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特集 スクールユニフォーム(2)/学生服メーカー大手3社てい談/国内生産を徹底追求する学生服業界――合格発表から入学式までのモノ作り――

2019年05月29日(Wed曜日) 午後5時5分

〈出席者(五十音順)〉

トンボ 常務取締役生産物流統括本部長 片山 良則 氏

明石被服興業 取締役生産本部長兼本社工場長 砂野 佳弘 氏

菅公学生服 取締役生産本部長PCL本部長 藤田 敏男 氏

 4月になると、全員同じ真新しい制服を着て入学式に臨む、初々しい新入生の姿が全国の中学校や高校で見られる。一見、当たり前の風景のように感じるが、それは学生服メーカーが長年培ってきた経験や技術、そして国内で生産基盤があるからこそ見られる風景と言っても過言ではない。学生服のモノ作りの現場は今どのようになっているのだろうか。学生服メーカー大手3社の生産担当に集まっていただき、国内生産の現状や課題について語ってもらった。

〈国内最大の縫製工場維持/菅公は生産現場に2千人〉

  ――現状の生産体制を教えて下さい。

 藤田氏(以下、敬称略) 現在全国に19工場あります。倉敷工場(岡山県倉敷市)、米子工場(鳥取県米子市)、都城工場(宮崎県都城市)、志布志工場(鹿児島県志布志市)の4つの基幹工場と、各基幹工場の近隣に60人から120人規模の15の衛星工場があります。

 生産本部全体の従業員はパートやアルバイトも含め約2千人になります。縫製工場で2千人ともなれば、おそらく国内でもナンバーワンになるんじゃないでしょうか。

 片山氏(同) 玉野本社工場(岡山県玉野市)を基幹工場として学生服を生産しています。後は岡山工場(岡山市)、サントンボ服装(宮崎市)、トンボソーイング(徳島県三好市)、トンボブラザーズ(高知県室戸市)、トンボ倉吉工房スクール館(鳥取県倉吉市)などアイテムごとに100人規模の工場を構えています。

 スポーツの生産は美咲工場(岡山県美咲町)が玉野本社工場のような位置付けで、他にハートヒルズ(同赤磐市)、トンボ倉吉工房スポーツ館の自社工場があります。9工場合わせて約千人の従業員がいます。

 砂野氏(同) 詰め襟服など重衣料を中心に生産する宇部工場(山口県宇部市)と、シャツやスラックスを中心に生産する本社工場(倉敷市)があります。

 宇部工場の管轄としては沖縄県糸満市、熊本県阿蘇市、宇部市内に工場があります。

 本社工場の管轄としては岡山県の総社市、真庭市、久米南町、津山市に工場があり、全て合わせると9工場で、約850人の従業員が生産に携わっています。

 藤田 国内の衣料品の輸入浸透率は2017年度、97・6%に達しています。衣料品の国内生産は1億点を割っていますが、3社を合わせると15%近くの生産量を占めることになります。学生服メーカーがいかに国内で生産しているかが分かると思います。

〈制服生産はどう変わったか/激化する多品種小ロット〉

  ――国内の衣料品の輸入浸透率は平成時代に入り1991年には51・8%でした。この30年で海外生産が一気に進み、97・6%にまで高まったわけですが、学生服は依然として高い割合で国内生産を維持しています。学生服の生産はこの10年間を見ても変わってきたのでしょうか。

 藤田 10年前は、同じアイテムを生産し続ける“専門ライン”が主流でしたが、そろそろ難しくなってきた時期でした。必要な時期に必要な商品の生産点数を拡大するために、“品転(品種転換)”できるラインをこの10年で増やしてきました。極端な例ではニット製品のスポーツウエアのラインを織物製品の夏スカートに品転することもあります。

 ただニットに慣れた人の手が織物を縫うわけですから、対応する各オペレーターは大変です(笑)。

 各工場の保全担当者がプロジェクトチームを作り、自動化、半自動化への取り組みを進めています。特に、マテリアル・ハンドリング(機械による運搬や荷役作業)の効率化について研究を進めています。

 片山 一番変わったのはやはり多品種小ロット短サイクルでしょうね。これが“究極”になってきています。特に縫製ライン内の仕掛かりを減らすことに力を入れてきました。従来は1週間から10日の仕掛かり期間がありましたが、最近では1日半になり、短サイクルによるモノ作りができる体制になってきたことが一番大きいのではないかと思っています。当社では毎年、品番が1500~1600ほど増えており、対応力を強めています。

 最近ではLGBT(性的少数者)に配慮した制服など商品が多様化し、アイテムが増える傾向があります。男子スラックスを生産していたラインで、女子スラックスを縫製しても、うまく生産できません。女子スラックス、キュロットなどのアイテムが増えていると感じています。

 モノ作りで全てを自動化していくことは不可能だと思いますが、付属やフラップ、袖といった部品作りについては自動化を進めつつあります。

 砂野 これまでモノ作りで裁断が一番のネックでしたが、CAM(自動裁断機)の導入で、かなりスムーズに進んできました。裁断までのリードタイムをいかに早くできるかは、この10年間でかなり進みました。

 縫製ラインについてはまだまだ菅公学生服さんのように品種の切り替えができにくい体制ですが、対応できる仕組みにはしつつあり、多能工化に向けた教育指導も強めています。

 多品種小ロットによって、モノ作りは非常に細かくなってきました。従来のように大きな備蓄がしにくい中で、1年間を通して今の制服のモノ作りが何とかできているという感じです。

 自動化を進めたいところですが、別注対応で学校のオリジナルの型になるとなかなか難しい。多能工化、集約化によっていかにスムーズにモノ作りできるかが今後の課題です。

〈国産にこだわるのは必然/強まる納期対応に苦慮〉

  ――国内生産にこだわる理由は何でしょうか。

 片山 やはり納品でしょうね。納期に対する要求は、30年前に私が現場で担当していた時もきつかったのですが、今はもっときつくなっています。消費者の納期に対するニーズは、以前は入学式や6月1日の衣替えに間に合えば良かった。今は約束したお渡し日に必ずで、中にはその1週間前に納品して下さいというところもある。今年は夏物で5月5日の納期があり、10連休だっただけに対応に苦労しました。

 顧客の納期への要求が強まっています。学生服だけの問題ではないのでしょうが、入学式前の納期に間に合わせるため、3月20日からが“本番”として、ますます忙しくなってきます。納期までに足りないものを生産するには、必然的に国内でしか対応ができません。国内生産に「こだわる」というよりも「こだわらざるを得ない」というところだと思います。

 あと、小ロット短サイクルの生産が海外でできるかと言えばできません。まず小ロットを受けてくれませんし、品質の安定にも問題があります。海外工場は現地スタッフ、縫製工の入れ替わりが激しく、ずっと技術指導し続けなければ求める品質の商品ができてこないのが実情です。品質の安定を担保するには国内製にこだわっていかなければいけません。Mサイズが売り切れたからSサイズで良いでしょうというわけにはいかないですから。

 藤田 ここ数年で制服の採寸日は後ろ倒しになって、納品日は前倒しになる状況が続いています。短いリードタイムで生産するには国内で生産しない限り間に合いません。また、全ての商品を納期に間に合わせるためには国内生産しかありません。

 海外では以前、上海に自社工場があり、国内と同じレベルの工場を作ろうとして、2年でできました。ただ、生地があれば3日でできるものが、日本から生地を送るのに時間がかかり、裁断も含め8日から10日はかかる。

 これも自前の工場だから何とかなっただけで、海外の協力工場では入学式前の対応がおそらく難しいでしょう。

 砂野 どうしても学生服業界は3月になると、制服を必要な分だけ用意しなくてはならない。そうなるとやはりそのときだけ生産するというわけにはいきません。年間を通じて生産できる“基地”があるからこそ対応できるわけで、国産へのこだわりというよりも、今までずっと国内でしか生産できなかったということになります。

 岡山県は元々学生服の産地で、縫製工場もたくさんあり、地の利が良くお願いしやすい環境にもありました。ただ、ここ数年は高齢化も進み、工場も少なくなっています。

 当社の海外生産はシャツぐらいで、重衣料は全て国内生産ですが、昨今の状況から、もう少し海外でも生産できるかどうかを考える必要が出てきたのではないかと思っています。

 価格面で合わなかったり縫製のオペレーターといった人材確保ができなかったりすれば、海外へも目を向けていく必要があります。

 藤田 確かにアパレル業界に限らず労働人口が減る中で、海外生産をいくらか検討しないと難しくなってくると思います。協力工場もここ10年で減少しています。これからは生産性向上だけでは生産量を維持できなくなる可能性があります。もっと海外生産を研究していく必要がありますね。

〈難しくなってきた人材確保/モチベーション高める教育を〉

  ――人材の採用、育成の状況はいかがですか。

 砂野 宇部工場は以前募集を掛ければ九州からも人材が集まりましたが、ここ5~6年は宇部近辺からがほとんどで毎年十数人を採用しています。宇部工場には女子寮があって、それが強みになっていると思います。

 縫製に携わる人材を確保するのは本当に難しくなってきました。本社工場は倉敷市内の高校から毎年4人ほど採用しています。ファッション系の短期大学からも毎年3人入り、サンプル作成、縫製の技術を磨いています。

 自社工場は全員日本人で若返りより高齢化のスピードが速くなっています。今の若い子に対し、縫製を分かってもらうのが非常に難しくなってきました。昔のようにきつく叱って、それでも頑張ってくれるような子は少なく、機嫌を取りながら育成をしています(笑)。時代の流れですかね。

 本社工場は定着率も良く、決まった学校から入るので、上級生が後輩に教える仕組みで良い指導ができているからだと思います。全く縫製の技術を持たない子も入ってきます。自動化の設備なども導入しながら、いかに人材を確保していくかに力を入れています。

 片山 ここ2年で非常に人材確保が難しくなっています。景気の動向が良いことと、特に女子の高校卒業生は、モノ作りが好きな子もいますが、事務職に就きたい志向も強いですね。この10年で200人強の新卒の高校生が入っています。

 人材育成については、例えば玉野本社工場の場合、新卒生が年齢の近い先輩や班長などとコミュニケーションを頻繁に持つことで、チームワークを強化しています。また、それぞれの工程でどれだけ自分が習熟したかが分かるような工夫も取り込んでいます。上司や同僚と良い関係を築ける環境や、モチベーションを高めていける仕組みが、生産性の向上に貢献してきました。

 藤田 ここ数年は、グループの工場全体で20数人程度採用できていますが、衛星工場がある地域が過疎化しているので、募集してもなかなか集まらない状況になっています。若い世代も高齢者世代も働きやすい環境にしていかなくてはいけません。

 人材育成については、みんながやる気になるような教育の仕方を考えていかなくてはいけないと思います。OJTだけでは難しいと思うので、最近は熟練者の工程の動画を繰り返し見せるなど、工夫して習熟を早くするように取り組んでいます。

〈働き方改革の影響じわじわと/協力工場へも目を向ける〉

  ――今年4月に働き方改革関連法が施行された影響はどうですか。

 片山 時間外労働について縫製の現場はあまり影響ありません。1カ月80時間を超える残業は、3月はともかく、あまりないと思います。ただ、パターンを作るといったスタッフ部門は、11月から受注が入り出すと長期の残業となるので調整が必要です。

 有休5日間は昨年9月から対応していますが、問題は土日休みの場合、月曜日、金曜日を休むケースが非常に多いと言う点です。生産に影響が出る可能性もあり、そこだけは調整、休暇の分散をしていく必要があります。

 砂野 3月に仕事が集中する傾向にありますが、ここ数年は時間外労働も減り、十分対応できる状況になっています。

 藤田 当社もそれほど影響がありませんが、管理者クラスがなかなか有休を取得できておらず、調整していかなければいけません。

  ――同じく4月に施行した改正出入国管理法も業界への影響がありそうですが。

 片山 特定技能の対象となる14業種の中に縫製業が入っておらず、今のところ影響がどうかは判断できません。これから外国人特定技能制度が定着していくかどうか分かりませんが、これまで縫製工場に来ていた実習生が特定技能1号を選択して、14業種に当てはまる業種を選択してしまう可能性があります。そうなると繊維産業で実習生を確保できなくなってきます。

 藤田 国内の雇用確保が大変な中で、そういった影響が出てくれば制度を変えてほしいですよね。

 砂野 当社は工場に実習生を入れていませんが、協力工場の中には実習生がいないと成り立たない工場もあります。改正出入国管理法の影響が協力工場にどう出てくるのかが気になります。

 藤田 働き方改革関連法も大きく影響するはずです。われわれの工場だけでなく、協力工場も働き方改革でこれまでのような生産の融通が利かなくなり、本来計画していた生産数が減るといったことも考えられます。

 砂野 確かにそちらの方も大きく影響する可能性がありますね。

  ――日本製生地から海外製生地にシフトする動きもあるのでしょうか。

 藤田 ブレザーなど重衣料に限ると、海外製生地は増えていません。制服の場合、毎年必ず同じものが出来上がるリピート性が前提なので、ちょっとした色ブレも許されません。同じ色の再現が海外の工場では難しい。店頭で売り切る企画の商品は可能性があるでしょうが、海外製生地へシフトしていくことはあまり考えていません。

 砂野 シャツで生地が海外、染色が日本というケースがあります。重衣料は対処のしようが今のところないと思います。

 片山 素材メーカーも一部でやろうとしましたが、結局できなかった。リピート性、物性面も重衣料では難しい。今後、今までできなかったものが、できるとは思えませんね(笑)。

 藤田 堅ろう度(色の変わりにくさ・色落ちのしにくさ)が安定しないですよね。日本だと4級が当たり前ですが、海外だとその基準を守ることが難しいと思います。

〈国内でのモノ作り守る/最後の1着まで間に合わす〉

  ――国内でのモノ作りの強みは、これからどう生きてくるでしょうか。

 砂野 新入学に向けての“3月の対応”が一番になってくるでしょうね。1年間かけてモノ作りをする中で短納期、品質安定を継続していくためには国内での縫製は不可欠です。

 働き方改革関連法における残業・有休の問題、人材確保・育成の問題も含めて、ますますコスト高になっていく中で、いかに国内での生産を守っていくかが、これからも問われ続けます。自社工場だけでなく、協力工場も含めて抱える問題に耳を傾けながら、お互いに協力し合えるかが、課題になると思います。

 国内にもまだまだわれわれが知らない工場があると思います。これからも海外への生産シフトが進む中で、国内では工場が非常に少なくなってきています。最近、九州へ出張に行った際に聞いた話で、島原半島では過去に50~60件の工場があったそうですが、今では1割の5、6件しか残っていないそうです。これが今の工場の実態だと思います。

 入学式に向けて制服を子供たちに届けていくためにも業界が力を合わせて工場を守っていく必要性も感じます。

 藤田 多品種小ロットという学生服の工場の生産そのものが独特です。リードタイムがますます短くなり、今が限界に来ているとも思いますが、国内に多品種小ロット短サイクルで対応できる仕組みは今後も強みになると思います。

 国内のアパレル全体のモノ作りが減る中、学生服だけでなく、婦人服や紳士服といった、他の業態の工場とも協力していくことが必要だと感じています。

 片山 最初の答えに戻りますが、やはり強みは多品種小ロット短サイクルで対応力が発揮できる点があります。国内でのモノ作りを守り、学生服で培ったノウハウを発揮していけば、他の業種からの参入もなかなか難しいのではないでしょうか。ただ、これからも国内生産を守っていくのは大変ですが。

 藤田 学生服メーカーは必ず最後の1着まで責任を持って間に合わすことを使命にしています。いろんな面での苦労はありますが、今後も大事にしていきたいと思っています。

 最後まで間に合わす、そのような使命をもっと皆さんに見ていただければなあと思います。

  ――本日はありがとうございました。