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2017秋季総合特集(6)/top interview/富士紡ホールディングス/黒子戦略が利益押し上げ/社長 中野 光雄 氏/繊維は意識改革に道筋

2017年10月23日(Mon曜日) 午後4時11分

 富士紡ホールディングスは、中期経営計画「加速17-20」で掲げた収益力の強化を着実に進めている。中野光雄社長は、研磨材、化学工業品、繊維の3事業で、提案型受託製造という「黒子」に徹したビジネスへの転換を急ぐ。「自前の販売にこだわっていた繊維事業でも、他社とのコラボレーションなどで成果が出始めた」と手応えを口にする。AIやIoTといった第4次産業革命の追い風に乗り、さらなる成長を目指す。

  ――今後を生き抜くための独自性追求はどのように。

 黒子企業という当社独自の考え方を基軸にしていることが特徴的です。もちろん、インナーブランドの「BVD」のように、最終製品を作って、手張りで売っていくということもやっていますが、どちらかと言うと、お客さまの商品を作る手助けをする商材を受託して、生産・供給する黒子的なメーカーとしての存在感を高めていこうと考えています。

 研磨材と化学工業品の2事業はまさに受託製造のようなビジネスになってきています。基本技術や基本製品は当社が持っていて、どういうスペックが欲しいのかを共同で研究開発したり、お客さまが欲しいというものを共同で作り上げたりして供給しています。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)、ロボットといった成長分野を中心に、当社の部材に対する需要が大きく、今後さらなる成長が期待できます。これに対し、これまでの繊維事業は、自社で作ったものや売りたいものを手張りで売ってきました。しかし、こうしたビジネススタイルはリスクが大きい。つまり、お客さまは買ってほしい分だけ買っていただけるが、売れなければ戻ってきます。在庫が膨らみ、在庫が減らないために生産を抑制しなければならないという悪循環に陥って不良在庫を抱え、収益を圧迫します。

  ――2015年ごろから、繊維事業の悪い流れを断ち切るために、構造改革に乗り出しました。

 ずいぶん前から、受託生産のメーカーになろうという方針を打ち出していましたが、社員の中には、「受託=下請け」というマイナスイメージにとらわれてしまう人が多く、意識改革はなかなか進みませんでした。しかし、そもそも業界全体としても、日本製は価格が高く、需要が落ちている。高価格帯の製品は、新興国の製品と原価が違うため、「日本製は利益が確保できない」という時代です。特殊な製品を作っても、買ってもらえなければ仕方がありません。

 生産規模の適正化がまず必要でした。生産規模が小さくなると原価を下げることができないという理由で反対の声もありましたが、大分工場の錘数削減に踏み切ると、1年もたたないうちに在庫がなくなり、営業が無理してまで売る必要もなくなりました。

  ――2017年度上半期(17年4~9月)の業績見通しは。

 研磨材は前年が2年に1度の需要期だったため反動減があり、化学工業品で生産が“後ろ倒し”になったことの影響がありますが、課題の繊維事業の構造改革が終了したこともあり、ほぼ想定通りの数字になるとみています。

  ――繊維事業の業績はどの程度改善したのですか。

 昨年は構造改革の影響で近年にないぐらい落ち込んだため、その反動で大きく浮上します。一部の子会社では、主力の百貨店販路が振るわず、無理をした事業展開になっていたため、店頭在庫を含め抜本的に見直した結果、営業赤字からプラスになります。テキスタイルは紡績が在庫と錘数を減らし、コンパクトで操業させたらフルに回り、利益性が改善しました。BVDはレディースの拡販に力を入れたほか、メンズは赤字商品を整理し、Eコマース(EC)も安定して利益を稼ぎ出すようになりました。足を引っ張っていたコンビニ関連は撤退しました。

  ――大きな赤字を出す部門はなくなったのですか。

 通期で見るとないでしょう。その上、利益率に対する考え方も浸透してきました。これまでは、売上総利益重視の考え方だったため、売り上げを増やせば利益が増えるという発想でしたが、売上総利益ではなく、本業のもうけである営業利益を重視するよう指示しました。営業利益を意識させることで、在庫もなく、引き取りのための物流費も削減でき、販売管理費が下がるという受託製造のメリットに気付いてほしかったからです。上司から若手への指示が浸透し、自分が担当している商品がもうかっているかを考えるようになりました。

 結果として、OEMの比率がかなり上がっているほか、BVDでは、総合流通グループとのコラボレート商品など、成功例も出ています。ユーザーから要請されて作るのではなく、当社の技術を持って提案し、相手の要望を聞いてモノ作りをするという取り組みは、お互いにとって無駄のない効率的な仕事のやり方です。それは、単なる「待ち」の営業ではなく、ユーザー主体で商品を考える積極的なマーケティングです。

  ――下半期(17年10月~18年3月)の事業環境はどうですか。

 繊維事業は決して良くありません。特にメインの量販向けの肌着は売る場所が減っています。こうした状況を打開するために、積極的にお客さまと対話してコラボビジネスを展開するほか、ECやテレビショッピングなどに力を入れています。この分野の人材を獲得するのは難しいですが、社内教育を充実させるなど、優秀な人材の確保を急ぎます。一方、急拡大している研磨材事業や、成長が期待される化学工業品事業は、研究開発や設備投資を積極的に行い、旺盛な需要に対応していきます。

〈25年前のあなたに一言/語学習得の機会を勝ち取れ〉

 25年前は大分工場の工務課長だった中野さん。タイのタイフジボウテキスタイル(TFT)の操業に対応し、「いつかは、タイ工場に赴任する」覚悟を決めていた。全社の管理職を対象にしたタイ語の研修を受けて「成績は上々」だったと話す。

 ところが、タイ行きの辞令は出ず、代わりに憧れの街である東京へ転勤。その後、経営トップにまで昇り詰めた中野さんはタイ工場を視察した際、成績の悪かった人たちがペラペラになり、自分がほとんど話せないことにショックを受ける。「あのとき、現地に行くチャンスがあれば……」と悔やんでも後の祭り。同じ思いを若手社員に味合わせたくないと、社内の語学研修を充実させている。

〔略歴〕

 なかの・みつお 1973年富士紡(現富士紡ホールディングス)入社。1998年機能資材部長、2002年機能品事業部長兼機能品部長、04年取締役知的財産担当兼機能品事業部長、05年取締役知的財産担当兼執行役員兼柳井化学工業社長、06年代表取締役社長社長執行役員。17年から会長兼務。