亜紡織に課題と方向性を語ってもらい、縫製面でもサプライチェーンを支えるアパレルパーツ商社から島田商事、モリト、清原に現状と将来を聞いた。

 アジア諸国の中でも中国、台湾、タイ、インドネシア、ベトナムについて現地リポートは、14、15の両日お届けする。日本からは見えにくい現地の実態を伝えることができるだろう。

 日本でもアジア戦略を積極的に進展させている企業も多い。ミャンマー、バングラデシュのケーススタディーを取り上げるのと同時に、さまざまな繊維企業の取り組みについても「わが社のアジア戦略」として14、15日に紹介する。