タイの日系繊維企業/アジア全域のハブ機能発現へ/ “タイ・パッシング”を超えて

2019年03月19日(Tue曜日) 午前10時58分

 タイ経済が好調だ。タイ国家経済社会開発委員会の発表によると、タイの2018年の実質GDP成長率は4・1%で、6年ぶりの高い伸びとなった。一方、こうした好景気が繊維産業には波及していないとの声は多い。このため日系繊維企業は新たな立ち位置を探り、アジア全域の“ハブ機能”発現を目指す。

(宇治光洋)

 タイの好景気をリードしているのが自動車など一部の製造業。18年の自動車販売台数は104万台(前年比19・5%増)と2年連続の増加となる。輸出も18年は2524億ドル(6・7%増)となり、こちらも自動車関連など工業製品がけん引する。

 ところが衣料繊維業界に目を向けると状況は一変。在タイ国東レ代表であるトーレ・インダストリーズ〈タイランド〉の髙林和明社長は、「繊維は決して良くはない。薬剤・染料高騰によるコストアップやバーツ高による輸出競争力の低下が利益を圧迫した」と指摘する。

 特にテキスタイル産業にとってバーツ高の影響は深刻。国内縫製産業が既に縮小しているため生産する生地は輸出向けが中心。だが、経常収支の黒字が定着したことから構造的なバーツ高で、テキスタイル輸出の競争力が低下している。米中貿易戦争の影響も影を落とす。中国の景気減速によって中国国内での生地需要が減退し、「安価な中国品がタイに流入している」とタイ東海の川本修社長は指摘する。

 現在、中国から米国への衣料品輸出には追加関税が課せられていないが、今後のリスク回避の観点から衣料品生産をASEAN地域にシフトさせる動きはある。しかしタイは縫製業が縮小していることから、恩恵はベトナムなどに奪われた。「今、起こっているのは“タイ・パッシング”」といった悲観的な声さえ上がる。

 こうした課題を克服するため日系繊維企業の多くが事業の構造改革と商品・商流の高度化に取り組む。東レは、ポリエステル・レーヨン紡織加工のタイ・トーレ・テキスタイル・ミルズと短繊維紡織加工・エアバッグ基布製造のラッキーテックス〈タイランド〉を7月に合併させ、商品内容の拡充やアパレルへの直接提案の強化を進める。

 タイ・クラボウは、染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシングと連携しながら高付加価値生地の欧米輸出拡大に取り組む。タイ東海は、中肉厚地やバンブーレーヨン、オーガニックコットンなど高付加価値原料を使用した無地染めとプリントの開発で内需と輸出向けへの提案を強化する。

 もう一つは、アジア地域全体のハブ機能を発揮することだろう。例えばタイとインド間の貿易は自由貿易協定によって関税がかからない。モリリン〈タイランド〉は、インドで綿糸を調達し、ベトナムで編み立て・縫製するといったオペレーションを構築しており、その司令塔をタイが果たす。スパンデックス製造のタイ旭化成スパンデックスは、インド、バングラデシュ、ベトナムなどへの供給拡大を目指す。ポリプロピレンスパンボンドの増設を決めた旭化成スパンボンド〈タイ〉もインド市場などへの供給拡大が視野に入る。

 新たな立ち位置を確立することで“タイ・パッシング”を乗り越えることが求められている。