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2020年春季総合特集Ⅰ(10)/帝人/代表取締役社長執行役員 鈴木 純 氏/分業と地産の両立の経済へ/中計は二つの観点で推進

2020年04月20日(Mon曜日) 午後5時20分

 2020年度に3カ年の新中期経営計画を始動した帝人。10年後の2030年度の姿をイメージして策定しており、鈴木純社長は「計画に沿って確実に進んでいけば、将来は必ず正しい場所に立っているはず」と強調する。マテリアルとヘルスケアを大きな柱に、ITや繊維・製品を加えた強い事業体を作り上げる。将来の収益源育成「ストラテジック フォーカス」と利益ある成長「プロフィタブル グロース」の二つの観点で計画を推進し、長期のビジョンにつなげる。(インタビュー日は4月3日)

  ――10年後はどのような経済や産業構造になっていると想像されますか。

 米国と中国の通商問題に代表されるように、グローバリズムにひびの入った状態が続いていました。さらに今回の新型コロナウイルスの影響で、産業で言えば、サプライチェーンが途切れ、地産地消の考えが必要と指摘されるようになりました。国の存続にかかわるようなものを分業で賄うのには危険が伴うのは事実ですが、地産地消の流れが完全に定着するとは思えません。

 確かに新型コロナの感染拡大は世界経済に大きな影響を与えます。実際、天災以上に強い力で経済活動をつぶし、各国も自国・自国民を最優先しました。このような感染拡大は一定の周期で発生し得るものであると考えると、やはり極端な流れにはならず、分業できるものはそのまま分業し、ミニマムかつエッセンシャルなものは自国で賄うといった経済圏が構築されていくのではないでしょうか。

  ――2019年度(20年3月期)で前中期経営計画が終了しました。振り返ると。

 定量的な面では厳しい状況の中にありますが、中身的には進み、特にマテリアル事業はほぼ計画通りだと思っています。アラミド繊維は収益力が向上し、樹脂は構造転換しながら基礎収益力を付けました。炭素繊維は数字的には目立ちませんが、米国に工場を作って、航空機中間材料分野での拡販が可能な体制が整いました。帝人フロンティアは独立運営体制を継続できるようになってきました。

 パテントクリフ(特許の崖)が来ることが分かっていたヘルスケア事業は、どれだけ備えられるかが中計の焦点でした。なかなかうまくいかない部分があり、新規のビジネスについても数字的にはついてきませんでした。ただ、既存ビジネスが想定以上に浸透し、業績は悪くない水準で推移しています。数字面ではヘルスケアの方が残しそうですが、実際にはマテリアルの方が順調に進展したと言えます。

  ――2020年度に新中計がスタートしました。事業環境は。

 新型コロナがどこまで続くかでしょう。9月までで終息する場合と1年間続く場合を想定しています。その上で不確定要素が加わった時のケース、最悪のシナリオも考えています。とはいえ、当社が展開しているヘルスケアとITの二つの事業はそれほど大きな影響は受けません。マテリアルが売上高の80%を占めていたリーマン・ショックの頃とは状況が違います。

 業績よりも、ヘルスケアの現場の人をどのようにして守るかの方が重要です。当社の酸素濃縮器は肺炎で重症化した人に、酸素吸入器、いわゆる救命機器として使うことができます。このため医師に必要だと言われれば、それが陽性患者の家であったとしても持っていかなければなりません。どのように対応して従業員の命を守るのか。そこからは絶対に目をそらしませんし、対応策も作っています。

  ――新型コロナ終息後の世界はどうなりますか。

 産業によって戻るスピードがそれぞれ違います。自動車は「ものすごい勢いで戻ったので、増産する」と言われる可能性はあります。一方で、航空機は、LCCを中心に航空会社が厳しい状況にあるので急回復は難しいでしょうが、ゆっくりでも戻ってくると思っています。

 アラミド繊維や樹脂関連はいろいろな分野・用途に使われているので、確実に回復すると考えています。このように事業によって対処の仕方は違いますが、反転攻勢のプリペアーはしています。しかしながら私自身は「人命が第一」「社員が第一」と考えており、「無理して働くな」と伝えています。

  ――新中計のポイントを改めて教えてください。

 この中計はもともと2030年のイメージを想定して策定したものです、そこに向かって進めば間違った場所には立っていないと思っています。マテリアル事業とヘルスケア事業、その他の事業分野に区分していますが、今回から利益ある成長の「プロフィタブル グロース」、将来の収益源育成の「ストラテジック フォーカス」という言葉を使っています。

 マテリアル事業では樹脂、アラミド、既存炭素繊維(糸売り)などがプロフィタブル グロースとなります。これは素材そのものが強く、ある程度の期間最前線で活躍できるものがそろっています。加工したほうが付加価値の高いものをストラテジック フォーカスとしています。自動車向け複合材料や航空機向け炭素繊維中間材料が入ります。

 ベースには「素材はいつか追い付かれる」という考えがあります。ネクストジェネレーションの新素材を作る努力は行いますが、ある素材が未来永劫勝ち続けることはありえません。進化していかなければなりません。

  ――ヘルスケア事業は。

 ヘルスケアは単純です。医薬品と在宅医療がプロフィタブル グロースですが、この両方を持っている会社はなく、地域に対してのプレゼンスを高めます。もっと新しい観点で地域貢献を目指すのがストラテジック フォーカスと位置付けています。

〈10年前の私にひと言/海を知るために遊び、学べ〉

 1983年から2010年までヘルスケア畑を歩いていた鈴木さんは、「井戸の中にいて、広い世界(海)を知らなかった」と振り返る。医薬医療の企画部長も担当し、海外出張の機会が多く、グローバルで活躍している気がしていたが、それも思い込みでしかなかったという。大きな海を知るためには「もっと遊び、もっと学ぶ」ことが大事で、時間的余裕もあると当時の自分に伝えたいとした。社長になりすごく忙しくなったと話す鈴木さんに「今は遊べていますか」と尋ねると、笑顔でごまかされた。

〈略歴〉

すずき・じゅん 1983年帝人入社。2011年帝人グループ駐欧州総代表兼Teijin Holdings Netherlands B.V.社長、12年帝人グループ執行役員、13年4月帝人グループ常務執行役員、同年6月取締役常務執行役員、14年代表取締役社長執行役員CEO。