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2019年秋季総合特集(6)/top interview シキボウ/“心ときめく”モノ作りを/社長 清原 幹夫 氏/将来に向けた設備投資を本格化

2019年10月28日(Mon曜日) 午後4時49分

 日本の繊維産業は高い技術力を持ちながらも特にファッション用途では相対的に地位が低下しているとシキボウの清原幹夫社長は話す。この状態から挽回するためには「“心ときめく”モノ作りについてもっと考えないといけない」と指摘する。こうしたモノ作りの方向性を求めて同社では現在、社内に研究会を設けるなど取り組みを進めている。「心の充足感を提案できるモノ作りに日本の繊維産業の潜在力を発揮できる場がある」と強調する。

  ――日本の繊維産業の潜在力とは何でしょうか。また、それを発揮するためには何が必要でしょうか。

 日本の繊維産業は高い技術力を持ちながらも、特にファッション分野では相対的に地位が低下しています。なぜそうなっているのか、どうすれば潜在力を顕在化できるのかについて社内でも研究会を設けて検討しているところです。そこで出てきた議論として「役に立つ、役に立たない」「心ときめく、ときめかない」の2軸で考えることがあります。従来、日本の繊維産業はコストパフォーマンスも含めて「役に立つ」ことを追求してきました。その前提には、消費者が日常生活で直面する多くの不便や課題があったからです。それを解決することは企業の使命です。ところが現在、消費者が日常生活で経験する不便や問題の多くはある程度解決が進みました。そのため「役に立つ」だけでは消費者のニーズをつかめなくなっています。これが衣料品の直面している問題でしょう。

 一方、やはりファッションには意味があるはずです。それが“心ときめく”という視点です。役に立つだけでなく、心の充足感を提案できるモノ作りが必要です。そうした切り口なら、日本の繊維産業が持つ潜在力をもっと発揮できるのでは。例えばクラフトマンシップを打ち出すことや、ファクトリーブランド化などの方法があります。実際に欧州のブランドは、こうしたことを当たり前のようにやっています。

 当社も海外での生産を拡大しながら、国内に紡績、織布、染色加工、縫製の工場をそれぞれ維持しているのは、そのためでもあります。やはり日本では衣服の魅力が過小評価されている面もありますから、“心ときめく”モノ作りができれば、まだまだ潜在力を発揮することができるでしょう。もちろん、簡単なことではありませんが。

  ――2019年度(20年3月期)も後半に入りました。

 上半期(4~9月)は苦戦しました。特に繊維事業は回復が遅れています。それでもここに来て改善の兆しは見えてきました。これまで中東民族衣装用織物が低迷していましたが、流通在庫が減少したことで受注が回復傾向となっています。ユニフォームは売上高こそ堅調もエネルギーや染料・薬剤のコストアップで採算が厳しかった。このため値上げを進めていますが、その効果が表れてくるのは下半期からとなります。原糸は、それこそ国内生産でクラフトマンシップを打ち出した特殊糸に特化し、さらにベトナムの協力工場でも高付加価値糸の生産を拡大しました。海外での販売も拡大しているので、提案を強化するためにベトナムのホーチミンに事務所を開設する方向で検討を進めています。インドネシアの紡織加工子会社、メルテックスも順調でした。

 産業材事業は製紙カンバスなど産業資材の売り上げが減少しました。しかし、これは製紙業界の生産動向次第のため当初から織り込み済みです。一方、複合材料など機能材料は航空機部品向けが順調に拡大しています。ただ、かなり積極的な計画を立てていたので、そこまでは至っていません。

 化成品はガラス繊維集束材が中国向けで好調です。中国でも電子基板用のガラス繊維織物などが細繊度化・薄物化する中でガラス集束材も高機能なものが求められるようになり、当社にとって追い風となっています。食品用増粘剤も新しい市場が出てきました。当社の増粘剤は天然由来原料から製造されています。このため環境配慮の面から改めて注目が高まってきました。

  ――今後の課題や重点戦略は何でしょうか。

 数字の面では上半期に計画から落ち込んだ部分をどのように挽回するかがポイントです。繊維では特にリビング分野に力を入れます。通常の寝装用途だけでなくリネンサプライ向け資材の拡大を進めています。東京オリンピックも控え、ホテルの新設や改装が増えていますから需要はあります。

 全社的な課題としては、将来に向けた設備投資を確実に実行することです。現中期経営計画では3年間で約80億円を投資する計画ですが、さらに追加で20億円を投じることにしました。例えば中央研究所(滋賀県東近江市)に航空機エンジン部材向けの研究開発施設を作ります。また、鈴鹿工場(三重県鈴鹿市)で製紙用カンバスの製造設備を増強します。既に建屋が完成し、これから織機などの据え付けが始まります。製紙用カンバスの設備増強は、国内では久しぶりですが、やはり将来に向けた投資となります。こうした計画を着実に実行していくことが下半期以降の重要な課題です。

 そのほか、繊維から派生した事業として悪臭対策剤の「デオマジック」があります。これは国内だけでなく海外でも需要に火が付きそうな気配があります。例えば中国などでも食品加工場などで悪臭対策へのニーズが高まってきました。こうした新しい商材の提案の成果にも期待しています。

〈私のリフレッシュ法/リフォームで“夢の城”が完成〉

 「子供が全員独立したこともあって最近、自宅をリフォームしました。天井の一部を取り除いて、長年の夢だったロフトを作りました」と言う清原さん。ロフトの壁面やロフトに上がる階段の壁も全て本棚にしたそうだ。「いまは隠れ家にこもって、少しずつ本を書架に収める作業をしています。ただ、ついつい手にした本を読み始めたりして作業がなかなか進まない」とか。本棚に囲まれた部屋は愛書家にとって“夢の城”。そこで過ごす時間は嫌なことを全て忘れさせてくれるのも愛書家共通だろう。

〔略歴〕

 きよはら・みきお 1983年シキボウ入社。2002年繊維部門衣料第1事業部長、08年メルテックス社長、11年執行役員、12年取締役、15年取締役兼上席執行役員。16年6月から代表取締役兼社長執行役員。