繊維街道 私の道中記/カインドウェア 会長 渡邊 喜雄 氏⑤

2019年07月26日(Fri曜日)

老舗の新たな姿は次代に

  次の100年に向けて立ち上げたヘルスアンドケア用品事業は順調に推移し、店舗数も増える。着実に歩を進めていた同社を襲ったのがリーマン・ショックだった。バブル経済崩壊の影響は小さかったが、今回は衣料品需要低迷の直撃を受ける。

 リーマン・ショック後の1年間は、とにかく消費者の買い控えがすごかった記憶があります。当社の売上高も縮小し、役員報酬を減額しました。「何とかなる」という甘えを捨て、店頭強化策を打ち出しますが、消費者の足は売り場から遠ざかる一方でした。本当に厳しかったですね。

 ただフォーマルウエア市場は比較的早い段階で回復の兆しが見えました。ファッション衣料とは違って、着用が必要な場面があるからです。特に不祝儀用は、急ぎで求められることが多く、店頭に商品がないと消費者は他店・他売り場に行ってしまいます。とにかく品切れを防止することに注力しました。

  フォーマルウエアの絶対需要は底堅く、ヘルスアンドケア用品事業も軌道に乗り、荒波は乗り越えた。とはいえ、国内アパレル業界は勢いのない状態から抜け出せていない。喜雄は「日本のアパレル業界はこれからが一番苦しくなる」と話す。

 衣料品は二極化が進んでいます。低価格品には一定の需要がありますが、市場は数社に握られています。また低価格品だけでは売り上げ規模が一定水準で止まるとされ、いずれは1点当たりの単価アップに迫られます。単価を上げると、その下をかいくぐる新興勢力が出現するという繰り返しです。

 活路は高額品ゾーンにあると考えています。実際の歴史も物語っています。戦後、百貨店で扱う衣料品の平均価格は、専門店よりも安かったといわれていますが、高級路線にシフトして成長を遂げました。フォーマルウエアも同じことが言え、高額品ゾーンの一層の強化が勝ち残りへの戦略になります。

  息子の祥一郎がこのほど副社長に就いた。喜雄と祥一郎を含む上層部は1日数時間にわたって議論を交わし、カインドウェアの新たな方向性を探る。

 消費者のニーズに応えることは大前提です。その上で高級品戦略とも重なるのですが、「カインドウェア」のブランド化に力を入れます。社名として、そしてアパレルブランドとしてしっかりと消費者に提案します。ヘルスアンドケア用品の「カインドケア」もスタンダードを求めない人への展開を強めます。

  祥一郎とは時に意見が衝突するが、目指す場所は「誰も見たことがない老舗の新しい姿」で一致する。そこに到達するには新たな感覚が必要だと知る喜雄は思いを次代に託す。父・國雄がそうだったように。

(この項おわり、文中敬称略)