秋利美記雄のインドシナ見聞録(42)/フランス文化の名残が消えていく

2017年09月19日(火曜日) 午後4時45分

 フランス人がベトナムにもたらしたコーヒー文化はしっかりと現地に根付き、わがホーチミン市でも街を少し歩けば、そこかしこのカフェで人々がコーヒーを楽しんでいる姿が見られる。しかし、近年はお茶、もちもちしたタピオカの粒が入ったミルクティーがとりわけ、若者や女性客らを中心に人気を集めている。

 コーヒーは嗜好(しこう)品なので、飲まないという人々がベトナムでもいる。これまた嗜好品かもしれないが、お茶は、老若男女を問わずより大勢の人々に受け入れられやすい。今ベトナムではやりのタピオカ入りミルクティーは、以前は若者向けの飲物の感が強かったが、最近では広範囲の年齢層に受け入れられている。

 ここ3~4年は、台湾などの外資ブランドのチェーン店の進出・展開が目覚ましい。こうした「お茶屋」が多いという若者の街フーニュン区ファンシックロン通りに行ってみたところ、Toco-Toco、Chatime、ChaGo、Bobapop、Tra Tien Huong、Gong Cha、Koi The、Ding Tea、T4などほとんどの有名チェーン店が勢ぞろいしていた。コーヒーをメインとした従来のカフェはこの地域にももちろんあるものの、お茶屋勢に押されて旗色が悪い感があった。かなり乱暴だが、コーヒーは年配の大人や男性客向け、ミルクティーは若者や女性客向けといった区分けがあると言ってもいいのかもしれない。

 かく言う私自身も五十男で、カフェに入ってアイスコーヒーを頼むのが常。こうした若者向けの、いわゆるお茶屋には入ったことがなかった。だが先日、たまたま待ち合わせでこの手のしゃれたお茶屋に入る機会があった。ホーチミン市の中心、ZARAやH&Mのテナントが入居するショッピングセンター内にある台湾資本のGong Chaというブランドの店だ。

 多くの会社で仕事の終わった後の午後6時、待ち合わせのために店に入ると店内は席がないくらいに混んでいた。待ち合わせ相手の案内で人気のタピオカ入りミルクティーを注文した。注文カウンターには列ができるほど大勢の客がいたため、注文してからお茶が出てくるまで結構な時間待たされた。それでも、次から次へと客が入る。ようやく出てきたミルクティーを一口飲むと、なんとも言えない甘ったるい味が喉を通り抜けていった。かつて住んでいたシンガポールのホーカーで飲んだミルクティーの味が自ずと思い出された。

 フランス文化の名残がまた消えていき、アジアの文化に染まっていくことを素直に喜んでいいものかどうか、ちょっと考えてしまった。

あきとし・みきお 繊維製品輸入販売会社カラコロモ〈東京〉代表、ミラン・コンサルタント〈ホーチミン〉副会長