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2020年春季総合特集Ⅱ(5)/top interview/シキボウ/社長 清原 幹夫 氏/国内生産でラグジュアリー市場を/“コロナ後”に向けて種まき

2020年04月21日(Tue曜日) 午後5時2分

 「10年後の繊維産業を考えた場合、国内生産、海外生産、国内販売、海外販売の四つのマトリクスの中で強みを発揮できるゾーンを考えることがポイント」――シキボウの清原幹夫社長は指摘する。そこで注目するのは国内外のラグジュアリー市場やアッパーミドル市場の重要性。こうした市場に国内生産と海外生産いずれでも参入していくことが欠かせない。さらに衣料品の過剰生産という構造的問題にもメスを入れる必要性を指摘する。(インタビューは4月8日)

  ――10年後の繊維産業の姿と、そこで目指すべきシキボウの立ち位置をどのように考えていますか。

 社内でもプロジェクトチームを作って中長期展望を議論していました。ちょうど日本繊維産業連盟も「2030年のあるべき繊維産業への提言」をまとめていますから、ここでの分析をベースに議論を進めています。

 多くの有識者が既に指摘していますが、この10年間で日本の繊維産業の中で非衣料分野の存在感が高まりました。このため非衣料と衣料を合わせた、“大繊維”すなわち天然繊維、化学繊維、スーパー繊維などをトータルで見た場合、繊維産業は成長しているという認識が重要になります。これからの10年を考えた場合、やはり産業用途の比率がさらに高まり、その需要を支えるのは化学繊維です。

 しかし、当社は綿紡績ですから、化学繊維の前提となる高分子化学の技術基盤がどうしても弱いのも現実。その代わりにガラス繊維や炭素繊維、セラミック、三次元織物などの加工技術に強みがあります。こうした技術基盤を生かした分野を伸ばしていくことが必要でしょう。

 一方、衣料分野はどうか。現在、世界の衣料品市場規模は約150兆円といわれ、毎年7・5兆円のペースで拡大しています。特にアジア地域は現在60兆円の市場規模に対して年3・7兆円のペースで増加しており、世界平均を上回る成長率です。背景にあるのが人口増加と富裕層の拡大です。逆に日本の国内市場は縮小が続き、現在は約10兆円です。その中だけで競争していては、苦労するのが当たり前。

 ただ、日本の衣料品の輸入浸透率は数量ベースで97%に達しますが、金額ベースでは78%です。単純計算で国産品は輸入品の7倍の付加価値を持っている。また、輸入品の大部分は日本企業を含むサプライチェーンによって持ち込まれています。つまり、衣料品はメード・イン・ジャパンの国産品とメード・バイ・ジャパンの海外生産品がある。これをどの市場に投入するべきか。国内生産と海外生産、国内市場と海外市場、この四つのマトリクスの中で考える必要があります。

  ――具体的にはどういったゾーンになりますか。

 この20年ほどの間に衣料品市場で起こったことは、マスボリューム市場の商品の品質が向上し、ローワーミドル市場が飲み込まれたことです。逆にラグジュアリー市場やアッパーミドル市場は拡大しています。するとターゲットは明確でしょう。今後はラグジュアリー・アッパーミドル市場に向けて商品を供給するようにしなければなりません。その際に強みになるのが国内生産品の付加価値です。当社は現在でも国内に紡績から縫製までの生産設備を保有しています。これを生かすことが必要でしょう。国内生産品だけでなく海外生産品を海外のラグジュアリー・アッパーミドル市場に投入することを目指しています。先ほどのマトリクスで考えると、「国内で作り、国内で売る」「国内で作り、海外で売る」「海外で作り、海外で売る」のゾーンです。

 もう一つ重要なのは、現在の繊維産業の課題である過剰生産をどうするかです。サステイナビリティー(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けて、これは繊維業界全体で考えていかなければならない問題です。

  ――2019年度(20年3月期)を振り返ると。

 非常に苦しい1年でした。繊維事業は例年、売上高、利益ともに下半期の方が大きい。このため苦戦した上半期の落ち込みを下半期でカバーする戦略でした。実際に昨年12月までは回復傾向が続いていました。ところが年が明けると新型コロナウイルスの問題が発生し、大きな打撃を受けています。産業材事業も今後の悪影響が避けられません。例えば機能資材は航空機分野に力を入れていましたが、新型コロナの影響で航空機の運航がストップしていますから、少なからず影響が出てくることは避けられません。

  ――波乱の中で20年度がスタートしました。

 新型コロナ問題が収束するまで全く見通しが立たなくなりました。このままでは“リーマン・ショック”以上の打撃が出てもおかしくありません。苦戦は覚悟の1年でしょう。あとはどれだけマイナスを抑えることができるかにかかっています。

 現中期経営計画のテーマは将来に向けた投資でした。19年度までに中央研究所(滋賀県東近江市)に航空機エンジン部材向けの研究開発施設を作り、鈴鹿工場(三重県鈴鹿市)で製紙用カンバスの製造設備増強などを実施しました。繊維事業でもベトナムに事務所を開設するなど営業体制を整備しています。最終年度となる20年度は、こうした種まきの成果を少しずつ発揮することが目標でした。しかし、新型コロナによって状況が大きく変わっています。

 とにかく今期は苦境をしのぎ切るしかありません。その中でもこれまでまいてきた将来への種を育てることが重要です。新型コロナ感染拡大が収束すれば、世の中のありさまも大きく変わるでしょう。衛生に関連する加工や商品のマーケットが拡大するかもしれません。まさに“コロナ後”に向けて準備する時です。

〈10年前の私にひと言/全体を見る目を大切に〉

 「10年前といえば、ちょうどインドネシア子会社であるメルテックスの社長だったとき。仕事が一番楽しく感じられた時期だった」と振り返る。本社での業務は分業が基本だが、海外子会社の社長はすべてに目配りしなければならない。「会社全体を見る目を持つことの大切さを実感した。これは日本にいては経験できないこと」と話す。だからこそ、「改めて『全体を見る目を大切に』と言いたい」。これは、今、現場で活躍しているスタッフに対するメッセージかもしれない。

〈略歴〉

 きよはら・みきお 1983年シキボウ入社。2002年繊維部門衣料第1事業部長、08年メルテックス社長、11年執行役員、12年取締役、15年取締役兼上席執行役員。16年6月から代表取締役兼社長執行役員。