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2019春季総合特集Ⅲ(8)/top interview 富士紡ホールディングス/“所有”から“使用”へ/社長 中野 光雄 氏/希少性と付加価値が重要に

2019年04月24日(Wed曜日) 午後2時10分

 「平成年間というのは、従来の大量生産型の繊維ビジネスが成り立たなくなった時代」――富士紡ホールディングスの中野光雄社長は指摘する。モノが豊富にある時代となったことで、改めて希少性といった付加価値への注目が高まる。「シェアリングエコノミーの普及で、世の中の価値観の中心は“所有”から“使用”へと移っていく。それに対応したモノ作りができるかが、来たる令和時代のポイントになるだろう」と指摘する。このためニッチな商品でも独自性があり、利益率の高い商品の重要性が一段と高まることになる。

  ――平成年間も間もなく終わりますが、改めて繊維産業にとって平成年間とはどのような時代だったのでしょうか。

 綿紡績で考えるなら、やはり“縮小均衡”に終始した時代だったと言えるでしょう。特に後半の15年間は、それが加速度的に進行しました。当社の場合でも紡績錘数は縮小が続き現在は国内1万錘、海外1万4千錘です。つまり、国内の紡績設備はゼロに近いところまで減少しました。なぜそうなったのかと言えば、やはり中国など海外から安い糸が流入したためです。糸の次は製品が流入します。この競争の中で、従来のように量を追求することでコスト競争力を発揮するという大量生産型の紡績ビジネスが成り立たなくなります。海外生産へのシフトもありましたが、これも平成年間後半には歴史的役割を終えようとしています。

  ――インナーブランド「BVD」などアパレル製品は大きな成功を収めましたが、これもここに来て転換点に差し掛かっています。

 やはりブランド力だけに頼って売ることに慢心があったと思います。アパレル製品も現在の販売量は最盛期と比べて半分になっています。しかし、利益面を見ると最盛期とあまり変わっていない。つまり、かつて販売数量を追求する中で何が起こっていたのか。少しでも多く売るためにセールを実施するわけですが、最初は半期に1度だったものが3カ月に1度になり、やがて毎月になる。今や毎週のようにセールが行われています。そうやって過剰セールによって利益を失っていた。そんな中でSPAのような業態が台頭します。彼らは流通構造の違いから優位性を築いたわけですが、はっきりしたことは、繊維産業における競争力というのは商品の良しあしだけではないということです。サプライチェーン全体で優位性を発揮したところが勝つことがはっきりしました。ここに繊維事業の持続性のポイントがあります。

  ――来たる“令和時代”の課題は何でしょうか。

 従来の繊維産業の最大の問題は“在庫”です。これをいかに減らすかが一段と問われる時代になるでしょう。いかにジャスト・イン・タイムで商品を供給する体制を構築できるか。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)を活用することで、どこまで流通革命を実行できるかでしょう。かつては“大きいこと”は良いことでした。今後はそれが通用しなくなる。なぜなら付加価値の源泉が“希少性”に移っていくからです。背景にあるのが消費者の価値観の変化です。現代は物があふれている時代。そこでは価値の中心が大量生産されたモノの“所有”から希少性のあるモノや体験の“使用”に移る。シェアリングエコノミーが注目されるのも、そういうことです。そして、所有よりも使用に価値があるとなれば、大量生産は意味をなさない。それよりも希少性のある付加価値商品をどれだけ開発できるかが問われるわけです。“モノ作り”から“コト作り”への移行が一段と重要になる。そのためには国内の製造設備の在り方も変わります。量産ではなく希少性を生み出す企画開発のための設備が重要になります。非繊維事業でも同様でしょう。その時にメーカーとして重要になるのが、自社のコア技術をベースにしながら、市場の将来性、収益性、そして技術力を分析し、経営資源を投入すべき領域を発掘することにほかなりません。もちろん全てが成功するわけではありません。しかし、種まきを続けなければならない。

  ――2018年度(19年3月期)も終わりました。

 全体としては前期並みの業績となりそうです。研磨材事業は第4四半期(19年1~3月)に米中貿易摩擦の影響もあって勢いがなくなりました。化学工業品事業は堅調で増収増益となりそうです。繊維事業は減収減益の見通しです。アパレル製品を中心に取引先の戦略と当社の販売戦略にズレが大きくなっています。主力販路であるGMS(総合小売業)などが衣料品の売り場を縮小している影響が大きい。各社とも在庫に対して一段とシビアな判断をしていることも無視できません。ただ、店頭での販売が減少した一方、EC(電子商取引)など新しいチャネルでの販売が伸びています。

  ――19年度(20年3月期)の戦略は。

 今期は4カ年中期経営計画「加速17―20」の後半に入ります。現中計では前半2年間で変革のための基盤を整備し、後半2年で利益を加速的に増やすことになっています。そのために研磨材、化学工業品、繊維の主力3事業いずれも拡大させなければなりません。中でも繊維は売上高ではなく利益を重視した商品の拡販がポイントです。例えば低融点接着繊維や蓄光糸など機能性合繊といったニッチ商品の拡販を進めます。紡績や染色加工は設備規模が小さくなっていますが、それによって新たな投資が可能になりました。付加価値の高い商品を生産できる設備を積極的に導入します。アパレル製品は引き続きECなど拡大を進めます。また、基盤整備も継続します。それによって、事業だけでなく人材も含めて“変身”を続けていくことが重要なのです。

〈平成の思い出/頭の上がらなかった時代が終わる〉

 「平成時代は、まったく頭が上がらなかった時代。令和になれば、逆に威張れるようになる」と言う中野さん。なんでも今の天皇誕生日である12月23日は奥さんの誕生日だとか。「なので30年間、天皇誕生日の祭日はいつも妻への家族サービスの日ですよ」。ところが新天皇が即位すれば、天皇誕生日の祭日は2月23日に移動する。「実は、その日は私も誕生日。これからは天皇誕生日の祭日には、これまでとは逆に大いに労わってもらおうと思っています」と笑う。

〔略歴〕

なかの・みつお 1973年富士紡(現富士紡ホールディングス)入社、機能資材部長、機能品事業部長などを経て04年取締役知的財産担当兼機能品事業部長、05年取締役兼執行役員兼柳井化学工業社長、06年代表取締役社長兼社長執行役員、同年代表取締役社長兼社長執行役員、17年代表取締役会長兼社長兼社長執行役員。