ベトナム/主要4市場すべて落ち込む/7割が繊維関連、北部が受け皿に

2019年07月11日(Thu曜日) 午後3時17分

 米中貿易摩擦を受け、中国からベトナムへの投資が急拡大している。今年1~6月の中国からの海外直接投資(FDI)は前年同期比2・7倍に増え、このうち7割は繊維・縫製関連とされる。中国から国境が近く、中国語人材が多いベトナム北部を中心に、工場の移設が増えているのが現状のようだ。

 ベトナムの年間輸出額の12%を占め、携帯電話・部品などとともに主力産業の一角とされる繊維・縫製産業。米国向け輸出でもこの分野はトップの品目で、今年1~5月輸出額では前年同期比11・1%増の57億ドルだった。中国からベトナムの1~6月FDIは22億9千万ドルと前年同期比2・7倍に急増しており、ベトナム縫製協会(Vitas)のブー・ドゥック・ギアン会長は「7割は繊維関連の投資だ」と分析する。

 この分野で中国からの生産移管の影響が大きいのは、同国との国境が近いベトナム北部。中国の天虹紡織集団(テクスホン)はベトナム北部クアンニン省モンカイで2億6千万ドルを投じて、生地の生産から手掛ける一貫工場の建設を開始した。敷地面積27㌶で、一部は既に稼働している。モンカイは中国国境に接した港町で、高速道路が開通したためベトナム北部の製造業ハブであるハイフォン市からも3時間ほどで行き来が可能になった。

 「ベトナム北部は中国語人材が多く、中国からの投資を受け入れやすい素地がある」と話すのは、ハイフォンで縫製品や雑貨の検品工場を運営する桑原ベトナム(ハイフォン)の宮田諭社長。同社は2016年に北部での事業を本格化し、ハイフォンに工場と教育センターを兼ねた拠点を設立した。当初150人ほどだった人員は、現在は900人前後にまで拡大した。日系相手を中心に、売り上げも同じペースで拡大しているという。

 北部はスポーツアパレルやファストファッションを取引先とする大ロットの縫製工場が多く、中国の大手企業を中心にベトナムへの生産移管が進む。「中国からベトナムを含む周辺国で生産を委託する流れは以前からあったが、うまく行かずに中国に帰ることが多かった。それでも、ここ数年はベトナムにとどまるケースが増えている」

〈TPPきっかけに「川上」も充実〉

 ベトナムは伝統的に縫製に強みを持つ一方、タグやワッペンといった副資材、素材の調達は弱い。「日本向けの発送にしても、中国から副資材の到着が遅れれば納期に間に合わなくなる」(在ベトナムの繊維業界関係者)ということも多い。状況が改善し始めたのは、15年前後から環太平洋連携協定(TPP)の発効を見据えて投資が活発になってから。

 繊維商社のモリリン(愛知県一宮市)は、11年にベトナム法人を立ち上げた。モリリンベトナムの山根大輔社長は当時を振り返り、「縫製業はあったが、素材などを作る川上の業者は少なかった」と語る。同社が中国の青島で作るミシンの糸をベトナムで販売することを決めたのは、競合が少なかったため。11年前後はこの分野で世界最大手の英コーツが市場で独占的な立場にあり、品質もそれほど高くなかった。モリリンはベトナムでは日系で初のミシン糸の業者として、売り上げを伸ばしてきた。現在は月20万本、重量にして40~50㌧を販売する。

 現在はベトナムの工場に対する技術指導を通じ、一部は現地生産が可能になった。ミシン糸に加えて13年からは、保湿やUVカット、吸水といったレディース向けの高機能素材のTシャツなどを日本に輸出する事業も手掛けている。

 米国がTPPの参加を見送ったとはいえ、各種の自由貿易協定(FTA)に積極的に参加するベトナムへの投資は依然として大きな魅力がある。ミシン糸の分野でも、複数の日系に加えて世界2位の米A&Eや同3位のドイツのアマンが今月中にもベトナム工場をオープンする予定で、川上も層が厚くなってきた。

 一貫生産では依然として弱点を抱えているものの、特に米国向けの輸出ではベトナムが周辺国に比べて優位に立つとの評価は固い。タイは素材に強みを持っていても縫製業に人が集まりにくく、インドネシアは国内に大きな市場を抱えていることで輸出にそれほど力を入れていないのが現状のようだ。ミャンマーやカンボジアと比較するとベトナムの人件費は高いが、縫製の技術や社会の安定性で上回ることも強みとする。

〔NNA〕