香港/「大湾区」構想に影響か/「逃亡犯条例」改正案巡り混乱

2019年07月12日(Fri曜日) 午後1時24分

 「逃亡犯条例」の改正案を巡る香港の混乱は、中国政府による「粤港澳(広東・香港・マカオ)大湾区(グレーターベイエリア)」構想が本格化した直後に起こった。日系繊維企業はこの構想に呼応するように、昨年から中国内販に動き出していた。混乱が長引けば、香港経済が中長期的に低迷していく可能性もある。(香港=岩下祐一)

 「粤港澳大湾区」構想は、香港、マカオ、広州、深センなどの各都市が連携し、2022年までに同区をニューヨークや東京に並ぶ世界的な大湾区に発展させるというもの。中国政府は今年2月、この構想の発展計画を発表した。

 香港経済は1997年の中国返還後、アジア通貨危機にITバブル崩壊、SARS騒動が重なり停滞したが、04年以降、渡航規制緩和による中国人観光客の急増と中国企業の香港市場へのIPO(新規株式公開)ラッシュをカンフル剤に復活した。

 一方、中国の高度経済成長により、かつて強みだった海運は上海や寧波などの都市に追い越された。現在残される優位性は金融と空輸だが、この二つも中国企業がキャッチアップしており安泰ではない。域内総生産(GDP)は18年、隣接する深センに初めて抜かれた。

 こうした中、香港政府と産業界の「粤港澳大湾区」構想への期待値は高い。

 香港政府は昨春、「再工業化」の方針を打ち出した。ハイテク産業を香港に回帰させ、再工業化を図り、経済を活性化させるというのが趣旨。粤港澳大湾区構想を追い風に、これを実現していくもくろみだった。

 繊維産業にも政府が注目する再工業化の事例がある。大手商社、利豊グループ会社で、セーターを製造するコバルト・ファッション社と、島精機製作所が昨年7月共同で開業した「CSイノベーション・ラボ」だ。同ラボは顧客のアパレルブランドに対し、島精機の「ホールガーメント」横編み機を核としたセーターのマスカスタマイゼーション(個別大量生産)の仕組みなどを提案する。自動化で人手が要らないため、香港でも持続発展が可能になる。

 香港の日系企業は、粤港澳大湾区構想に呼応するかのように、昨年から中国内販で活発な動きを見せる。ニット製スポーツウエアやインナーの生産を手掛ける東レ香港は、中国大手スポーツブランド向けの生産に乗り出した。旭化成紡織〈香港〉も、ポリウレタン弾性繊維「ロイカ」の華南地区のニッターへの販売を始めている。

 一方、逃亡犯条例改正案に対する香港市民の抗議活動は、収束の兆しが見えない。55万人(主催者発表)が参加した1日には、若者ら千人以上が立法会(議会)を一時占拠した。

 市民の理解を得られないまま政府が改正を急いだ代償は大きい。福建省アモイ市に親戚を持つ30代女性のビビアンさん(仮名)は、市民の声に耳を貸さない政府への憤りから、今回初めてデモに参加した。こうした市民の失われた信頼を取り戻すのは容易ではない。

 香港経済にとっては、企業の「一国二制度」への信頼が揺らいでいることが深刻だ。外国企業が香港を避けるような事態になれば、港澳大湾区構想は絵に描いた餅になりかねない。