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Anniversary interview/伊藤忠商事 代表取締役会長CEO 岡藤 正広 氏/「マーケットイン」へ転換

2020年08月18日(Tue曜日) 午後1時28分

 伊藤忠商事の2020年3月期純利益は4期連続で過去最高を更新、一過性損益を除いた基礎収益で総合商社トップに立った。6月には株価と時価総額も1位(東証終値ベース)となった。岡藤正広代表取締役会長CEOは「今期は経験したことがない逆風」と厳しい環境認識を示し「『稼ぐ、削る、防ぐ』を徹底して足元を固める」と語る。繊維を含む生活消費関連ビジネスにとっては「プロダクトアウト」から「マーケットイン」への転換が鍵を握ると強調した。

  ――ダイセンは今年、創業70周年ですが、伊藤忠商事は162周年と倍以上の歴史をお持ちです。4月から企業理念にされた「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」という言葉は創業者によるものですね。

 初代伊藤忠兵衛の言葉です。1858年の創業以来、その精神は脈々と受け継がれてきました。前理念も「三方よし」を踏まえた言葉でしたが、付随する概念が複数存在し、分かりにくい面がありました。

 ブランドでも担当デザイナーが代わると、創設者のコンセプトが分かりにくくなるケースがよくあります。それと似た話です。

 経営理念をシンプルに分かりやすくしました。創業の原点に戻ったとも言えますが、今日的な意義も大きいと思います。

 株主、従業員、取引先などさまざまなステークホルダー(利害関係者)、経済的価値と社会的価値、短期業績と中長期的な布石など、経営で何を重視するのかを考えた場合、選択肢となり得るものはたくさんあります。

 しかし状況によって“いずれか”を選ぶのではなく、常に“いずれも”を追求するのが「三方よし」の現代的解釈だと考えています。SDGs(持続可能な開発目標)とも共通する概念です。

 同時に「三方よし」を実践するための企業行動指針として「ひとりの商人、無数の使命」を再定義しました。「伊藤忠商事の社員は商人である」との自覚を持ち、お客さまに喜んでもらえる商いをコツコツと積み上げていくのが当社のやり方です。

〈コロナ後、一部は常態化〉

  ――新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的大流行)は、生活消費関連ビジネスにどんな影響を及ぼすのでしょうか。

 一つ例を挙げると、自動車はつい最近まで「所有から利用へ」という大きな流れの中で、シェアリングが注目されていました。それが「誰が乗ったか分からない車はいや」と自家用車が見直される動きも見られます。

 ネット通販や宅配代行サービスも利用者を大きく増やしています。

 感染拡大が終息する見通しは立っていません。とるべき経済対策が明確だったリーマンショックの時とは異なり、今回は治療薬とワクチンの開発を待たねばなりません。消費マインドが回復するまでに相当な時間がかかるでしょう。

 その過程で言えるのは、感染拡大によって起きた消費者の生活様式や購買に関わる行動変化は終息後、完全に元に戻ることはない、何割かは残って常態化するということです。非接触型の接客や目的別の購買チャネルの使い分けは、今後さらに広がるかも知れません。

  ――2020年度は中期ではなく単年度の経営計画とし、「か、け、ふ(稼ぐ、削る、防ぐ)」の再徹底を掲げました。

 この3項目は経営の基本です。世界経済が景気後退局面に入り、かつて経験したことのない逆風下では、「稼ぐ」よりも「防ぐ」や「削る」に重点を置いた低重心経営に徹するべきだと考えています。足元を固め、今後に備える1年と位置付けました。

 並行して、コロナ終息後を見据えたビジネスモデルの変革にも備える必要があります。

〈「プロダクトアウト」と決別〉

  ――繊維ビジネスでは何がポイントになりますか。

 繊維に限らず、生活消費関連ビジネス全般に言えることですが、「プロダクトアウト」から「マーケットイン」へ発想を転換し、新しいビジネスモデルを構築することが求められます。

 商品別のタテ割組織で「私はこの商品を売ります」という時代ではありません。扱う商品よりも売り場全体を見渡し、その流れを予測してさまざまな商材に対応しなければ、もう物は売れない時代です。

 お客さまが欲するものを、求められる形で提供していくことがマーケットインです。

 私が営業現場にいたころはブランドがその切り口になりましたが、これからの時代は考え方、売り方だと思います。

 消費者のニーズは絶えず変化します。いち早くニーズを捉え、時には異業種とタッグを組むなど、臨機応変に対応していく必要があります。業界の優勝劣敗が進む今、中小企業が多い繊維業界にとって、どんどん新しい提案をしていくチャンスです。

 もう一つは、海外との往来が規制されている中で、「日本製」の良さが見直されていることに注目しています。量が大きく増えるという訳にはいきませんが、高級ゾーンなどで、日本製の価値が高まっていくのは間違いありません。

おかふじ・まさひろ 1974年東大経済学部卒業、伊藤忠商事入社。ほぼ一貫して繊維営業畑を歩み、ブランドビジネスを確立した。2002年執行役員、04年常務取締役・繊維カンパニープレジデント、10年代表取締役社長、18年から現職。70歳。