特集 アジアの繊維産業Ⅱ(5)/タイ/経済減速、どう乗り切る/在タイ日系企業の戦略

2020年03月31日(Tue曜日) 午後1時25分

 タイ経済は2019年、減速が続いた。実質GDP成長率は2・4%と前年の4・2%から落ち込んだ。輸出減退に伴う景気低迷、個人消費や設備投資の冷え込みが響いた形だ。ここに来て、新型コロナウイルスの感染拡大による観光業への打撃はもちろん、世界経済減速の影響も懸念される。20年のタイ経済はさらに厳しい局面を迎える可能性がある中で、タイに進出する日系繊維企業はどのような手立てを講じ、この難局を乗り切るのか。在タイ日系企業の戦略を探った。

〈ASEAN域内を強化/国内経済が冷え込む中〉

 タイのGDP成長率は19年に2・4%(前年4・1%)と大幅に落ち込み、けん引する自動車の生産台数も201万台と前年比7%減となった。20年は新型コロナの影響で観光収入が減少し、GDP成長率はさらに下落するとの見方は多い。一方、為替相場はバーツ高の流れが変わらないとみられ、輸出産業には厳しい。その中で在タイ日系繊維企業はさまざまな手立てを講じている。

 タイには合繊メーカーの多くが生産販売拠点を構える。旭化成、ASEAN統括会社の旭化成アジアパシフィック(AKAP)、ポリプロピレンスパンボンド不織布(SB)製造の旭化成スパンボンド〈タイ〉(AKST)、スパンデックス製造のタイ旭化成スパンデックス(TAS)、旭化成アドバンス子会社でカバリング糸製造などの旭化成アドバンス〈タイランド〉(AKAT)がある。

 AKAPは19年8月に設立。基盤が整った20年度はASEAN域内の現地法人(5カ国16社)支援を具体化し、事業支援他の効果を可視化する期間と位置付ける。同時にガバナンス、リスク、コンプライアンスなど本社視点での経営管理強化、浸透の支援に取り組む。

 AKSTはASEANやインドでの需要増を見込み、SB生産能力を21年に年産5万トン(現状比約40%増)へ増強する。それに向けてソフト性を向上させた新商品のプレワークを急ぐ。将来を見据え環境対応品の開発を日本のR&Dチームと連携して取り組む。

 TASはスパンデックス「ロイカ」の基幹工場として、グローバル供給における補完体制整備のため、生産品種の拡充、規模拡大に取り組む。特にベトナム、インドネシアなどASEAN域内とインド、バングラデシュ、スリランカなど西アジアへの販売拡大に取り組む。そのために生産品種の拡充と現地での在庫オペレーションなどロジスティック整備を課題に挙げる。

 AKATはカバリング糸が中国品と競合。撚糸と産業資材も自動車産業低迷の影響を受ける。コンバーティング事業も繊維は日本の低迷とバーツ高が影響する。新型コロナの影響も懸念される中、生産性の向上や合理化などに努め「今できる基本動作」を徹底することで、足腰の強化に努める。

 ユニチカのポリエステルSB製造子会社、タイ・ユニチカ・スパンボンド(TUSCO=タスコ)は21年度中のフル稼働(年産1万トン)が課題。そのためにリサイクル原料使いを含む独自品を拡充する。

〈高付加価値化に注力/インド市場の開拓へ〉

 タイに拠点を置く綿紡績、染色加工企業、商社も他国品との競合が激しくなる中で、サステイナビリティー(持続可能性)対応も含めた高付加価値品を強化する。同時にインド向けをはじめ輸出拡大にも注力する。

 クラボウグループで紡織のタイ・クラボウ(TKC)、紡績のサイアム・クラボウ(SKC)は高付加価値品の販売に注力。クラボウ・ベトナムとも連携し、ASEAN地域の縫製工場との取り組みを強化する。染色加工のタイ・テキスタイル・デベロップメント・アンド・フィニッシング(TTDF)はこの先商況が厳しくなるとみて、受注確保、コスト削減、TKCと協働でサステイナブル(持続可能な)商品の開発に取り組む。

 捺染、無地染め、機能加工を手掛けるタイ東海はマーケットの分散化に重点を置く。景気減速や安価な中国品との競合から事業環境の厳しさは増す。その中で欧米向け販売の受注拡大や産業資材の新商品開発などを強化。同時に品質管理の徹底やスピード対応による顧客満足度向上、合理化によるコスト削減も図る。20年から重油ボイラーからガスボイラーに転換するなど環境規制強化にも対策を講じる。

 タイ蝶理はタイ国内40%、海外60%の販売比率。タイ国内は自動車生産台数減などにより苦戦するも原着糸、リサイクル糸、ストレッチ糸などが日系やタイ企業向けで拡大。苦戦していた中東も回復基調にあり、北米輸出も徐々に増加する。20年度は国内で地道な拡大を図る一方、輸出や仲介取引を増やす。特に周辺国や北米を重視、再生ポリエステル糸「エコブルー」を武器に開拓を狙う。

 モリリン〈タイランド〉はタイ国内販売70%、対日輸出30%の売り上げ比率。日本依存型のビジネスから脱しつつある。ただ、タイ国内の繊維製品販売は減速傾向。今後はインドへの販売強化に取り組む。特に日本の特殊な素材の販促活動を強化。同時に欧米、日本向けはサステイナブル素材への引き合いも強いため、こうしたオリジナル素材の開発を進める。

 日系検査機関も環境変化に対応する。カケンテストセンタータイ試験室は18年1月に業務提携先、BVCPSタイランド内に開設された。日本向け生地・製品検査や技術相談などを手掛ける。これまでタイ国内や周辺国からの受注増が続いたが、新型コロナウイルスの影響で検査依頼は鈍化傾向。一方、タイ企業が日系企業から小ロット受注するケースが増加する中、提携先と営業協力も行う。

 ボーケン品質評価機構SGSバンコク試験センターはSGSとの業務提携により14年に開設した。以来、試験依頼量は年々増加。問い合わせも増えている。昨近は高付加価値生地の生産拡大に伴う試験が増加、同センターで可能な抗菌試験の依頼も好調という。品質管理の問い合わせも増えており、そのサポートサービスも開始した。

〈世界景気の悪化を懸念〉

 新型コロナウイルスの拡大に収束の兆しが見えず、世界景気の悪化が顕在化する中、タイ経済、そして在タイ日系企業は少なからず影響を受けることが予測される。

 「20年初めに底を打つ可能性があったタイ経済も先行きは不透明」(帝人グループ)とされ、「4月以降、業績への大きなマイナスが顕在化すると思われる」(東レグループ)だけに「今後の影響は甚大になる」(モリリン〈タイランド〉)可能性がある。

 タイ政府は企業支援を準備するものの、新型コロナは観光業だけでなく、企業のサプライチェーンにも影響を及ぼすとみられている。

 それだけに外的要因によるマイナスをミニマイズするために、在タイ日系繊維企業は20年、体質強化に全力を挙げる。