タイ/スタートアップの挑戦(前)/資金調達額が前年比2割増 VCなどで出資加速、日系も注視

2018年02月14日(Wed曜日) 午前11時6分

 タイでスタートアップ企業への出資が加速している。2017年にベンチャーキャピタル(VC)などが出資した額は、前年比23%増の1億560万ドルで、過去2年で約3倍に拡大した。インターネットの普及などでデジタル化が進み、電子商取引(EC)分野を中心にスタートアップ企業が台頭する中、タイで事業拡大を狙う日本企業の投資熱も高まっている。今日から2回に分けてスタートアップ産業の現状を追う。

 バンコクの中心地にある緑に囲まれた施設内の一角。タイのスタートアップの先駆者であるHUBBAのコワーキングスペースには、タイ人や外国人がパソコンを持ち込み、作業にいそしむ姿が見られる。HUBBAの創業者であるアマリット氏は「スタートアップの機運が高まっている。企業数は今年、昨年の600社から千社に拡大するだろう」と予測する。

 HUBBAの関連会社で技術系メディアのテックソースによると、タイのスタートアップ企業が調達した資金総額は、11~14年に年3倍以上の成長を維持。15年には前年比2割減少したが、16年には2・6倍に増えた。11~17年に資金調達した企業数は計90社。最も多かった業種はECの29社だった。フィンテック(ITを融合した金融サービス)が12社、物流が11社、決済サービスが11社、食品・レストランが9社などと続いた。

 17年の大型案件では、タイを拠点にECプラットフォームを展開するエーコマースが、シリーズBの資金調達(新興企業による第2段階の資金調達)で、最高額となる6500万ドルを調達。米投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下のエメラルド・メディアやスイス系流通大手DKSHなどから資金を獲得した。

 これに続き、衣料品のECサイト「ポメロ」を運営するポメロ・ファッションが、流通大手セントラル・グループなどから1900万ドルを調達。このうち日本で衣料品のECサイト「ゾゾタウン」を展開するスタートトゥデイからは100万ドルの出資を受けた。

〈日本企業の出資加速〉

 EC関連の企業が多額の出資を獲得できたのは、政府が推進する「デジタルエコノミー」政策やスマートフォンの普及を追い風に、タイのEC市場が堅調に拡大を続けていることが背景にある。商務省はEC市場の規模を年率20%で成長させ、16年の2兆5200億バーツから、21年に5兆バーツに倍増させる方針を表明。今後もECサイトへの投資熱が続くとみられている。

 中でも美容・ファッションはオンライン販売で好調な分野の一つ。スタートトゥデイの広報担当者は、「ASEANはファッションとIT分野のスタートアップ企業が台頭している時期で、アーリーステージ案件の投資機会に恵まれた市場」と指摘。同社は昨年に投資したポメロのほか、15年9月にはタイのECサイト「ウェアユーワントドットコム」、16年3月にマレーシアのECサイト「ファッションヴァレットドットコム」の運営会社に出資するなど、東南アジアでの投資を加速している。

 ECサイト以外では、伊藤忠商事が昨年にタイでファイル管理アプリなどを開発するエコ・コミュニケーションズに100万ドルを出資すると発表。タイのスタートアップ企業への投資は初めてで、これまで日本や米国が中心だったスタートアップ企業への投資を、アジアでも強化していく方針を示している。

 これまでスタートアップ企業への出資は、株式の売却益(キャピタルゲイン)を得るための投機目的であることが多かった。一方、革新性のある製品やサービスを持ち、現地に精通したスタートアップ企業に出資することは、企業がタイで事業を拡大するための手段の一つになりつつある。

〔NNA〕