繊維街道 私の道中記/東海染工 会長 八代 芳明 氏(3)

2019年08月07日(Wed曜日)

黒字のはずはないが……

 先輩取締役から反対の声が出たものの、八代はロータリー捺染機を1台導入した。

 導入したロータリー捺染機の月産能力は100万㍍です。何でもいいから注文を取ってきてほしいと営業員に指示しました。すると本当に100万㍍取ってきました。

 ただ、これには伏線があります。ロータリーを入れる前、フラットスクリーン8台の時、婦人服だけをやっていたので夏になると稼働率が50%ぐらいに落ちていました。で、なんでもいいから稼働率を上げられるものはないのかと営業員に聞くと、米国向けレーヨン織物ならあると言う。当時の京都事業所の加工の平均単価は175円ぐらいでした。これに対し米国向けは110円ぐらいと、とてつもなく安い。稼働率を上げるために、それでもいいからと受注しました。

 ところが、レーヨン織物を扱うのは初めて。ただでさえ難しいレーヨンを初めて扱うのですから、クレームだらけ。その処理に年間で1億円払いました。結果、赤字が増えました。社内外から、「京都事業所は米国向けレーヨン織物の捺染を受注するほどに落ちぶれた」との声が出ていましたが、それでも受注した結果がクレームだらけ。「それみたことか」という雰囲気になりました。

 この状況の中で、ロータリー捺染機を入れたわけです。このスペースを目掛けて、米国向けレーヨン織物のプリント依頼が大量に入りました。で、本当に月間100万㍍を受注できました。するとフラットスクリーンの部門も頑張りだして、それまで150万㍍だった月産量が200万㍍に増えた。

 それでも赤字の解消は難しいと八代は思っていた。ところが……。

 ロータリー捺染機を入れたのは夏です。その年の10月に月次損益を計算してみると2千万円の黒字になっていました。シミュレーション段階では赤字だったので、計算間違いだと思いました。本社からも、京都事業所の計算に間違いがあるはずだからやり直せとの要請がありました。しかし、計算し直してみてもやっぱり黒字。以降、ずっと黒字で推移し、10年間の合計で40億円の利益を出しました。

 今にして思えば、黒字になった原因の一つは、それまでフラットスクリー捺染を月間150万㍍こなしていたのと同じ人数で、フラットスクリーン200万㍍、ロータリー100万㍍、合計300万㍍こなしたこと。もう一つは、クレームで1年間に1億円も費やしたことへの反省から、現場が必死になって改善策を講じたこと。それで、クレームが減った。

 とは言えこれは、私が意図したことではありません。偶然です。このことで経営者として学んだことがあります。それは、正解のないことに答えを出すことが経営者の役割だということ。普通は、責任を持つのが嫌だから、答えを出しません。しかし経営者は、正解がないことに恐怖心を持ってはいけない。

(文中敬称略)