メーカー別 繊維ニュース

新春対談/「大手アパレルが見いだした新たな針路」/変化をチャンスにする取り組みは

2019年01月01日(Tue曜日) 午前11時26分

〈対談出席者〉

オンワードホールディングス 社長 保元 道宣 氏×ワールド 社長 上山 健二 氏

(社名五十音順)

 少子高齢化、電子商取引(EC)の成長と巨大プラットフォーマーの台頭、デジタル技術の急速な発展、環境問題への意識の高まりなど、産業を取り巻く環境が大きく変わりつつある。急激な変化は企業経営に危機をもたらすが、同時に大きなチャンスも与える。オンワードホールディングスの保元道宣社長とワールドの上山健二社長に、「大手アパレルが見いだした新たな針路」をテーマに対談していただいた。

〈デジタル技術の活用で〉

  ――衣料市場をどう見ておられますか。

 保元氏(以下、敬称略)供給と需要とのミスマッチが大きくなっています。それがアパレル業界の在庫増、プロパー消化率低下にもつながっている。「価値と価格のバランス」にもギャップが生じて、総じてアゲンストの風になっています。「消費者の価値と価格のバランス」についての感じ方、考え方は急速に変わっており、業界の変化への対応スピードも加速しないといけません。

 上山氏(同)保元さんがおっしゃるように、供給と需要とのミスマッチは大きい。それに加えて今の市場には三つほど感じているキーワードがあります。一つは、国内のファッション市場がかなり成熟化しているということ。顧客のファッションを見る目は肥え、成熟しています。二つ目がデジタル化。三つ目が少子高齢化、つまり需要減です。

 それぞれにどう対応するか、ということで、日々頭を悩ませています。長年培ってきたプラットフォームをファッション関連の他社さんにも使っていただき、業界のロスを削減することを推進する。スマホなどで消費者の買い方も変わり、顧客接点も変わっていますから、われわれとしては企画、生産、販売、物流といったプラットフォームもデジタル化したものを提供していくことが必要です。

  ――デジタル技術の活用はアパレルにどのような変革をもたらすのでしょうか。

 保元 デジタル化については強い関心があります。上山さんが指摘されるように、昔は業界人の方が服に対して目が肥えていました。今は消費者がデジタルを使いこなして目を肥やしています。消費者のデジタル化の進展に業界側が後れを取っている側面もあるでしょう。消費者に感動を与えるクリエーションを生み出す“人財”の活躍が強く求められています。

 当社は3年ほど前から、在庫のない究極のビジネスモデルとしてマスカスタマイゼーションを考えてきました。ストレスのない納期や価格でお届けすることが具現化できればと。MDのプロセスに消費者が参加できればとも思いますが、まずは、当社の提案の中からお客さまに選んでいただき、それをスムーズに提供する形で「カシヤマ ザ・スマートテーラー」を始めました。このプロジェクトは多様なデジタル技術で支えられています。今後、アイテムやクリエーションの選択肢も増やしていく方向です。

  ――上山さんは。

 上山 当社もデジタル化を進めています。一つはプラットフォームそのもののデジタル化に注力しています。ECを含めた企画から生産、物流、販売まで全体の流れを、自社ブランドのためだけでなく、他社さんにも利用していただくため、デジタル化による再構築を推進しています。

 例えば、われわれの商売はシーズンごとの勝負です。シーズン最後の在庫を小さくするのが、業界共通の課題です。長年の経験値でマークダウンしてきましたが、数年前から取り組んでいるシステムが推奨してくるマークダウンの方が、精度が高いという結果が出ています。他社さんに話をすると、興味を持たれ、使わせてほしいというお話も頂いています。人工知能(AI)に近いものです。

 もう一つの例が「アンビルト タケオキクチ」です。渋谷にお店を構え、ノンエイジのビジネスマンに向け、デジタルの活用でオーダーからファッションレンタル、保管サービスまでワンストップで提供。D2C(ダイレクト・トゥ・カスタマー)事業と位置付ける次世代ビジネスモデルです。

 国内の縫製工場で、セットアップは最短10日間でお届け。受注生産によりロスをなくす。採寸はお客さまの好みに応じてゆとり調整もして、2回目からはアプリでシミュレーションでき、簡単に購入できます。

〈物流費増への対応〉

  ――保元さん、習志野物流センターへの統合も図りました。

 保元 習志野物流センターにおいて、3月にリアル店舗用在庫を統合し、8月にEC用も統合しました。在庫は全国の店舗にもあります。今年中にはこうしたものも含め在庫の真の一元管理が完了すると思います。それができれば、商品の店間移動がオンラインを含めてできますから、大きな効果が出てきます。

  ――物流費の増は利益を圧迫する要因にもなっています。

 上山 物流費には配送費のほか、倉庫保管料、倉庫内作業費なども含まれます。トラックのドライバーさんがひっ迫していますが、これが緩和されることはそうそうないでしょうから、配送費の高騰は続く可能性が高いと思います。それを前提に考えないといけないと思います。

 TSIホールディングスさんと、関東1都6県の駅、ビル、ファッションビル、大型SCを対象にトラックの共同配送を始めました。積載効率を高め、走る台数が減ります。この方法は他社に広げることもできるでしょう。

 保管料については、当然ですが、日本のセンターに長く置かない努力が必要です。例えば、生産地から店舗に直送できないかとか、国内のセンターでの作業を減らすために、生産地で店舗向けにパッケージすることなど、削減の余地はあるでしょう。要は調達物流の改善です。ワールドプロダクションパートナーズで検討しており、工場や商社さんとの連携なども進めていきます。

  ――欧米を中心にサステイナビリティー(持続可能性)の潮流があります。どのように捉えますか。

 保元 ブランド、企業として社会的責任をどう考えるかということ。工場の労働環境などにも配慮した生産なのか、どうか。次元の高いものが求められています。これについては、オンワードクオリティセンターに大変期待しています。これまでに蓄積されたオンワードの「品質管理」に関するノウハウ・見識を総動員し、工場監査を徹底していく。これを業界のプラットフォームとして成長させていきたいと考えています。

〈CSR重視の時代に〉

  ――サステイナビリティーにはエコや動物愛護も含まれる。

 保元 エコという面では衣料品循環システムの構築を目指す「オンワード・グリーン・キャンペーン」を10年前から推進。現時点で年間約100万点を回収しています。店頭で回収した衣料品の一部でリサイクル毛布などを生産し、日本赤十字社の協力の下、国内外の被災地や開発途上国へ寄贈しています。

  ――ユーズド市場も成長しています。

 保元 環境・社会貢献型コンセプトショップ「オンワード・リユースパーク」では、オンラインも含めて年間約10万点のリユース商品をクリーニングした上でチャリティー価格で提供し、収益を社会貢献に活用しています。リメークも行います。売り切ったら終わりではなく、販売した後の商品の動きも丁寧にフォローする。そうした活動が企業や業界のイメージ向上、人財の獲得にもつながると思います。

 上山 この産業が未来永劫(えいごう)に続くものでなくてはなりません。日本アパレル・ファッション産業協会でもCSR委員会を立ち上げました。業界全体でできることも多々あるでしょう。当社も前向きに取り組んでいきます。ラグジュアリーブランドが廃棄問題で取り上げられました。業界として会社として、謙虚であることが求められています。企業は良き社会市民であってこそ受け入れられる。

 当社もお客さまの不用になった衣料品を回収する「ワールド エコロモ キャンペーン」を2009年秋から社会貢献活動として継続しています。ワールド以外の製品も引き取り、リユース、リサイクルを通じて衣料品の価値を最後まで無駄なく生かすことが目的です。回収した衣料品は累計で1千万枚を超え、収益金の寄付も支援を必要としている子供たちや被災地に向け、8千万円を超えました。

  ――新たなビジネスモデルの創造は。

 保元 カスタマイズビジネスについては、メンズ・レディースのビジネスアイテムからカジュアルアイテム、さらには靴などにも挑戦しようとしています。その一方で、既製服ビジネスをどう改革するかも重要です。ECは自社サイト「オンワード・クローゼット」を中心に、昨年も約30%の成長を実現しました。現在、EC比率は12~13%ですが、3年後には25%を目標にしています。

 今の商品MDや価格は店頭販売用に構築されていますが、今後は初めからECを前提とした商品MDや価格設定を進めます。ECでできないブランディング、コミュニケーションは何か。それを実現するためにリアル店舗を作るという発想に立てば、新しいリアルの形が見えてくると思います。

〈協業による新ビジネス〉

  ――ストライプインターナショナルと戦略的パートナーシップを結びました。

 保元 当社は百貨店流通、F2層(35~49歳)を顧客の主力にしています。一方、ストライプインターナショナルさんはSC流通、F1層(20~34歳)が主力で、顧客層が異なります。両者が運営するECモールに相互出店し、オンライン共同販促から始め、リアル店舗での協業も推進できればと思っています。また、生産・品質管理の面や、新しいリアル店舗開発などの面でも提携を進めていきます。

 上山 2017年4月から事業持ち株会社化し、事業セグメントをブランド、投資、デジタル、プラットフォームの4事業に区分しました。ブランド事業は成熟化したマーケットの中で、懸命に頑張ってくれていますが、それだけでは大きく拡大していくのは難しい。成長のためにプラットフォーム事業、デジタル事業で当社のノウハウや仕組みを外部企業にオープン化し、業界の枠組みを超えた新たな事業領域の拡大に取り組んでいます。

 投資事業はユーズドセレクトショップ「ラグタグ」を展開するティンパンアレイや、生活雑貨の「212キッチンストア」を展開するアスプルンドなどアパレルブランドビジネスの周辺にある雑貨や、古着の二次流通を子会社化し、テクノロジーに強みを持ち、レンタルアプリを運営するオムニスにも投資しています。クラウドファンディングプラットフォーム「キャンプファイヤー」は、クリエーターのためのファンドで、一部出資しています。クリエーターの作り場や売り場をどうするかという課題もあり、リアルなプラットフォームとして取り組みました。今までにない新たなビジネスを構築し、総合ファッションサービスの会社を目指します。

  ――変化の時代ですが、あえて変えない企業精神は。

 保元 「人々の生活に潤いと彩りを提供する」ことと「前進する」ことです。創業者の樫山純三氏も、時代に応じて企業の業容は変化していいと語っておられます。今は圧倒的に衣料品が中心の企業ですが、「潤いと彩り」という意味では、例えばコスメやグルメなどの事業領域においても、成長の可能性を探っていきたいと考えています。

 上山 「変革を恐れない」ということです。当社は婦人ニット卸専業から90年代には百貨店SPA業態として成長を遂げ、2000年代は多業態多ブランド戦略を推進してきました。そこから共通プラットフォームを構築し、今はITを念頭においた変革を進めています。

  ――最後にファッションは消費者に何を与えることができるのでしょうか。

 保元 繰り返しになりますが、「潤いと彩り」ですね。ですから、常に新しいもの、新しい何かを提供し続けることが宿命となります。それがわれわれの仕事の楽しさでもあり大変さでもありますね。

 上山 暑さや寒さをしのぐだけではなく、新しい服に袖を通すときのワクワク感、喜びを提供できるものです。人それぞれ感じ方は違うので、そういう面では多様性を認め、多様性を世の中に提供していくことこそがファッションだと思っています。

  ――ありがとうございました。