明日へ これが我が社の生きる道 染色加工編(68)

2020年06月05日(Fri曜日)

社名に恥じぬよう精進

「おかしな社名で嫌だった」――天然灰汁(あく)発酵建藍染めを行う蛙印染色工芸(埼玉県八潮市)の大澤一雄代表取締役(50)は語る。雪印や象印をはじめ、社名に「印」を用いる会社は珍しくないが、「カエルでは格好悪い」と思っていた。その由来・意味を知ってからは、社名に恥じぬよう精進を続けている。

 社名を付けたのは祖父の澤蔵氏。和装の染め技法の一つである長板染めの職人として工場に勤めていたが、独立して1962年に会社を立ち上げた。創業の地は八潮市柳之宮で、「柳にはカエルだろう」と澤蔵氏。柳の枝にカエルが跳びついている絵が描かれている花札があり、社名はここから取った。

 この絵札には、平安時代を代表する書家、小野道風も描かれている。自分の才能に悩んでいた小野道風。柳に跳びつこうとして繰り返し挑んでいるカエルの姿を目にし、努力を続ければ目的を達せられると気付き、書道をやり直すきっかけになったという話が残る。蛙印にはそうした意味も込められている。

 会社設立当初は浴衣や呉服の長板染めを主体としていた。染色をなりわいとする会社・工場が多い土地だったが、近くを流れる綾瀬川に汚染問題が起こり、ほとんどが廃業を選択する。同社も岐路に立たされるが、二代目の石雄氏が徳島県の藍師と出会い、道が開ける。石雄氏はその藍師の勧めもあって藍染めの伝統的な技法を学ぶ。

 紹介されたのは京都の染物屋。そこで天然灰汁発酵建藍染めを知る。藍を使って染めた糸や生地は合成藍・化学藍を含めて全て「藍染め」に区分されるが、天然灰汁発酵建は合成藍・化学藍を使用しない。「江戸時代から続く本当の藍染め」とし、その技法は石雄氏から大澤代表取締役に受け継がれている。

 藍の葉が腐葉土状態になったすくも藍、熱湯に浸した木灰から出た上澄み液(灰汁)、石灰、日本酒、ふすま(小麦の外皮)だけで藍液を作る。経験や勘が必要で手間もかかるが、深い色合いが表現でき、使い込むほど味わいが出る。環境負荷が小さいのも特徴だ。すくも藍は徳島県の藍師から仕入れている。

 反染めを中心に、呉服地やスカーフ地、シャツ地などを染め、一部は協力工場と連携して製品で販売している。化学染料を応用した藍染めと比較すると加工料金は高くなるが、良さを伝えることができれば顧客は獲得できるとし、一般衣料品や小物、寝装、インテリア分野に進出する。

 受注生産だけでなく、アパレルメーカーや小売企業、異業種などとの協業にも前向きに取り組みたいとしている。

(毎週金曜日に掲載)

社名に恥じぬよう精進

職人の手で青く染める

蛙印染色工芸

社名:蛙印染色工芸株式会社

本社:埼玉県八潮市柳之宮84

代表者:大澤 一雄

主要設備:手染め用のかめ32本など

月産能力:和装生地で120反(稼働しているかめだけで一人で染めると50反)

従業員:6人