特集 アジアの繊維産業Ⅱ(6)/ベトナム/経済成長続く中、課題も/在ベトナム日系企業の戦略

2020年03月31日(Tue曜日) 午後1時26分

 中国の人件費上昇や米中貿易摩擦、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、ベトナムが中国からの生産移管先としての存在感を一層高めている。生地や副資材の生産体制も急速に整いつつある。経済成長に伴って中間層も拡大。内需拡大が期待され、日系繊維企業も生産地としてだけでなく市場としても同国に目を向けている。ただ、対欧米輸出が拡大する一方、対日縫製品にはスペース確保という課題も横たわる。新型コロナによる商流の停滞も懸念事項。日系企業の現状を追い、今後を展望する。

〈納期短縮、品質向上に努める/EVFTAにも期待〉

 ベトナムで約20年前からスーツ、スポーツ、カジュアル、ユニフォームなどの縫製品生産の管理を行う三井物産は、近年は生地開発も強化し販売を拡大させている。商況は「全般的に前期を上回る推移」と好調を持続。スーツ需要は減退しているものの、スポーツやカジュアルが増加しているためだ。ニーズが高まる同国内での生地供給に対応し、生地から縫製までの一貫企画の拡大戦略も進行している。

 今年中の欧州連合(EU)・ベトナム自由貿易協定(FTA)発効を見据え、既存の協力縫製工場との取り組みを深化させながら、欧州向けの拡大も視野に入れる。

 蝶理ベトナムは2017年の事業スタート以来、同国で糸・生地の供給を行っている。ポリエステル長繊維織物を台湾資本の織布工場で製織するという取り組みが順調に進み、同国での縫製を増やす日本の大手SPA向けを軸に売り上げが拡大している。

 20年12月期は、「計数面は順調に伸ばせているので、一度しっかりと会社の体制、仕組みを見直し足場をしっかり固める一年とする」考え。同時に、今年7月の発効が見込まれるEUとのFTAについては「縫製品とのパッケージで売り込んでいく」方針。

 モリリン〈ベトナム〉の主要事業はミシン糸販売と縫製品OEM/ODMの生産管理。19年12月期は売り上げ、利益ともに前期比横ばいだった。ベトナムの繊維産業全体が好調に推移する中で伸ばし切れなかったのは、ミシン糸販売で欧米企業との競合が激化したことと、対日縫製品が日本市場低迷の影響を受けたため。

 ミシン糸販売では品種の拡大と品質訴求に力を入れる。前期中にウーリー糸とナイロン長繊維糸を新たに追加し、ナイロン糸は欧州のスポーツアパレルでの採用も決まった。紡績から染色、巻きまでをベトナムで一貫生産した糸の内販も進めている。

 縫製品事業では糸からの付加価値化とストーリー性の付与を意識する。タイ法人などと協業しながら独自の糸を手配するなどで付加価値化を進め、受け身型から提案型へのシフトも進める。

 島田商事〈ベトナム〉はスポーツ、ユニフォーム、カジュアル向けの副資材を現地調達し供給している。現地調達率は8割以上。19年12月期は前期比30%増収だった。

 今後の課題に「リードタイムの短縮」を挙げ、倉庫の増設、人員の補強、日常業務の見直しなどで物流改革を行うとともに、出荷前検品の強化を図って改めて品質向上にも努める。

〈各社、川上・川中事業を充実/一貫化でニーズ取り込む〉

 ヤギ・ベトナムは対日縫製品OEM/ODMに加えて独自の商流作りに力を入れている。その一環として数年前から始めた生地の別注は着実に伸びており、今期(2020年12月期)からは生地の備蓄販売も本格化する。

 備蓄に際して協業するのはグループの生地商社、イチメンと糸加工の山弥織物。三位一体で開発を進めて既に織物4品番を備蓄、20春夏向けに「順調なスタートを切れた」。対日縫製品事業ではメンズ関連の受注拡大を狙う。

 トーレ・インターナショナル・ベトナムの主要事業は17年の開設以来、生地のコンバーティング。19年には糸・わた販売や縫製品の取り扱いも開始し、糸・わたから生地、縫製品まで繊維全般のニーズに対応できる体制を整えた。

 業績も着実に伸びており20年3月期は営業黒字化となる見通し。来期は糸・わた事業のスタッフを増員し、東レグループを中心に特徴のある商材を充実させるほか、縫製品事業にもこの商材をつなげて課題であった現地調達比率を向上させ、リードタイム短縮とコスト合理化を図る。

 豊通ファッションエクスプレスベトナムは19年1月に操業開始したビンズン本社工場でユニフォームやナイトウエアを生産する。

 19年度の業績は計画通りに推移した。20年度はスポーツ系アイテムなど「アイテムの幅だし」を進めるとともに、トヨタ生産方式を進化させた生産改善に臨む。

 伊藤商事グループのプロミネント〈ベトナム〉は、原料から縫製までの一貫バリューチェーンの構築に注力する。

 特に力を入れるのがサステイナブル(持続可能)対応と、生地の備蓄販売。環境配慮商材で軸になるのはケミカルリサイクルポリエステルの「レニュー」。日系企業と協業してレニュー使いの生地の見本帳を作成。国内外の取引先に配布し拡販を狙う。

 18年12月設立のクラボウ・ベトナムは縫製工場向け糸・生地供給が主要事業。19年度は初年度ということもありほとんど実績を積めなかったが、20年度はタイ・クラボウなどとも連携してカジュアルやユニフォーム向け糸・生地供給の拡大に力を尽くす。

〈試験依頼も拡大一途/顧客サポート充実もテーマ〉

 日系検査機関もベトナム繊維産業の発展を享受している。カケンテストセンターベトナム試験室では、同国で生地や副資材の生産体制が急ピッチで整ったことなどを背景に旺盛な試験依頼が続く。

 フランスの大手検査機関であるビューロベリタスとの提携も同センターの信頼性向上に一役買っており、今後も設備投資や顧客サポートの充実などを図っていく。

 ボーケン品質評価機構ホーチミン試験センターも、同国で川上・川中生産が活発化していることを背景に試験依頼が「大幅に増加」している。

 品質管理業務が徐々に同国に移行していることから今後は品質評価試験だけでなく、品質管理サポートも充実させていく。そのためラボ見学やセミナー開催、生地ロット管理方法の提案、縫製工場監査、染色工場指導などを行う。

〈人員、資材不足で納期遅れ〉

 中国生産からの移管先として注目されるベトナムだが、新型コロナ感染拡大による世界経済の低迷は同国にも影響を与えそうだ。

 学校休校措置によって、縫製工場では人員不足が顕在化、中国からの資材調達が滞ったこともあり納期遅れが数多く発生した。今後についても「程度は読めないが(マイナスの)影響は必ず出る」(蝶理ベトナム)といった不安の声が挙がる。