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2019春季総合特集Ⅱ(7)/top interview クラレ/ニッチ分野に活路/社長 伊藤 正明 氏/悪戦苦闘を乗り越え存在感

2019年04月23日(Tue曜日) 午後4時31分

 悪戦苦闘の時代を乗り越え、世界ナンバーワン・オンリーワンの製品展開で存在感を示すクラレ。伊藤正明社長は「今では世界ナンバーワン、オンリーワンの製品が売上高の約6割を占めるまでになった」と強調し、今後も小さな池の大きな魚、唯一の魚として一層の成長を目指す。2019年度は中期経営計画の2年目となり、これまでに決定した投資が「確実な成果を得られるかを見通すための重要な年」と位置付けている。海外だけでなく、国内工場を守るための設備投資も継続的に行う。

  ――平成という時代を振り返ると。

 繊維産業で言えば、縮小の30年間でした。1992年に最盛期を迎えたポリエステル長繊維生産は、97年ぐらいまでは何とか維持できていたのですが、99年になると生産量が40万トンを切り、その後もつるべ落としのような状態になりました。クラレもレーヨン事業から徹底するなど、大きな流れには逆らうことができませんでした。生き残りをかけた悪戦苦闘の30年だったのではないでしょうか。

 繊維だけではなく、日本全体がそのような感じでした。バブル経済がはじけ、少し持ち直してきたと思っていた矢先に、リーマン・ショックが起こりました。そのリーマン・ショックの発生源だった米国では知財戦略の台頭が始まり、ビジネスの在り方が大きく変わっていきます。そういった観点から見るとすれば、日本は遅れを取ったと言えます。

  ――間もなく平成も終わりを迎えます。これから先をどのように予想しますか。

 自動車産業の動向が大きく影響すると考えているのですが、インターネット関連サービス会社が参入を図っています。新しい発想を持っている彼らに、超大手以外の自動車メーカーが果たして勝てるのかという懸念があり、ニッチ分野で生き残るしかないのかもしれないと感じます。こうした状況は、自動車に限らず、全ての産業に当てはまるのではないでしょうか。

 多くの産業や企業が「ヘルスケア」を重点領域と位置付けるようになっています。ただ、当社には合わない気がしています。なぜなら、過去にコンタクトレンズや医薬中間体などを取り扱ってきましたが、残ったのは歯科材料だけと言ってもよいぐらいだからです。製薬業界の競争を見ていると、特にそのように思えてきます。

  ――クラレの繊維事業を見るといかがですか。

 当社の繊維事業はニッチで残ってきましたし、安泰とは言えませんが、今後も存在感を発揮していけるでしょう。ポリエステル長繊維とポリエステル短繊維は現状の生産量は維持できるでしょうし、PVA繊維のビニロンは「VIP」という新しい生産方式で作った糸がゴム資材関係で使われるようになっています。

 そのほかでは、メルトブロー(MB)不織布で生産設備の増強を決定しました。建屋の新設を含めて20億円以上を投資して、生産能力をこれまでの1・5倍となる年間2700トンに拡大します。2020年後半の稼働開始を予定しています。高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」についても現場から「生産量を増やしたい」という声が上がってきています。

 課題は世の中にないものの展開をどれだけ強められるかだと思います。これは繊維事業に限った話ではありません。クラレグループが扱う世界ナンバーワン(オンリーワンを含む)製品は、ビニロンやベクトランのほか、活性炭、EVOH樹脂「エバール」、耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」などがあり、売上高の58%を占めています。ナンバーワン・オンリーワン戦略を今後も積極的に進めます。

  ――18年12月期は中期経営計画「PROUD(プラウド)2020」の初年度でした。

 売上高は順調に伸びましたが、営業利益が前期比減になってしまいました。エバールでの工場火災や原燃料価格高騰などの影響を受けたとはいえ、悔しい思いでいっぱいです。ただ、稼ぐ力は決して落ちておらず、大きな心配はしていません。光学用ポバールフィルムの設備投資を決定したほか、タイでブタジエン誘導品生産プラント建設を決めるなど、成長への施策は打ちました。

 国内でも大きな投資を進めます。岡山市の岡山事業所の発電設備を数年間かけて新しくするほか、倉敷事業所(岡山県倉敷市)のバイオマスボイラーなども更新する計画を立てています。その後には西条事業所(愛媛県西条市)にも着手する予定で、合わせて数百億円を投じます。売上高の7割近くが海外ですが、利益はまだまだ国内で稼いでおり、積み重ねてきたノウハウもあります。大きな投資になりますが、「国内工場を残す」という強い意志の表れです。

  ――19年度がスタートしています。事業環境は。

 米国経済は、バブル崩壊の懸念を完全には払拭(ふっしょく)できていませんが、大きな心配はないでしょう。欧州は、英国による欧州連合(EU)からの離脱問題が残っていますが、マイナス成長にはならないと思っています。中国も足元は良くありませんが、政府の諸施策が年の後半には効いてくるのではないでしょうか。日本は東京オリンピックまでは大きな波はないと予想しています。

 中計の2年目となる今年度は、エバールでは工場火災によって失った顧客を取り戻すことが大きな課題と言えます。そのほかでは、これまでに決定した投資の成果を見通す年になると考えています。子会社のクラレトレーディングについては、非繊維事業での付加価値型ビジネス拡大を志向していくことになります。繊維事業で取り組んでいるビジネスモデルを良い手本にしながら、強化する方針です。

〈平成の思い出/子供の言葉が胸に…〉

 「第一子の誕生が1989年。女の子だったので、平成生まれで良かったと思った」。伊藤さんの平成の30年間は子供の誕生で始まった。94年には長男が生まれたが、会社が事業再構築を進めていた時期と重なり、「ストレスがたまっていた。八つ当たりするのが怖く、子供と遊びたくても遊べなかった」と言う。2001年に新居を建て、子供との時間も取れるようになったが、02年には中国へ赴任する。長男から「せっかく家を作ったのに、1年しか住めなかったねと言われた」。それも今では良い思い出だ。

〔略歴〕

いとう・まさあき 1980年クラレ入社。2002年南通可楽托蕾服装総経理、04年クラレトレーディング経営企画部長、07年クラレ岡山事業所ビニロン・K―Ⅱ生産・技術開発部長、12年執行役員、13年常務執行役員、14年取締役、15年代表取締役社長。