特集 アジアの繊維産業Ⅰ(1)/米中貿易摩擦の影響は不可避/ASEANシフトが進行する

2019年03月28日(Thu曜日) 午後3時59分

 米中貿易摩擦が世界経済に影を落としつつある。ASEANへの影響はどのようなものになるのか――。ベトナム、タイ、インドネシアの日系繊維企業の声は現状、期待と不安が入り乱れている。

〈中国による“迂回”の筆頭/ベトナム〉

 中国企業がASEANに工場を新設したり、移設したりといった動きが活発化している。中国で環境規制が強化されたことを受けた回避のためでもあり、東南アジアを“迂回(うかい)”した上で米国向けを維持拡大しようとするためでもある。その対象国の筆頭にベトナムが挙がる。

 在ベトナム日系企業からは、「米国を含めた環太平洋連携協定(TPP)が仮に発効していたとしても、米中摩擦の影響には及ばない」(カケンベトナム試験室)との声が上がる。現に同国では昨年から、中国企業による生産が一気に増えた。ベトナムという国にとってこれは歓迎すべきことであり、同試験室も「中国系メーカーへの対応強化が課題」と検査依頼の急増を見込む。米中貿易摩擦を背景に、中国系や現地系によるベトナムからの対米輸出が今後も拡大することは間違いなさそう。これは「期待」の部分と言える。

 一方、日系繊維商社にとっては「不安」の方が大きい。米国向けが優先され、日本向けの生地生産スペース、縫製スペースが不足する懸念がある。足元の縫製スペースも、「米国向け(の工場)は常にパンパンでもうけも潤沢」(スミテックス・ベトナム)だという。「現状では対日の縫製工場が対米にスペースを奪われたという話はないが、今後その懸念はある」(トヨタ・ツウショウ・ファッション・エクスプレス・ベトナム)、「今はスペース確保で困ることはないが、米中貿易摩擦によって対米が優先され、対日縫製品の優先順位が下がるかもしれない」(ヤギ・ベトナム)との観測も出る。

 一方、「(工場は)対米と対日とではっきりすみ分けが成されつつある」(スミテックス・ベトナム、トーレ・インターナショナル・ベトナムなど)こともあって、対米増加のあおりで対日縫製品のスペースが今以上に不足することは考えにくいといった見方もある。

 ベトナムに米中貿易摩擦の影響が本格的に出てくるのはまだ先だが、「ベトナムの繊維産業全体にとってはメリットが大きく、対日縫製品にとってはキャパシティー確保が困難になる可能性があり、デメリットになりうる」ということだろう。

〈中国景気減速で商流変化/タイ〉

 タイの様相は少々異なる。在ベトナム、在インドネシア日系企業の主事業が縫製品OEMのオペレーションであるのに対し、タイは生地など素材の生産国であることがその背景と言える。米中貿易摩擦の影響で中国国内の景気が鈍化しており、その影響がタイにも及びつつある。

 「アジア市場に安価な中国製生地が流入しており、パーツ高も相まって生地輸出が減少した」(タイ東海)といった声が出ている。対米向けに生産していた生地が売れなくなり、中国の生地メーカーがASEANにその照準を切り替えたことで市場が混乱している。

 「中国向けスパンデックス輸出に逆風が吹きつつある」と話すのは、タイ旭化成スパンデックス。ここにも米中貿易摩擦を背景とした中国経済減速の影響が出ている。

 資材関連では、中国からタイに生産をシフトする動きも一部で見られる。

 テイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)とテイジン〈タイランド〉(TJT)によると、資材用途はスペックインに時間がかかるため、今後の貿易摩擦激化に備えて早めに中国以外の調達ソースを東南アジアに確保しておこうという動きが出てきている。

〈ポストベトナムの受け皿に/インドネシア〉

 インドネシアの日系繊維企業もベトナムを注視する。対米向けの増加によってベトナムのスペースがパンクした際の「ポストベトナム」に名乗りを上げるためだ。島田商事が駐在員事務所を法人に格上げしたのも、「ポストベトナムとしてインドネシアが注目された際に副資材を供給する体制を今から整えておく」ためだった。

 帝人フロンティアインドネシアも、「直接的に日系企業への影響はないが、中国生産のベトナム移転が進む。そのベトナムでスペースがなくなれば、インドネシアに受注が来る」と読み、それにより対日のスペースが一気に縮小するかもしれないとの懸念を示す。

〈発効したTPP11総じて「影響なし」〉

 昨年12月に発効したTPP11のASEANへの影響はどうか。ベトナム、インドネシア、タイのうち、同協定に唯一名を連ねるベトナムの日系企業からは、「カナダ、豪州向け輸出拡大への期待はある」(トーレ・インターナショナル・ベトナム)、「メキシコへの糸販売は増えそう」(蝶理ベトナム)といった歓迎の声が一部で上がるものの、対日を主事業とするため「あまり関係がない」との意見が大勢を占める。今年中の発効が見込まれているベトナム欧州連合(EU)間のFTAに関心を示す声がむしろ多い。

 未加盟のタイの現地日系企業への取材では、「どちらかと言えば逆風になる」との見方が強かったが、現地取材後に同国がTPP11への参加意思を正式に表明したため、今後状況が大きく変わる可能性がある。