繊維街道 私の道中記/鈴木靴下 社長 鈴木 和夫 氏 (4)

2018年03月01日(木曜日)

目先のニーズより基礎固め

  「歩くぬか袋」の発売当初、営業経験の乏しい鈴木は、小売店舗へ商品採用を得るまで苦労が続いた。

 そこでまず、商品の美肌効果や素材・成分の安全性を専門機関で徹底検証することを考えました。生地試験に比べ、被験者の必要な皮膚の臨床試験には多額の費用と時間がかかります。それでも、肌トラブルなどに対しては万全にしようと、検査のための助成金申請から保湿メカニズムまで、それこそ“勉強嫌い”の私には経験のないあらゆることに取り組みました。

  安全性に加え保湿機能の裏付けも得て、確信を持って訴求を進めたことで、やがて百貨店や雑貨店でも採用が広がる。12年には米ぬかオイル配合シリコンをかかとにプリントした「かかとケア靴下」など後続商品も開発。発売後10年で「米ぬか」シリーズは30万足以上のヒットが続く。

 実は、機能性繊維自体には、“食わず嫌い”もありました。ただ、以前のゴルフ靴下のような特殊形状・単一品種のニッチ商品では、商品陳腐化に負けないサイクルでの新商品開発は中小メーカーには至難の業です。素材ならタオルやハンカチなど靴下以外の製品にも使え、生地や糸の販売もできます。実際、企画の幅も広がり、各種ウオーマーや就寝用手袋なども自社で販売するようになりました。

 米ぬか繊維SKも、30~60単糸の綿混紡糸4種類を基本に、アクリル・ウール混バルキー糸や夏用ポリエステル混紡糸、レーヨン100%糸まで9種類を原料で在庫し、タオルメーカーを皮切りに、パジャマメーカー、肌着メーカーなどに向け、多用途に原料販売を手掛けています。

  独自原料を持っても、他分野への積極営業より、安全性や効果の精確な検証を優先する姿勢は崩さない。

 米ぬか繊維SKは「エコテックス」認証を取得して、今年11年目。11年には日本アトピー協会にも入りました。大手メーカーほど信用のない中小企業が独自開発した原料を各種何トンも在庫するのですから、あらゆる面でデータを用意しておく必要があります。

 この姿勢は元をたどれば、皮膚科医、河合亨三先生の教えによるものです。独自原料の皮膚への影響を学ぶために幾つかの検査機関を回った後、最後に門をたたいた京都の日本産業皮膚衛生協会の当時の会長で、従来の閉鎖法に代わる皮膚刺激判定用のパッチテスト「河合法」の開発者です。

 開発経緯にはより精確な検査法を求める大手合繊メーカー数社の要請があったと後に知りました。ある大手インナーアパレルは以後、この方法しか用いないほど業界が絶大な信頼を寄せる権威から、「売るための目先のニーズ」より「ウォンツの素になる基礎固め」を優先する姿勢を教わったことはお話しした通りです。

  後に鈴木は同協会技術委員会の分科会にも参加する。

 入った繊維関係の第一分科会は、合繊、加工薬剤メーカーからインナー、靴下アパレル大手の会員ぞろいで中小企業は当社1社。技術畑の人間が集まり、冗談の一つもなく繊維の機能と皮膚への影響の議論で、当初は英語を聞く心地でした。入会10年で、繊維業界最先端の知識を鍛えられると同時に、最前線の開発課題も知ることができました。

 鈴木の道楽、商品開発への愚直な思いがまた高まる。

(文中敬称略)