繊維街道 私の道中記/豊栄繊維 代表取締役 北丸 豊 氏(5)

2019年04月26日(Fri曜日)

絹紡糸が産地を救う

   豊栄繊維は1996年にレースと生地を同時に編む手法「シームレックス」を開発し、日本、欧州連合(EU)、米国、中国、インドネシア、韓国で特許を取得した。

 トリコット機とラッセルレース機の違いが私にはよく分かりませんでした。機械メーカーの技術者にしつこく聞くと、トリコットが高速回転するのに対し、ラッセルはその10分の1程度だという。それぐらいの違いなら同じ機械で両方編めるはずだと指摘すると、テンションが違うと言う。なら、糸の積極送り装置を付ければいいではないかと提案すると「そうやな」と言い出す。で、専用機を作ってもらい編んでみると、レースと生地を同時に編めた。大手インナーメーカーに採用され大ヒットしました。

   2016年には、ダブルラッセル生地の「スペース・ニット」がヒットする。

 欧州の複数の有名メゾンに採用され、輸出量は年間3千反に達しました。その後、日本での採用も広がりました。

   「シルクと編みで、日本でしかできないことをやる」。北丸は今後の方針を問われそう答えた。消滅に向かっているように見える絹産業についても諦めてはいない。

 これまで絹紡糸は、生糸を作った残りの雑絹で作られてきました。生糸の副産物に過ぎなかった。良い絹紡糸を作ろうと真剣に考えた人はいません。それをやろうとしています。

 製糸機は今、日本に実質4セット程度しかない。中国には1万セット以上あり、差は歴然としています。しかも生糸は絹織物産地以外では使いにくい。整経も染色も難しいからです。ところが絹紡糸なら、ウールの産地でも綿の産地でも使えます。しかも、日本の紡績技術は高い。価値を高く評価してもらえる絹紡糸を作ることができれば、各産地が生き返ると思います。

 昨年、綿織物産地の織布工場に生糸を使っていただいた。同工場は、それまでに使っていたレーヨンを生糸に替えて織りました。価格は20%高い1㍍当たり1650円だったのですが、一つのアパレル向けだけで90反も売れました。シルクを混ぜると売れる。しかし、綿の織布工場で使えるように、60㌔の生糸をコーンに巻き直して納品したのですが、大変でした。西陣は3㌔、5㌔の世界になっており、たった60㌔の糸の生産に対応するのも難しい。納品までに1カ月以上かかりました。しかし絹紡糸なら絹以外の産地でも量産できます。

 京都工芸繊維大学と組んで、世の中にない高品質な絹紡糸を作ろうとしています。その一つが毛羽や節を徹底的に少なくした「カッペリーニシルク」です。

 ランジェリー・ファンデーションに使用する特殊なフライス成形編み機を保有するニッターが廃業すると言うので、このままでは同社の貴重な技術が失われると思い、その編み機8台を譲り受けるとともに、技術指導もしてもらっています。

 譲り受けた編み機は、肌着用などの生地のOEMに使いますが、稼働率を高めるためにカッペリーニシルク使いのマスクを開発しようということになりました。購入型クラウドファンディングを通じて商品化を目指したところ、目標金額の35倍以上の支援が集まりました。絹に期待する層がいることを改めて実感しています。

(この項おわり、文中敬称略)