スパイバー/タイ東部で生産へ/クモ糸の応用技術で夢の新素材

2020年02月07日(Fri曜日) 午前11時43分

 クモ糸の遺伝子を元に人工構造タンパク質を使った新素材の開発・生産を手掛けるスパイバー(山形県鶴岡市)。2007年から続けてきた研究開発が実を結び、鋼鉄よりも強く、ナイロンよりも伸縮性のある夢の新繊維「ブリュードプロテイン」を使ったTシャツやアウトドアジャケットの商品化にこぎつけた。現在、21年の稼働に向けてタイ東部ラヨーン県で工場建設を進めており、量産開始によって生産コストを抑えることができれば、「5年後には広く一般衣類に使われるようになる」とみている。

 スパイバーが生産する人工構造タンパク質は、繊維をはじめ、樹脂、フィルム、ゲルなど、さまざまな素材への加工が可能だ。構造タンパク質は、植物資源を元に微生物が生産(発酵生産)するため、化学繊維と違って石油に依存しないことが最大の特徴。生分解性も期待されており、世界的な問題となっているマイクロプラスチックによる海洋汚染の抑制にも有効と考えられている。

 スパイバーはスポーツウエアなどの製造・販売を手掛けるゴールドウィンと行う共同研究開発プロジェクトの一環として昨年6月、地球上の植物と微生物の重量比になぞらえ、コットンとブリュード・プロテインを82・5対17・5の割合で配合したTシャツを発売。昨年12月には3層から成る表地の表側生地にブリュード・プロテインを採用したアウトドアジャケット「ムーン・パーカ」を50着限定で発売した。

 スパイバーの関山和秀代表によると、人口減少が進む日本の消費は縮小しているが、地球規模では拡大している。世界の繊維消費量は年間9千万トンで、年率4%のペースで増加すると考えられ、50年には2億トンに達すると推計されている。繊維の原料の大半が石油由来だが、関山代表は「将来的には繊維需要の15~20%を石油由来から人工構造タンパク質に置き換えたい」と語る。

〈工場稼働でコストは大幅に低下〉

 スパイバーは現在、スパイバータイランドとしてタイにも拠点を置き、ラヨーン県のWHAイースタンシーボード工業団地1(ESIE1)で工場の建設を進めている。スパイバータイランドの森田啓介取締役は、量産化に向けた工場の立地としてタイを選んだ理由について、「微生物発酵の原料となるバイオマス資源(砂糖、キャッサバから採れるグルコース)が豊富であること。そしてプラントの建設コストが相対的に低く、電気や水などのユーティリティーの供給が安定しており、政情が安定していることで、タイへの工場設置を決めた」と説明。加えて、アパレルと並ぶ主な供給先として考えている自動車部品メーカーが集中していることも理由に挙げた。

 工場は昨年7月に着工し、今年中の完成を予定している。21年内に構造タンパク質の商業生産を開始する計画だ。商業生産に当たって、工場従業員は50人ほどを予定している。プロセスの自動化を進めるため、従業員数はあまり多くないが、タイはエンジニアが少ないのが人材確保上の課題だと指摘する。

 工場の稼働によって、生産コストの低下が見込まれる。現在の具体的な生産コストは明らかにしていないが、1㌔当たりの生産コストが数百円のポリプロピレン繊維に対し、「まだまだ競争力があるとは言えない」(森田取締役)と言う。昨年発売したTシャツの価格は税別2万5千円、ダウンジャケット「ムーン・パーカ」は税別15万円と石油由来の素材に対して割高感は否めないが、タイ工場の稼働によって、ブリュード・プロテインの生産コストは大幅に下がる見込みだ。

〈自動車産業にも供給〉

 森田氏は、当面は市場規模の大きいアパレルや自動車産業への供給に注力すると説明。アパレルではポリエステルをはじめとした合成繊維、自動車では繊維強化プラスチック(FRP)といった石油由来の素材が多く使われており、バイオ由来の人工構造タンパク質によって代替できれば、環境負荷の軽減に向けた社会的なインパクトは大きいと指摘した。〔NNA〕