特集 アジアの繊維産業Ⅰ(1)/新たな市場を切り開け

2020年03月30日(Mon曜日) 午後3時41分

 アジアに事務所や工場などの拠点を設ける日系企業の販路のほとんどは日本。日本市場の縮小は不可避なため、事業の維持拡大を狙うのなら、これら海外拠点も新たな市場を探す必要がある。国・地域だけでなく、新たな分野を切り開き、事業拡大につなげるというミッションもある。ベトナム、インドネシア、タイの日系繊維企業に、新市場開拓戦略を聞いた。

〈ベトナム/欧州とのFTA発効を契機に〉

 ベトナムでは欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)が今年7月に発効する見通しだ。既に数年前から「対日以外の販路を」との声が挙がっていた同国だが、このFTAを契機に新市場開拓の作業が加速するのは間違いなさそうだ。

 「FTAの発効をどう活用するのかがわれわれのミッション」と話すのはヤギ・ベトナム。最終製品をネットでベトナム市場に販売するなど内販にも着手する同社だが、今後はEU市場の開拓に向けて「まずは商品力を引き上げていく」考え。

 糸・生地販売の蝶理ベトナムは「生地単品ではインパクトが弱い」として、欧州に対してベトナム縫製品とのパッケージ提案を進める計画。

 島田商事〈ベトナム〉もEUとのFTAを「大きな課題」と捉えており、「既に実績のある香港や上海の法人との連携で顧客獲得を目指す」。

 自社縫製工場を持つ豊通ファッションエクスプレスベトナムは「本体の差別化素材をベトナム自社工場と協力工場で縫製し、欧米市場の開拓を狙う」という方針を1年前から掲げており、FTA発効をそのための好機と捉える。

 まだ同国では少数派だが、内販拡大に臨もうとする声も強い。既に輸出実績を積む伊藤忠商事グループのプロミネント〈ベトナム〉は同国の経済成長を背景に「内販拡大のための体制構築が急務」として、そのための人材育成、組織の再編を進める。

 既存分野とは別に、新たな分野を新市場と捉えて開拓を進めようとする動きも活発化している。トーレ・インターナショナル・ベトナムはこれまでの生地コンバーティングに加えて、糸・わたなどファイバー事業と縫製品事業をスタートさせた。ファイバー事業では増員も予定。これにより、靴下、寝装、不織布分野の開拓を狙う。

 クラボウ・ベトナムは、サステイナビリティー(持続可能性)関連商品へのニーズが高まっていることを受けて、「縫製工場などと一緒にこのニーズを取り込んでいく」と意気込む。

 三井物産は、スポーツ系で中軽衣料市場を、ユニフォーム系では高付加価値市場を、カジュアル系でパンツ以外の重衣料や中軽衣料アイテムの強化を図るとともに、欧州市場も「縫製工場との取り組み強化と素材開発強化を進めて」開拓を狙う。

〈インドネシア/内販拡大戦略が徐々に進展〉

 日本の衣料品市況が冷え込む中、在インドネシア日系企業では「いよいよ日本向けだけでは限界が来た」との認識が一般的。このためASEAN域内縫製に向けた糸・生地販売の拡大を志向する企業が多い。例えばシキボウの紡織加工子会社であるメルテックスはシキボウベトナム事務所と連携して拡販に向けた体制を整えている。

 さらに重要性が高まっているのが内販だ。人口の多さがその魅力。ただ、中国品などとの競争がありハードルは高い。このため、海外品との競合が比較的少ないアイテムであるバティックやヒジャブなどの民族衣装生地を、東海染工のトーカイ・テクスプリント・インドネシアや日清紡グループが積極的に拡販しようとしている。

 一方、SPA向けは堅調が続いている。インドネシアの小売業は、一定割合で国産品を取り扱う義務がある。このため現地での店舗拡大を進めている日本のSPAなどはインドネシア生産を拡大せざるを得ない。

 東レグループなどSPA向けを得意とする日系繊維企業はインドネシアで糸・生地から縫製までの一貫生産の拡大を進めている。

 規模は小さいが日系シャツアパレルなどが内販で成果を挙げつつあり、ここに対して東洋紡インドネシアは「Zシャツ」など独自性のある商材を供給することに成功した。東洋紡は欧米ブランドの現地ライセンス生産品に対してもZシャツの採用拡大を進めている。

〈タイ/各社各様の新市場〉

 タイでも日本市場の縮小を背景に、輸出、内販、新分野の開拓意欲が高まっている。

 輸出拡大を志向するのは、旭化成スパンボンド〈タイランド〉、タイ旭化成スパンデックス、タイ・ナムシリ・インターテックス、テイジン・フロンティア〈タイランド〉、タイ蝶理、モリリン〈タイランド〉、タイ東海、タイクラボウなど。

 モリリン〈タイランド〉は「インドに向けて日本の特殊素材を拡販する」とし、旭化成スパンボンド〈タイランド〉も「人口背景のあるインドに大きな期待」を持っている。タイ東海は「米国、欧州市場を開拓する」と意気込み、タイ・ナムシリ・インターテックスも「欧米スポーツアパレルに対し、リサイクル素材を使った商品や『ソロテックス』といった独自の差別化商品をグループ連携しながら販促を開始」した。

 タイ旭化成スパンデックスはベトナムやインドネシアなどASEAN域内への販売拡大と、インド、バングラデシュ、パキスタン、スリランカなど西アジア地域への販売拡大を狙う。そのため「生産品種拡充と現地での備蓄オペレーションなどの物流整備を進める」方針だ。

 テイジン・フロンティア〈タイランド〉は「バーツ安を受けて、失いかけていたアジア近隣国への輸出商権の復活に期待」する。タイクラボウは「地域的なメリットを生かし」ながら、クラボウ・ベトナムとの連携によって輸出拡大に臨む。

 内販拡大戦略を打ち出すのは、タイ・ナムシリ・インターテックスやテイジン・フロンティア〈タイランド〉。タイ・ナムシリ・インターテックスは、「テイジン・フロンティア〈タイランド〉と連携し、ユニフォームやスポーツ向けの新規顧客開拓を行う」方針。テイジンフロンティア〈タイランド〉は「内需拡大に向けた種まきを、景気低迷時にしっかりやっておきたい」とする。

 国・地域ではなく分野の違いで新領域を狙う企業もある。

 旭化成アドバンス〈タイランド〉は「タイでは汎用品に対する競争力が低下しており今後のキーワードは高品質と高機能」とし、メディカル分野への進出を重要テーマとして掲げた。