ベトナム繊維産業/対米活況の裏で対日には暗雲も/スペース確保難、コスト高など

2019年09月06日(Fri曜日) 午後3時16分

 米中貿易摩擦の“迂回(うかい)地”という要素も加わって対米輸出がさらに活気づくベトナム繊維産業。縫製だけにとどまらず、韓国、台湾、中国資本の参入が相次いだことで糸、生地、副資材の生産も一気に増強され、中国に次ぐ繊維大国として一貫生産体制が整ってきた。明るい話題に事欠かない同国だが、日系繊維企業にとっては必ずしも喜ばしいことばかりではない。対米拡大機運の中で、対日縫製スペースが制限されるため。コスト高や人手の確保、CSR調達への対応という難題もある。国全体の活況とは裏腹にかじ取りの難度が増す在ベトナム日系繊維企業の動向を追う。(吉田武史)

 「大ロット型の縫製工場では対米志向が強まっているが、小ロット型との取り組みばかりなので現時点で影響はない」(ヤギ・ベトナム)、「一般論として厳しさを増しているのは事実だが、今のところ実際の害はない」(田村駒ベトナム)など、現時点でスペース確保がままならなくなっているところはほとんどない。ただ、「対日にとって(対米拡大機運は)喜ばしい傾向ではない。今後スペース確保の競争が激化するのは必至」(帝人フロンティア〈ベトナム〉)という声が出るように、今後への懸念は募る。

 対策として各社が講じるのは、「話し込みを進めて関係強化」(田村駒ベトナム)、「ライン契約を増強していく」(三井物産アイ・ファッション)といった施策だが、対日特有の「小ロット」「タイトな納期」「工賃の安さ」「厳しい品質基準」という要素がある限り「抜本的な改善にはつながらない」との指摘も出る。

 コスト高にも各社が苦慮する。最低賃金の平均引き上げ率は2017年が7・3%、18年が6・5%、19年が5・3%と徐々に上昇幅は鈍化しているものの、今後も持続して引き上げられることが確実視されるため、一層のコストアップは避けられない。四つに区分けされる賃金エリアの中で、安い労働力を求めてエリアを変更する工場も増えている。そうなると納期管理が難しくなり、品質管理スタッフの労務管理を変更する必要もある。顕在化しつつある人手不足と合わせて日系商社のかじ取りが難度を増すのは確実。

 グローバルブランドを中心にCSR調達のニーズが高まっているため、その対応にも追われる。ここにもコストと納期が絡む。現在のベトナムは週休1日が大勢で、長時間勤務をいとわない人材も多いが、休暇や残業管理など「働き方」の国際基準が持ち込まれ、その対応に迫られつつある。「対応は可能だが、CSRを追求すれば納期は遅れ、コストも上がる。その分を発注者が負担してくれるのかと言えばそんなことには一切ならない」と日系商社の複数のトップが漏らす。国全体が好況イメージに包まれるベトナムの日系企業は実は、理想と現実のギャップにもがいている。