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2019春季総合特集Ⅲ(4)/top interview クラボウ/消費者の潜在ニーズ掘り起こす/社長 藤田 晴哉 氏/SDGsへの取り組み不可欠に

2019年04月24日(Wed曜日) 午後2時7分

 「グローバル化の進展によって繊維製品の生産は海外が主流となり、それに合わせて単価も大きく下落したのが平成の30年間だった」――クラボウの藤田晴哉社長は指摘する。しかし、中国や東南アジアも経済成長によってコストアップが続いており「これからの時代は、従来のような価格競争が成り立たたなくなる」と話す。SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みも必須となった。こうした課題に対応できる体制や人材の育成が、来たる令和時代には欠かせないと話す。

  ――平成の30年間とは、繊維業界にとってどのような時代だったのでしょうか。

 一言で言うと、グローバル化の進展によって繊維製品は海外生産が主流となり、国内の製造業が空洞化した時代でした。海外生産による安価な製品が輸入され、繊維製品の単価も大幅に下落します。例えば政府の統計を見ると、数量ベースの衣料品輸入浸透率は1991年に51・8%だったものが2017年には97・6%になっています。一方、衣料品の購入単価指数は91年を100とすると14年は57・2まで低下しています。ちなみに調査会社によると国内の衣料品市場規模は91年に15兆3千億円だったものが13年には10兆5千億円となっています。この背景にはサプライチェーンや流通構造の変化もありました。これまで市場で主導権を持っていた百貨店アパレルに代わって、カテゴリーキラーと呼ばれるSPA(製造小売業)が台頭します。やはり統計を見ると百貨店での衣料品売上高は91年に6兆1千億円あったものが、18年は1兆8千億円まで減少しているのは象徴的でしょう。平成の後半からはインターネットが普及し、EC(電子商取引)が拡大しました。さらに最近ではサブスクリプション型のシェアリングエコノミーやC2Cのためのフリーマーケットアプリが存在感を高めています。消費者がさまざまな手段で商品を手に入れることができるようになり、同時に情報もさまざまな形で入手できるようになった時代だと言えるでしょう。

 こうした中、繊維メーカーは差別化商品を作ることが必要となり、機能を軸とした開発が進みます。抗菌防臭や吸水速乾、吸湿発熱など機能素材が広く普及したのもこの時代です。そして各メーカーとも得意とする分野や商品への特化が進んだとも言えそうです。

  ――令和時代の繊維産業の課題とは何でしょうか。

 グローバル化は今後も続くでしょうが、同時に中国や東南アジアでもモノ作りのコストアップが続いています。つまり、今後はこれまでのような価格競争が難しくなります。その中で消費者に“欲しい”と思われる商品を作ることが必要になりますし、潜在ニーズを掘り起こすようなビジネスモデルが不可欠になるでしょう。また、SDGsやESGへの取り組みが当たり前になります。日本でも経団連が「ソサエティ5・0フォー・SDGs」を打ち出すなど大きな流れになっています。繊維製品でも在庫品の大量処分が問題となっています。そうなると、いかにロスを抑え、必要な量を必要な時に供給できるかが問われるようになります。そのためにIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の活用でオンデマンド生産やマスカスタマイゼーション(多品種大量生産)を実現することが必要になるでしょう。さらにリサイクル、アップサイクルの仕組み作りをどうするのか。当社も「ループラス」として取り組んでいますが、普及のためには1社での取り組みでは限界があります。仲間を増やしながらシステムを標準化することで広げていくことが必要です。また、生産プロセスの改善も含めて環境負荷低減の取り組みをメーカーも広く社会に発信する必要があります。

 そして、やはり世界的に見れば依然として繊維は成長産業だということです。ただ、今後の繊維需要がどこで拡大していくのかを視野に入れた取り組みが必要です。日本の繊維企業は既に東南アジアには進出できていますが、次の市場であるインドやアフリカに対してどういった取り組みを進めるのか。どういったサプライチェーンを作っていくのか、そのための人材をどう育成するのかが今後の課題になるでしょう。

  ――2018年度(19年3月期)を振り返ると。

 18年度は3カ年中期経営計画の最終年度でした。2年目までは順調に進捗(しんちょく)していたのですが、18年度の夏以降に繊維事業と化成品事業の半導体関連が失速してしまいました。このため2月に業績予想も下方修正し、残念ながら中計目標からは大きく乖離(かいり)しました。半導体関連に関しては17年度が非常に好調だったことの反動と米中貿易摩擦の影響といった一時的な要因だと分析していますが、繊維は全般的に厳しくなっています。これまで生産管理能力などで優位性を発揮してきましたが、海外メーカーとの競争が激化し、従来のビジネスモデルが限界に達しつつあると感じています。

  ――そのあたりへの対応が19年度の課題となります。

 繊維はビジネスモデル自体を変える必要があります。“モノ”ではなく“コト”の提供や消費者が驚くような商品を開発しなければなりません。そこで今期から繊維事業部に事業推進部を新設しました。ここで新規ビジネスの検討やスマートウエア「スマートフィット」の普及、テキスタイルイノベーションセンター(TIC)で開発した技術の実用化などについて取り組みます。海外子会社の役割も変わってくるでしょう。TICでスマートファクトリーの研究を進めていますから、それをタイ子会社などにも導入します。今後はタイ子会社がマザーファクトリーとしてアジアの生産ネットワークを管理する役割を担い、国内工場はさらに先端的な開発に特化することになるでしょう。新中計でこうした形を作り上げます。

〈平成の思い出/家族との思い出につながる平成時代〉

 「娘が昭和61年、息子が平成元年生まれなので、平成は家族との思い出とつながっている」と言う藤田さん。一家で赴任したドイツ駐在時代、お子さんは小学生。「『お父さんはドイツでも麻雀をするの』と言われてしまった」と笑う。単身赴任だった群馬工場時代、息子さんは思春期真っただ中の反抗期。「家を留守にして妻に不安な思いをさせてしまった」。そして鴨方工場時代、「息子も大学生になり、妻も子育てから解放されたので、私の相手をしてくれるのかと思ったら、『大学院に入って勉強する』と言って東京に行ってしまった」。悲喜こもごもだけれども、いずれも懐かしく楽しい家族の記憶。

〔略歴〕

ふじた・はるや 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。