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特集 アジアの繊維産業Ⅱ(1)/特別対談/スマートファクトリーへの方途/分配得るには「何か」が必要/村田機械 執行役員 技術統括部長 平尾 修 氏×島精機製作所 取締役トータルデザインセンター部長 中

2018年03月29日(Thu曜日) 午後4時5分

〈工程の関係は円環型へ(中嶋氏)/誰がどうとりまとめるか(平尾氏)〉

 スマートファクトリーの実現に欠かせないのが機器や設備、システム。その開発、供給がスマート化実現の鍵を握ると言っても過言ではない。繊維機械メーカーの雄、島精機製作所と村田機械にスマート化への課題や将来像を語っていただいた。

  ――まず始めに、両社の基本的なスマート化への考え方やIoT(モノのインターネット)事業を紹介ください。

 平尾氏(以下、敬称略) 数年前から「ムラテック スマート サポート」(MSS)に力を入れて取り組んでいます。お客さまに導入いただいた当社の機械の状況を“見える化”するサービスです。当社の製品であるボルテックス精紡機や自動ワインダーの稼働データ、不良率のデータを、収集装置を使って取得します。それをお客さまご自身が分析し、生産や稼働効率の向上などに役立てていただくことができます。当社サーバーとネットワーク経由でつないでいるお客さまには、収集データから機械の状態をモニタリング、分析して定期的にレポートをお送りするサービスもあります。

 中嶋氏(同) 統合的には2014年からニット専用生産統合システム「シマ ニットPLM」という形でIoTを推進しています。昔から個別の要素技術は進めてきましたが、ニットPLMの大きな柱を紹介しますと、設計側はプロダクトデータマネジメント(PDM)と言われるようなものをソフトウエアとして準備していまして、一方、工場側は村田機械さんと全く同様のアプローチで、「シマ プロダクション リポート」(SPR)として展開しています。有線で編み機をつなぎ、そのレポートデータをパソコンやスマホなどで千台までウオッチできるというものです。稼働状況や不良状況、稼働率などを生産報告として出します。今は3世代目としてSPR3という商品名で展開しています。 

  ――それぞれ、反響なり導入状況はいかがですか。

 平尾 当初はお客さまのIoTニーズが高まっていなかったのか、普及が進みませんでしたが、ここ1~2年で導入台数がかなり増えています。アジアでは約400社に導入いただいており、インド、中国、パキスタン、東南アジアで全販売台数の8~9割を占めます。当社のサーバーにつなぐシステムを導入していただいているのは全体の半分強で、お客さま独自のデータ管理をされているケースも多々あります。機密情報である生産データを外部に出したくないという声があるのは事実ですね。

 中嶋 15年以上前から販売しているSPRについて言えば、3世代を合算して約250セット導入していただいています。編み機の稼働管理のシステムですから、海外の大規模工場が導入事例の大半です。工場には経営者とワーカーという構図があります。経営者は現場を把握しておきたいという思いが強いようで、それが導入の理由になっているようです。SPR1とSPR2は当社サーバーとの連動機能がなかったのですが、SPR3にはあります。

  ――経営者(管理者)と現場のワーカーとの意識格差が大きいところほどこうしたシステムやソフトを必要とする傾向が強いのでしょうね。

 中嶋 そうですね。それと、横編み機は紡績機などと比べて工場の規模が小さいところが多い。伴って、工場の管理というよりも、テックパックと言われる設計データをどうマネジメントするかが重要になります。デザイン情報から生産情報までをどのようにうまく流していくか。企画者や発注者がA社、B社、C社に仕事を依頼する際に、どうやって均一的にモノを作ってもらえるか。これが大きなテーマだと思います。

 平尾 当社の機械は準備機械です。従って、前後の工程があり、もちろんそこには別の機械メーカーさんが存在するわけです。本当はわれわれが持つデータを前後の工程にもフィードバックしていきたい。しかし、個々の機械メーカーではデータベースが違うので難しい。どこがイニシアチブを取るのかも含め、全体でスマート化を目指す際の最大の課題はここにあると思いますね。

 中嶋 紡績機と違ってわれわれの分野は工程が簡素。ただ、糸は供給に頼らないといけない。最終ユーザーであるニットメーカーがさまざまな糸情報を得られるように、糸メーカーの情報を作らないといけない。そう考えるわけです。ビジネスの距離感を短くするというイメージでしょうか。これがニットPLMの最終的な姿になるはずです。単なるプロダクションではなく製品作りの全体的な最適化。ここに向けてIoTも当然必要になりますが、私の感覚では、スマートファクトリーという言葉よりも、スマートプロダクション(全体最適生産)という言葉を標ぼうしたいと考えています。

 平尾 先ほども申し上げましたが、当社設備の工程の前後にも設備と工場があるわけで、ここを埋めることがスマート化への道なのですが、サプライヤーとバイヤーの壁、管理者とワーカーの壁などがあります。正直、(スマート化への)壁の高さを感じています。

 中嶋 収集した情報を誰が統合し、どのように使うのか。それが整理できていないのが現状です。誰かが音頭を取らないといけないのでしょうね。

  ――繊維産業のスマート化に向けた課題を改めてお話しいただくと。

 中嶋 まずは隣同士をつないでいく。企画、生産、販売という縦の関係ではなく、販売から企画のところに素材情報が届くなど、円環型につないでいくことが大事だと思います。

 平尾 スマートファクトリーという意味で言えば、やはり工程間をつなぐことが課題ですね。各社のソフトウエアやデータベースのフォーマットの違いをどうまとめるのか、また、お客さまの狙いともすり合わせていく必要があります。当社のMSSもあくまでそのプロセスの一部です。

  ――例えば、紡績工程と織布工程がスマート化について議論するような動きはあるのでしょうか。

 平尾 日本の機械メーカーさんとは不定期の技術交流の場を持っていて、最近はスマート化の話題も出ます。しかし、コラボまでは至っていません。工程が違えば、狙っているところやミッションも違うわけですから、なかなか難しいですよね。

  ――むしろ機械メーカー側ではなくユーザーの側から提案があったほうが(スマート化が)進むのかもしれませんね。

 中嶋 そうした動きが今後出てくる可能性は大いにあるでしょうね。

  ――売り場まで含む全ての工程をつなぐことが理想なのだと思います。それにより効率的な生産が実現し、コストも下がる。そこで問題になるのが、生じた利益を誰が得るのか。この問題をどのように考えますか。

 平尾 分配の難しさはありますよね。先ほどの指摘にもありましたが、お客さまに提案してもらい、分配まで決めてもらえるとスムーズかなとは思います。ただ、提供する側であるわれわれもきちんと考えていかなくてはいけない問題だと思います。

 中嶋 工場の稼働保証などの取り決めが必要でしょうね。それぞれが設備投資分も含めて利益を享受できるように分配しないと成り立ちません。企画、生産、売り場が円環の関係になっていくというのはそういうことです。

  ――スマート化によって効率化や“見える化”が進むと、他では代替できない「何か」を持っていないとネットワーク化されたサプライチェーンの中では存在していけなくなるのではないでしょうか。

 平尾 MSSは、機械の稼働データを蓄積していくことで、将来的には遠隔保守や自動診断まで実現するつもりです。これが当社にしかできない「何か」になると考えています。

 中嶋 各社には固有のデータや意匠があります。こうした知的財産権のようなものが確立していき、なおかつ稼働保証などのビジネス面の交通整理が成されれば、各々が分配を得られることになります。今は(知的財産権が)コントロールできていません。きちんとコントロールできてくれば、それが企業のアイデンティティーになります。

  ――繊維業界はスマートファクトリー化が進みやすい業種ともいわれます。

 平尾 お客さまの要望も強いですし、自動化を全力で進めていきます。最終的にはオペレーターレスというイメージを持っています。今までオペレーターがやっていた仕事を機械で代替する。カメラやセンサーを駆使すれば可能だと考えています。当社が扱う自動ワインダーのオペレーター作業は単純な作業も多いので、自動化しやすい工程だと考えています。その先に、ネットワーク化があるというイメージですが、当社や当社のような業態が単独で進めるには工程間の壁が高いというのが現時点での認識です。

 中嶋 「ホールガーメント」(WG)で縫製工程は不要になったが、検品や仕上げは依然必要です。この部分をどうしていくのかが課題の一つです。まずはWGを拡販していくことが当社の目的です。これまでは人件費が上昇するとWG化が始まるという流れがあり、今後も世界中で人件費が上がっていくことからWG化は強まっていくでしょう。そうなれば、前工程である糸の均一化がより求められますし、検品、仕上げという後工程をどうしていくのかという問題もより出てきます。当社としてはWGの機能強化を追求しつつ、全体の工場としての省人化、自動化、スマート化を同時に注視していく必要があります。自動化の方向性はさまざま。当社として何ができるかを研究していきます。

  ――ありがとうございました。

ひらお・おさむ

 1986年村田機械入社。11年繊維機械事業部紡機開発グループ課長、14年繊維機械事業部紡機開発グループ部長などを経て17年6月から現職

なかしま・としお

 1974年三井造船入社。86年島精機製作所入社。2000年シマセイキUSA社長、04年輸出部部長、07年シマセイキITALIA社長、11年取締役海外営業部長、13年から現職