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将来見据えた戦略を推進/Special interview/東レ常務執行役員繊維事業本部長 三木 憲一郎 氏

2020年07月29日(Wed曜日) 午後1時26分

 東レ繊維事業本部は、中期経営課題“プロジェクト AP―G 2022”の完遂に向けて着実に歩を進める。その指揮を執るのが三木憲一郎常務執行役員繊維事業本部長だ。事業体質の強化にたゆまなく取り組むが、「時代は経験がないほどのスピードで変化している」と強調する。これまでに実行した投資の刈り取りと差別化・高度化を一層進め、従来以上に強い繊維事業を作る。

 新中期経営課題“プロジェクト AP―G 2022”の骨子を改めて。

 基本方針の一つとして「たゆまぬ事業体質強化と成長分野・地域での事業拡大」を掲げています。事業体質の強化はこれまでも継続して取り組んできましたが、繊維の基本方針の一番目に位置付けています。これは新中経の3年間は事業体質の強化をこれまで以上に意識して、競争力を高めるという意識の表れです。

 前々中経のAP―G 2016、前中経のAP―G 2019では、ポリプロピレンスパンボンド(PPSB)、エアバッグ、人工皮革などに投資してきました。かなり積極的な手を打ってきたと言えますが、これからの3年間は投資の刈り取りを行いながら、差別化と高度化をさらに進めることが重要と考えています。

 それは世の中が大きく変わっているからです。これまでは世界の各拠点に設備を導入し、地産地消を進めることで事業を拡大してきました。しかし、これからの時代は大きく変わり、これまで順調に売れていた製品の需要がなくなることもあり得ます。より差別化と高度化が求められる時代に入っており、設備の改造を含め、対応を図ることが不可欠です。

 将来に目を向けた場合、高付加価値化が不可欠なのですね。

 PPSBやエアバッグなど多くの事業で同じことが言えます。エアバッグは原糸で3拠点、基布ではインドを含めて6拠点を持っていますが、このようなビジネスモデルは他に例を見ず、強みです。そのような意味でも過去の投資は正解です。ただ、繰り返しになりますが、新中経では次のステップに進みます。

 その一例となるのが、スウェーデンのエアバッグ縫製会社であるアルバ スウェーデンを傘下に収めたことです。自動車の製造拠点はどんどん動いています。多くの人が「次の拠点はアフリカになる」と言いますが、国民性は違うし、品質向上や納期管理も簡単ではありません。ある程度の勉強は必要です。その意味で、チュニジアに拠点を持つアルバの買収は大きな布石です。

 また、より自工メーカーに近づくことで、彼らの考えが把握しやすくなります。単純にサプライチェーンの延伸と捉えているのではなく、5年先や10年先を見据えたときに必ず大きな戦力になると信じています。前々中経、前中経でやってきたことを競争力強化につなげられる3年間にしたいです。

 成長事業の一つである不織布事業のうち、短繊維不織布の戦略は。

 自動車関連やメディカル分野での展開に重きを置いていますが、汎用品ではなく、東レの強さが発揮できる製品に注力します。超極細繊維を使って機能性を持たせた製品などがその代表になりますが、そのほかでは難燃性と遮炎機能を持つ「ガルフェン」のような東レの技術を生かした製品も大きな強みです。

 アラミド繊維を使った不織布についてもこれから出てくる可能性があります。保護服「LIVMOA(リブモア)」もあります。まだまだ認知度は高くはないですが、もっとアピールしていきます。これら東レの良さを前面に出しながら、多様な訴求をしていけば短繊維不織布は世界的な市場を見てもまだまだ伸びていく余地はあると考えています。「点」ではなく、「面」で展開を広げていきます。

 素材の高度化に加え、地球環境問題への対応も無視はできません。

 サステイナビリティーへの対応はもっと強化していく必要があります。いずれはサステイナビリティーに配慮しない素材や製品は成り立たなくなります。そうではない素材・製品は価値が低いとみなされることになると思いますし、そうなると東レが手掛ける意味はありません。

 持続可能な社会の実現を目指す「&+(アンドプラス)」もそうです。チップを作る協力先にも東レのノウハウを持ち込み、高度なリサイクル繊維を展開しています。世界に高付加価値なサステイナブル素材を売るには不可欠で、こうした取り組みが東レ繊維事業の将来につながります。

 環境対応に限りませんが、海外メーカーはすぐに追い付いてきます。ただし、中国をはじめとする海外企業は、独自性を打ち出すのはあまり得意ではありません。当社には独自の複合紡糸技術「ナノデザイン」などの他社にまねができない革新的な技術があるほか、国内の産地企業との連携も深め、顧客の期待に応える画期的な素材開発に取り組みます。

 東レ繊維事業の強さが分かった気がします。課題はないのですか。

 「問題点」という意味では大きな課題はありませんが、個々の課題、例えば不織布事業やエアバッグ事業などでも取り組まなければならないテーマはたくさん存在します。ただし、根本的な策はこれまで着実に実行していますし、今後に打たなければならない手も分かっています。

 グローバル人材の育成や技術の継承などは、終わりがなく、継続的に取り組んでいかなければならない課題であると認識しています。以前は上司や先輩、お客さまなど、周囲のさまざまな人から日々学ぶことができましたが、今は効率化などで職場の状況も変化しています。

 営業担当者にとって大切なのは、単に「物を売る」ことだけでなく本当の意味での仕掛け、「勝つ戦略」を描くことができるかどうかです。もう一度基本に立ち返って人材育成がどうあるべきかを考える時代が到来しています。これは中経期間中に限らず、常に意識していくべきことです。

 海外市場はどのように捉えていますか。

 中国とASEAN地域、インドに視線を向けていますが、中でも市場としての成長が期待できるインドを注視しています。しかしながら、今のインドと10年後のインドでは求められる商品が違ってくるでしょうし、その見極めを欠いてはいけないでしょう。

 市場以外では、今中経で短繊維織物を中心に海外のリエンジニアリングを実施していきます。定番品を作っていても売れていた時はありましたが、もうそのような時代ではありません。紡績と製織、縫製まで含めて短繊維織物トータルで見ていかなければならないと思っています。個社単位ではなく、東レグループ全体で考えていきます。

 中経の完遂後、次のステージとして事業利益1千億円も見えています。

 中経の最終年度で売上収益1兆300億円、事業利益760億円を掲げています。事業利益1千億円はその先の2030年近傍を見据えたものになりますが、十分に到達が可能な数字であると考えています。しかしながら、単純にこれまでの延長線上を進んでいるだけでは達成は難しいでしょう。持続的に成長するためには、東レの繊維事業の強みや顧客にとっての価値がどこにあるかを明確化し、どのような顧客とどのように取り組み、いかに東レならではの素材やソリューションの提案ができるかが重要です。

 みき・けんいちろう 1982年入社。2007年1月東麗〈中国〉投資董事兼東麗合成繊維〈南通〉董事、同年12月短繊維事業部長、12年長繊維事業部長、13年産業資材・衣料素材事業部門長、16年テキスタイル事業部門長兼トーレ・テキスタイルズ・ヨーロッパ非常勤会長、同年6月取締役繊維事業本部副本部長などを経て、18年6月東レインターナショナル代表取締役社長。20年6月に東レ常務執行役員繊維事業本部長に就任。