タイ/スタートアップの挑戦(後)/起業環境の未整備が課題 政府は支援強化、日本機関と連携

2018年02月15日(Thu曜日) 午前10時40分

 タイで台頭するスタートアップ企業に注がれる視線は熱いが、課題もある。業界からは起業環境が未整備であることや、イノベーション創出に向けた人材不足などを嘆く声が上がる。多くの企業が最新技術の導入を模索する中、タイ政府は日本の機関と連携するなど、スタートアップ支援に本腰を入れ始めている。

 昨年はスタートアップ企業への投資額が拡大しただけでなく、地場企業によるコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)の設立数も前年比4倍の12社に増加した。中でも目立ったのは不動産企業で、アナンダ・デベロップメントやSCアセット、サンシリがCVCを設立した。

 タイでコワーキングスペースを展開するHUBBAの創業者、アマリット氏は「バンコクを中心にコンドミニアム(分譲マンション)の建設が相次ぐ中、不動産企業はより一層の差別化が求められてくる」と指摘。「プロプテック」(ITを活用した先進的な不動産サービス)を採用した住宅作りの機運が高まるとみられ、今後は不動産企業によるスタートアップ企業への投資がさらに加速するとの見方を示した。

〈東南アの資金調達、タイは2%〉

 多くの企業がスタートアップ企業の重要性に気付き、出資や買収などを進める中、起業環境の整備が不十分だとの見方も出ている。技術系メディアのテックインアジアによると、昨年の東南アジアのスタートアップ企業への投資額78億6千万ドルのうち、タイは2・2%にとどまった。最も多かったのはシンガポールの71・2%で、インドネシアが22・1%と続いた。アマリット氏は、シンガポールは政府による手厚い支援、インドネシアは大規模な人口が強みになっているとの見方を示した上で、「タイでは起業を支援する環境がまだ不足している」と指摘する。

 こうした状況下、タイ科学技術省の国家革新機関(NIA)は昨年、日本の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とスタートアップ支援に関する協力覚書(MOU)を締結。NEDOはタイで人材育成などの支援環境の構築や、新技術の発掘を支援するほか、日本の技術を活用した起業支援などを提案していく。

 NEDOの担当者は「人工知能(AI)などのディープテック分野では、大学など学術機関の支援体制の構築が重要になる」と指摘。国立キングモンクット工科大学ラクラバン校(KMITL)によると、タイのAIとロボットの技術者は現在2千人程度にとどまっているが、需要は拡大しており、新たに毎年1万人が必要とされている。

 国立チュラロンコン大学は、政府や民間企業などと協力して、イノベーションと起業を支援する事業を行う方針で、バンコクで3月に拠点となる「サイアム・イノベーション・ディストリクト(SID)」を開所する計画。学術機関による人材育成にも力が入り始めている。

〈政府支援も続々〉

 行政による支援も進んでいる。政府は2016年に国家スタートアップ委員会を設立し、法人向けの税優遇策や、外国人の専門家や起業家向け長期滞在査証(ビザ)「スマートビザ」発給を含む5カ年(16~20年)計画を策定した。

 工業省中小企業振興事務局(OSMEP)は本年度(17年10月~18年9月)の予算で、スタートアップ開発や起業促進向けに12億7千万バーツを計上。政府貯蓄銀行(GSB)、中小企業開発銀行(SME Bank)、クルンタイ銀行の3行が、スタートアップ企業との共同事業向けファンドに各20億バーツ、計60億バーツを拠出することが閣議承認されるなど、資金面での支援も相次いで発表されている。

 スタートアップではECやフィンテック(ITを融合した金融サービス)が注目を集めがちだが、タイは食品の輸出国である強みを生かし、農業や食品加工業とITを融合した「アグリテック」や「フードテック」の分野などでも成長の可能性がある。急速に進む高齢化を背景に、医療とITを融合した「ヘルステック」の需要も見込まれ、今年はスタートアップ企業のさらなる多様化が予想されている。(おわり)〔NNA〕