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特集 高性能繊維/伸びる需要に性能で応える/用途開拓も積極的に

2018年09月13日(Thu曜日) 午前11時56分

 高性能繊維、スーパー繊維が順調に動く。先進国と新興国の両方で需要が旺盛で、販売を伸ばす国内メーカーの姿が目立つ。一方で海外品との競合も激しさを増し、各社は品質を前面に押し出して対応する。新用途の開拓も加速の様相を呈しており、今後は一般衣料などでの活用も増えるとみられる。

 産業資材や防護衣料、インフラ関連など幅広い分野に用いられる高性能繊維、スーパー繊維。需要は拡大を続けているが、中でも注目されているのが耐切創手袋分野と言える。海外製の安価品の登場で裾野が広がったほか、企業の安全意識の高まりが市場を下支えする。

 用途開拓も進められている。目が向けられているのがアウトドアを中心とする一般衣料用途となる。極細糸や快適性(動きやすさ、吸汗性など)を付与した生地の展開が充実し、実際に採用されるケースも出てきている。“本物の機能”として訴求がしやすく、一般衣料への採用は増加傾向にある。

 具体的な商品開発では、帝人がメタ系アラミドを中心に国内産地企業との連携を深め、ファッション性の高い生地や吸汗性に優れた生地の開発を行っている。東レ・デュポンはパラ系アラミド繊維「ケブラー」で55デシテックスや83デシテックスといった“極細ケブラー”の開発を済ませている。

 高性能繊維、スーパー繊維の需要は世界的に見ても増えているが、今後は中国企業や韓国企業などによる増産も予想される。国内メーカーはどのように対応し、一層の成長につなげるのか。注目される。

〈クラレ/生産能力30%増へ/高強力繊維「ベクトラン」〉

 1990年にクラレが世界で初めて工業生産を開始したポリアリレート系高強力繊維「ベクトラン」。現在の年産能力は千㌧で、1、2年ほど前からフル生産の状態が続いている。

 このため「近い将来に生産能力を30%増やしたい」と松尾信次繊維資材事業部長は言う。物性のばらつきを少なくするための新たな製造プロセスの開発にも取り組んでおり、その導入も想定した設備投資計画を組んだ。

 ベクトランは、分子と分子の結び付きが非常に強い液晶ポリマーを原料としているため、「スーパー繊維」と言われるほどに強く、引っ張っても切れにくいことが最大の特徴だが、それだけではない。水を吸いにくい、伸びにくい、摩耗に強いなどさまざまな特徴がある。

 1997年と2004年に火星に着陸した探査機に、ベクトランを使用したエアバッグが採用されたのは、低温特性、耐切創性、そして吸水性の低さなどが評価された結果だった。

 ベクトランは現在、船舶の係留用ロープや、車両などの重量物を持ち上げるためのスリングベルトなどに使われている。これらのロープ、ベルトがベクトランの主用途だが、それ以外にもさまざまな用途がある。

 ゴルフクラブやテニスラケットの打感を良くするためにも、ベクトランは用いられる。衝撃を吸収する性質があるからだ。欧州では、ライダー用デニムパンツの素材としても採用された。クラレ自身が、ベクトラン使いの防災用テントを、「ジオダイナ」ブランドで販売してもいる。緊急時の現地対策本部、避難用住居、医療・救護スペースなどとして開発したもので、居室空間として十分な広さを持ちながらも、少人数で設営できる軽量設計になっている。

〈帝人/アラミドの展開領域拡大/アウトドア分野など狙う〉

 帝人のアラミド事業本部は、メタ系アラミド繊維の展開の幅を広げている。北陸を中心とする産地企業との共同開発によって快適性などを付与した生地が提案できるようになり、幅広い用途での活用を可能にした。主力の一つと位置付ける防護服分野の深耕のほか、アウトドア分野などの需要獲得も狙う。

 メタ系アラミド繊維は、フィルターや防護服などが主用途になる。このうちフィルターは中国向けの収益性が低く、他用途への転換が成長への鍵になっている。同事業本部も防護服用途へのシフトに力を入れており、国内産地企業との連携深化で、ファッション性の高い生地や吸汗性に優れた生地を開発してきた。

 これらの生地はアウトドアメーカーらの関心も集める。アウトドア分野では、防炎性などの機能が評価されて、アウターやパンツで広がりが見えてきた。防護服(消防服)などにも活用されているメタ系アラミド繊維が“本物の繊維”であることが消費者の心をつかんでいる。

 衣料領域では防護服への提案が引き続き中心となるが、アウトドア分野の開拓も強化する。フリースなどの開発を既に済ませているほか、「メタ系アラミド繊維100%のセーターを作りたい」(同事業本部)とし、挑戦も始めている。用途開拓には染色性の高い「コーネックス・ネオ」が貢献するとみる。ターボチャージャーホース用途や日本国内のフィルター用途も重点を置く。

 パラ系アラミド繊維は、「テクノーラ」で能力増強を終え、「トワロン」も2018年度からの5年間で生産能力を25%増やす。

〈東洋紡/高強力ポリエチレン繊維好調/「ツヌーガ」は設備増強〉

 東洋紡は、高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」「イザナス」の販売を伸ばしている。ツヌーガは耐切創手袋の需要が拡大を続けており、生産能力の増強を決定した。イザナスはロープ用途が堅調に動いているほか、釣り糸向けの新商品の開発を済ませた。これらは来年度から業績拡大に寄与してくると期待する。

 ツヌーガは、イザナスと比べると強度は劣るが、耐切創性は同レベルを誇る。一方で価格は安く、自動車工場などで用いられる耐切創手袋(フィラメント使い)向けの展開が伸長。フル生産・フル販売が続き、今後も成長が見込めることから生産能力を増やす。

 敦賀事業所(福井県敦賀市)の工場に設備を導入する。現在の年産千㌧の1・5倍となる1500㌧体制とし、2019年10月の稼働を計画する。耐切創手袋の需要は年率5%で拡大していると推測され、増強による供給過多の心配はないと判断している。

 イザナスの動きも順調だ。中国品の流入で価格抑制要求が強くなっているが、同社は「糸の性能で勝負する」と力を込める。性能が生きる用途の一つが釣り糸で、「SF」シリーズを新たに商品化した。単糸繊度が7デシテックス、3デシテックス、2デシテックスの3種類をそろえる。2デシテックスタイプは現行品と比べて、強度を30%高めた。

 PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維「ザイロン」は用途開拓に引き続き注力する。

 ツヌーガの増強やイザナスの新製品(SFシリーズ)販売などは来年度から業績に大きく寄与してくる見込み。イザナスは20年度にかけて設備投資の判断を行うとしている。

〈東レ・デュポン/用途と顧客の開拓に力点/安全分野で領域広げる〉

 東レ・デュポンは、パラ系アラミド繊維「ケブラー」の新用途や顧客開拓に力を入れている。主力の自動車関連の深耕はもちろん、耐切創手袋をはじめとする“安全分野”の拡大にも視線を注ぐ。安全分野では、火山噴石の被害を防ぐ屋根補強材などでも実績が増えており、さらなる用途開拓に注力する。

 ケブラーは、しなやかさや軽さ、引っ張り強度に優れるといった特徴を持つ。自動車関連用途がメインとなっているが、軽量・快適をキーワードに高性能タイヤなどで採用が拡大、安全分野でも、手袋以外にサポーターや作業エプロンなどのアイテムが広がっている。

 現在は自動車関連と資材向けがともに順調な動きを見せており、用途や顧客の開拓を図ることで一層の成長につなげる。企業の安全意識の高まりで伸び代が期待できる耐切創手袋は短繊維紡績糸を使った厚手タイプのほか、長繊維使いの薄手タイプ(18ゲージクラスも開発)の提案も強める。

 耐切創手袋分野でのケブラーブランドは認知度が高まってきたが、鉄鋼関連など採用が進んでいない業界もあり、作業内容や求められる機能に応じた商品を提案することにより採用につなげる。

 技術センター「ケブラーテクニカルセンター(KTC)」を基点に新規顧客開拓にも努める。これまでは既存顧客との打ち合わせなどに利用するケースが多かったが、今年からは新規顧客の招待を拡充。ケブラー使用の製品を見ながら、顧客に活用の可能性を見つけてもらい、新規ビジネス創出につなげる狙いであるが、「顧客との議論の中で、逆にわれわれが新しい開発の発想を得られることも多い」と成果が期待される。