特集 アジアの繊維産業(4)/タイ/コロナショック下の現地企業は今/“守り”の経営が重要に

2020年09月10日(Thu曜日) 午後1時22分

 新型コロナウイルス禍によってタイ経済は深刻な打撃を受けている。3月には非常事態宣言による大規模な行動制限令が発令され、観光業などへのダメージは大きく、国内景気が冷え込む。自動車産業も世界的な生産台数減の影響を受けた。衣料分野も欧米向けを中心に受注が激減。厳しい環境の中、日系繊維企業は“守り”の経営で危機を乗り越えようとしている。

〈衣料、産資ともに大幅減/自動車は回復傾向早まる〉

 現在、タイ国内での新型コロナ感染者数は低水準で推移している。5月からは段階的に行動制限も緩和されたが、非常事態宣言は9月末まで延長されるなど経済活動の本格再開には至っていない。国内景気の冷え込みは深刻で、2020年の国内総生産は前年比マイナス8%まで落ち込むとの予想もある。

 繊維産業も衣料分野は内需の落ち込みに加えて、欧米諸国のロックダウン(都市封鎖)などの影響で輸出も低調に推移している。産業資材分野も打撃は大きい。主力の自動車関連は世界的な生産台数減少によって4~6月は受注が激減した。

 日系繊維企業の受注も大きく落ち込んだ。東レグループは紡織のトーレ・テキスタイルズ〈タイランド〉(TTT)、合繊糸製造のタイ・トーレ・シンセティクス(TTS)ともに4~6月は販売が大幅に落ち込んだ。特に衣料用途は内需、輸出ともに厳しい。自動車関連など産業資材用途も受注減となった。

 帝人グループもポリエステル長・短繊維製造のテイジン・ポリエステル〈タイランド〉(TPL)、テイジン〈タイランド〉(TJT)、商社の帝人フロンティア〈タイランド〉、長繊維織物製造のタイ・ナムシリ・インターテックスなどが衣料用途と産資用途ともに受注減となった。クラボウグループも紡織のタイ・クラボウ、染色加工のタイ・テキスタイルディベロップメント&フィニシング(TTDF)、縫製のアクラベニタマいずれも受注減となっている。

 旭化成グループはスパンデックス製造のタイ旭化成スパンデックスが衣料用の受注減に見舞われた。ただ、衛材向けは新型コロナ禍の影響が少なかった。スパンボンド不織布製造の旭化成スパンボンド〈タイ〉は影響が軽微で現在もフル稼働が続く。

 こうした中、7月以降は自動車関連を中心とした産業資材分野は受注に回復の兆しが見えてきた。世界各国で経済活動が徐々に再開されるにつれて自動車の生産計画も上方修正が相次いだ。このため「エアバッグは6月が底で8~9月にはある程度回復しそうだ」(TTT)、「特に中国、北米向けの回復が早い」(TTS)、「21年以降は自動車、バグフィルター関連を中心に回復する」(アラミド繊維製造のテイジン・コーポレーション〈タイランド〉)といった声が上がる。

〈日本市場の重要性高まる/ユニフォーム分野への期待大〉

 一方、衣料分野の回復は遅れている。内需は国内経済の低迷で「壊滅的」との声も上がる。輸出も欧米で多大な感染死者が出ていることやロックダウンの爪痕は大きく、有力アパレル・流通の破綻も起こるなど市況低迷が深刻。さらにトーレ・インターナショナル・トレーディング〈タイランド〉など商社によると、欧米向けを手掛けるアジア地域の縫製工場に対して欧米からのオーダーキャンセルや引き取り延期が発生している。このため資金繰りに窮する現地企業も増えていることから、与信管理上のリスクも高まった。

 内需、欧米向けとも回復に向けた道筋が見えにくい中で、にわかに注目が高まっているのが日本市場だ。日本は主要先進国の中でも感染死者数が圧倒的に少なく、大規模な行動制限も行われていないなど新型コロナ感染症対策に成功している国の一つと考えられている。

 実際に欧米向けと比べて日本向けは受注の落ち込みが少ない。富士紡グループの紡績・編み立て・縫製会社であるタイ・フジボウ・テキスタイルは生産のほぼ100%が日本向けで、「4~6月こそ受注は落ち込んだが、5月末の緊急事態宣言解除後は受注が戻りつつある」。さらに日本向けの中でもユニフォーム向けが安定していることへの注目が特に高い。実際にTTTなどは日本向けのユニフォーム素材への傾斜を強める。

〈“ウィズコロナ”の商品も/本格回復には2~3年要すか〉

 “ウィズコロナ”時代に適応した商品開発も課題となる。例えばタイ東海は欧米向けのプリント地輸出が堅調だった。ホビー用途などにおける新型コロナ禍による“巣ごもり消費”の拡大が追い風となっているようだ。在宅ワークの増加や“ステイホーム”といったライフスタイルを視野に入れたカジュアル素材の重要性が高まる。清潔衛生分野の重要性も高まることから「衛生・環境・生活分野での継続的商品開発と生産力向上策」(TPL)にも注目が集まる。

 こうした施策で新型コロナ禍による受注減少をどこまでカバーできるかが20年度の課題だが、「コロナ前の状態に回復するには2~3年を要するのではないか」といった指摘は多い。

 このため「今期はキャッシュフローを重視し、固定費の削減や在庫管理、与信管理を徹底することが重要になる」(タイ東レグループ)というように“守り”の経営で危機を乗り越えようとしている。