特集 アジアの繊維産業Ⅰ(4)/東レのASEAN戦略/重層的な展開で価値創出/環境配慮素材も拡大本格化

2020年03月30日(Mon曜日) 午後3時45分

 東レの繊維事業は「多彩な商品群」「サプライチェーン」「グローバル展開」の3軸を重層的に展開することで商品の高付加価値化や新たな事業領域の創出に取り組んできた。こうした動きはASEAN各国の東レグループ各社で具体的に取り組みが加速している。世界的に要求が強まる環境配慮型素材やサステイナブル(持続可能な)商材もASEAN域内の東レグループ各社が連携することでグローバルに供給する体制が整いつつある。

 ASEAN地域の東レグループは、特にポリエステル・綿混織物事業で大きな役割を担っている。ポリエステル・綿混織物は現在、米中貿易摩擦を背景にアジア市場に中国品が流入するなどで定番品を中心に市況が低迷している。これに対してタイ、インドネシア、マレーシアの紡織加工各社が連携し、糸・生機、染色加工を相互活用することで商品の高付加価値化とコストダウンを含めた生産最適化に取り組んでいる。

 さらに開発情報も一体化することで、ポリエステル・綿混織物事業グループとして独自の商品開発にも取り組む。こうした素材をASEAN各地の縫製拠点へと投入し、日本を含めたグローバルなサプライチェーンに参画する取り組みが進められている。

 グループ連携による商品開発は、世界的に要求が高まる環境配慮型素材でも進む。その一つが回収ペットボトルを原料とする繊維素材「&+(アンドプラス)」だろう。

 再生ポリエステルの需要は世界的に高まっているが、新興国の多くは国内に使用済みペットボトルなど再生ポリエステルの原料となる廃棄物を回収する仕組みがない。最近では海外から廃プラスチックを輸入することを禁止する動きも強まる。このため高品質な再生ポリエステル原料を確保することができない。

 これに対して東レは、日本の回収ペットボトルを原料にした「&+」をタイ、インドネシア、マレーシア各国のグループ会社で糸・わた・テキスタイルで展開できる生産体制を構築している。これにより「&+」もグローバルなサプライチェーンに投入することができる。

 ASEAN地域の東レグループが連携することで「商品」「サプライチェーン」「グローバル展開」の3軸が組み合わさった重層的な事業戦略が実現しようとしている。

〈インドネシア/商品、商流改革を加速/縫製まで一貫の強み生かす〉

 インドネシア東レグループ各社とも商品、商流改革による高付加価値化に取り組んでいる。糸・わたから縫製まで一貫したサプライチェーンがあることも強みになる。

 合繊糸・わた製造のインドネシア・トーレ・シンセティクス(ITS)はポリエステル、ナイロンともに2019年度は中国品との競争激化で苦戦した。「定番品では利益を出すことが難しい環境になっている」(西村成伸ITS副社長)として、グループ連携による商品開発と縫製まで一貫のサプライチェーンへの参入拡大を進める。回収ペットボトルを原料とする繊維素材「&+」の量産も20年から本格的にスタートする。

 紡織のイースタンテックス(ETX)も主力市場であるトルコやバングラデシュは中国品流入で販売価格が低迷している。このため同社もマレーシアのペンファブリック、タイのトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)、インドネシアのセンチュリー・テキスタイル・インダストリー(CENTEX)への生機供給拡大や各社との商品開発を強化し「稼働率・特品率を上げることで利益率を高める」(吉村暢浩ETX社長)ことを目指す。そのための高付加価値品生産と省人化に向けた設備投資も進める。

 紡織加工のCENTEXも定番シャツ地の市況が低迷していることから「カジュアルやユニフォーム、中東民族衣装用途の拡大に取り組む」(岡嶋克也CENTEX社長)。18年には染色加工工程を増強しており、ETXの生機も活用しながら、ストレッチ品など高付加価値品の生産も強化する。内需向けを含む縫製企業への直接販売にも引き続き力を入れる。

 紡織加工のインドネシア・シンセティック・テキスタイル・ミルズ(ISTEM)は主力のポリエステル・レーヨン混織物の値上げ実施などで利益率を高めると同時に、インドネシア縫製に向けた提案を強化する。19年度は官需向けで受注を獲得するなど成果も出てきた。アクリル紡績のアクリル・テキスタイル・ミルズ(ACTEM)は日系SPA向け染め糸が好調だが、さらなる売り先の開拓が課題。「ISTEMはポリエステル紡績糸織物で中東向けだけでなくシャツ地など新規用途の開拓を進め、ACTEMは春夏素材の開発を進める」(梅木英雄ISTEM社長兼ACTEM社長)ことなどに取り組む。

 縫製まで一貫のサプライチェーンでインドネシア各社の商材を活用するために役割が大きいのが縫製オペレーションを担うトーレ・インターナショナル・インドネシア(TIIN)。日系SPAなどがインドネシア生産を拡大する中で「生地の内製化を進め、原糸・原綿から縫製までインドネシアでの一貫生産を拡大する」(尾﨑完司TIIN社長)ことを目指す。

《在インドネシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ・インドネシア社長 山本 浩房 氏/重要になるグループ連携》

 2019年はインドネシアの自動車販売台数が減少するなど経済に勢いがなく推移しました。繊維業界では米中貿易摩擦の影響で中国から安価な商品が流入しており、現地企業の工場閉鎖が増加するなど大きな打撃を受けています。このため昨年11月からは繊維製品に対するセーフガードが発動されました。

 こうした中、インドネシア東レグループも19年度(20年3月期)は販売単価の下落などで苦戦しています。特に定番品の落ち込みが大きくなっています。

 このため“量”を追うのではなく、商品と商流を改革することで高付加価値品中心への転換を、さらに加速することが必要です。そのためにASEAN内の東レグループ各社との連携を一段と強めることが重要になります。

 環境配慮の取り組みも重要性が一段と高まりました。これも東レグループとして取り組みます。省エネルギーなどへの投資に加えて、回収ペットボトルを原料とする繊維素材「&+」のインドネシアでの量産も今年から本格化します。こうした商品を日本やインドネシアだけでなく他のASEAN諸国を含めた商流に供給することを目指しています。

〈タイ/一貫型で事業を拡大/環境ビジネスにも注力〉

 タイ東レグループ各社は2020年度からの次期中期経営課題で原糸から高次加工、縫製品までの一貫型事業の拡大に取り組みながら高付加価値化を図る。

 合繊長繊維などを製造するタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)は次期中経で、引き続き高度化・高次化を推進しながら「グループオペレーションへの貢献など東レグループとして、タイに原糸製造拠点を持つ意義や商流をより意識した取り組みを強化する」(奥村由治TTS社長)方針だ。

 現状、衣料用、産業用とも低調に推移するが、高度化・高次化を図る一方、衣料用はグループの原糸生産拠点がないベトナムでのオペレーションをポイントに挙げる。

 スポーツを中心とするグローバルアパレルブランドからリサイクル原料を使用した素材の要請が高まっており、単にペットボトル再生だけでなく、トレーサビリティー(追跡可能性)も含めた新ブランド「&+」を東レ本体と連携して訴求する。

 19年7月に2社が統合し、総合テキスタイルメーカーとなったトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)は「販売面、生産面で相乗効果が生まれている」(前川明弘TTT社長)。現在はポリエステル・綿混織物はじめ短繊維織物は安価品攻勢などから低調。長繊維織物も19秋冬の暖冬の影響を受ける。エアバッグ基布も自動車販売台数の落ち込みで調整局面にあるという。

 次期中経では既存用途のビジネスシャツ、学童ユニフォームからスポーツ・カジュアル、ユニフォームなど機能性や感性がより求められる分野を強化し高付加価値化を図る。再生ポリエステル繊維使いへの転換も進める。

 グループ各社の差別化糸・わたを活用した新商品をグループの販路、縫製品までを含んだサプライチェーンに結び付ける。そのためにも営業、生産の現場力強化が課題となる。

 商事会社のトーレ・インターナショナル・トレーディング〈タイランド〉(TITH)は次期中経で「材料+加工など強みが発揮できるビジネスに焦点を当てる」(高橋伸宜TITH社長)考え。従来の日系企業中心の事業展開から、グループのネットワークを活用し、欧米、韓国系向けのビジネス拡大も図る。

 さらに環境関連ビジネスはASEANが先行する形で拡大するとみて体制を整備する。水・空気、廃プラ削減につながる高付加価値包装材料の本格化を目指す。

《在タイ国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈タイランド〉社長 高林 和明 氏/出口戦略で高付加価値化》

 2019年、タイのGDP成長率は2・4%と前年4・1%から大幅に落ち込みました。自動車生産も昨年半ばから下降局面に入り、生産台数は201万台と前年比7%減。にもかかわらず、為替相場は対ドル、対円ともバーツ高で推移し、昨年末には1ドル30バーツを切る水準となりました。20年は新型コロナウイルスの影響で観光収入が減少し、GDP成長率がさらに下降すると予想されますが、安定した経常黒字を背景にバーツ高の流れは変わらないとみています。

 当社グループは19年度(20年3月期)が中期経営課題「AP―G2019」の最終年度です。その19年度は、バーツ高や米中貿易摩擦の影響から厳しく、体質強化に取り組んだものの、売り上げ面では苦戦しています。このため、成長軌道に戻す取り組みを強化しています。その一つが昨年実施した旧ラッキーテックスと旧タイ・トーレ・テキスタイル・ミルズ(TTTM)の合併によるトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)設立です。

 繊維事業は今後も出口戦略を強化し、原糸から高次加工、縫製品までの一貫型事業の拡大に取り組みながら、次期中期経営課題で高付加価値化を図っていきます。特に「東レグループ サステナビリティ・ビジョン」の実現に向けて環境問題への対応を重要課題と位置付け、回収ペットボトルを原料とする繊維素材の新しいブランド「&+」では、原糸、テキスタイル一貫の取り組みに注力し、ペットボトルリサイクルを通じて、循環型社会の実現への貢献を目指します。

〈マレーシア/ポリエステル・綿混事業の中核/生産の20%を環境配慮素材に〉

 マレーシア東レグループは日本やアジアの東レグループ各社との連携を強めながら、商品の高付加価値化に取り組む。特にポリエステル・綿混織物事業の中核的役割を担うことを目指す。環境配慮型素材の拡充にも積極的に取り組み、生産量に占めるウエートを高める。

 ポリエステル短繊維製造のペンファイバー(PFR)は主力市場である中国やトルコの市況低迷の影響を受けた。一方、日本から原料チップを持ち込んで生産する回収ペットボトルを原料とする繊維素材「&+」や、カチオン可染わた、難燃わたなど高付加価値品の販売が拡大した。

 このため20年度は「高付加価値品をさらに拡大する。特に「&+」は極細繊度品やフルダル品、特殊加工による羽毛調中わたなどでブランド展開する」(高野伸幸PFR取締役)ことに取り組む。また、東レ本体や東麗繊維研究所〈中国〉(TFRC)と連携した開発にも取り組む。

 さらにマレーシア、タイ、インドネシアの東レグループ紡織加工会社との連携も強め、縫製まで視野に入れたサプライチェーンへの原綿供給拡大に取り組む。

 ポリエステル・綿混紡織加工のペンファブリック(PAB)は主力のシャツ地が競合国での増産などによる市況低迷の影響を受けた。このためカジュアルやユニフォーム分野での拡大を進める。

 PABは東レのポリエステル・綿混織物事業の中核的役割も担う。インドネシアのイースタンテックス(ETX)とセンチュリー・テキスタイル・インダストリー(CENTEX)、タイのトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)などと連携し、「生機や加工スペースを相互利用することで生産・販売体制の最適化を実現する。TFRCも含めてポリエステル・綿混織物事業グループとして開発情報も共有し、商品開発を一体化する」(西村友伸PAB副社長)ことに取り組む。

 環境配慮型素材の拡大も重視し、早期に生産量の20%を「&+」など“エコマテリアル”を使った商材とすることを目指す。生産プロセス全体の環境負荷低減にも取り組んでおり、サステイナブル(持続可能な)生産体制を証明する国際認証「エコテックス・ステップ」もテキスタイルメーカーとして世界で初めて取得した。こうした取り組みを打ち出すことでグローバルなサプライチェーンへのテキスタイル供給拡大に取り組む。

《在マレーシア国東レ代表 トーレ・インダストリーズ〈マレーシア〉社長 テー・ホック・スーン 氏/構造変化に対応するモノ作り》

 マレーシアは2019年の実質GDP成長率が4・3%にとどまり、輸出成長率はマイナス1・7%となりました。原油輸出の落ち込みやパーム油の主要輸出先であったインドが外交上の対立から全面禁輸措置を取ったことなどが影響していますが、やはり米中貿易摩擦の影響も大きく出ています。従来、マレーシアは中国に中間材を輸出し、中国は最終製品を米国に輸出する構造でした。しかし現在、このサプライチェーンが構造変化しようとしています。

 マレーシア東レグループも米中貿易摩擦の影響を大きく受けました。米国の顧客の買い控えや中国品との競争激化、中国の景気が後退したことによる需要減退がアジア市場にも拡大しました。汎用品を中心に価格競争も激しさを増しています。

 サプライチェーンの構造変化に加えて消費者の志向も変化しました。例えばEコマース、エシカル(倫理的)ソーシング、環境などが重要になります。こうした変化に対応するため、生産能力を変えるのではなく、生産品の高付加価値化とバリエーションの拡大を進めます。他社ができないモノ作りに取り組みます。

 東レグループの強みはこれまで繊維事業に投資を続けてきたことです。だからこそバイオ原料ポリエステルや再生ポリエステルの事業にも取り組めます。17年からは現地の水道公社と連携して工場の廃水処理にも取り組んでいます。今後は処理で発生するスラッジ(汚泥)を土木建築資材などにリサイクルする取り組みにも挑戦します。