特集 アジアの繊維産業(5)/コロナショック下の現地企業は今/消費回復後の商機に備える/インドネシア

2020年09月10日(Thu曜日) 午後1時22分

 世界各国の繊維製品の消費低迷が、インドネシアの日系企業にも大きな打撃を与えている。工場の稼働率は前年を大きく下回り、先行きは極めて不透明な状況だ。素材開発や固定費削減など、それぞれが今できることに地道に取り組み、“コロナショック”後の商機に備える。

〈経済成長率はマイナスに/アジア通貨危機後初めて〉

 インドネシアでは新型コロナウイルスの感染拡大が今も続く。今年3月に感染者が確認されてから8月末までの累計感染者数は17万2千人、死亡者は7千人を超える。今も1日当たり千人単位で新たな感染者が出ている。

 経済へのダメージも深刻だ。インドネシア中央統計庁(BPS)の発表では、2020年1~3月のGDP成長率は前年同期比3%台とプラスを維持したが、4~6月にはマイナス5・3%に転じた。前年同期比でマイナス成長はアジア通貨危機があった1999年以降初だ。

 7~9月もマイナス成長が続く見通しで、これまでの年間5%台の経済成長から、大きく後退するのは確実な情勢だ。4~5月の自動車販売台数、二輪車販売台数は9割減、個人の所得、消費、輸出入額でも明らかな減少が見られる。

 景気を一気に悪化させたのが4月に始まった同国政府の感染防止対策、大規模社会制限(PSBB)だ。4月に始まり6月初旬に段階的な緩和に入ったものの、7月に感染が再び拡大に転じ、今もジャカルタ首都圏など各地でPSBBが続く。

 PSBBで商業施設が2カ月間、完全に閉鎖され、衣料品をはじめとする繊維製品の消費は壊滅的な打撃を受けた。6月から徐々に営業を再開する店舗も増えているが、感染が拡大する中、消費者の外出への警戒感は強く、消費は当分低迷しそうだ。

〈世界の景気後退が波及/工場稼働率20~50%減〉

 インドネシアは先進国の繊維企業が構築するグローバルな生産体制の中で、量産型の商品の縫製やそのための素材の製造を担ってきた。技術や精度で中国に劣るが製造コストを抑えられることやアジアでも屈指の働き手の多さが強みとなるからだ。

 ところが、今年4月ごろに世界各国で相次いだ都市封鎖や国民への行動規制が各国市場における衣料品消費を急速に冷え込ませ、縫製や素材生産を担うインドネシア工場の経営を悪化させている。

 日系工場も例外ではなく、素材メーカーや商社の協力工場の4~6月期の稼働率は20~50%減、生産・販売量も同程度の減少を強いられている。

 東レグループは合繊わた、紡績、織布など同国の製造子会社から世界各国にファッション用繊維を供給しているだけに“コロナショック”が直撃している。現地の製造業全般が苦戦しているが、ファッション用途の繊維は特にマイナス幅が大きいという。

 トーレ・インダストリーズ・インドネシアの山本浩房社長は「下半期で需要は多少なりとも戻ると予測するが来年、再来年も影響は残る。新型コロナ禍前に環境が戻ることはないだろう」と話す。

 対日縫製品輸出を主力とする東レインターナショナルインドネシアも2、3月から発注のキャンセルが入り、4~6月期は前年同期比減収減益の見通し。縫製工場は低水準で稼働している。同社の尾﨑完司社長は「6月に入り日本や中国向けの受注が回復してきている」とし「下半期に向けて減り幅は少なくなるが前期実績割れは避けられない」とみる。

 東洋紡グループでは編み立て・染色加工場が50~60%の操業率にとどまる一方、縫製工場は大幅な人員削減で操業率90%以上を維持する。縫製品ではスポーツ衣料OEM、対日・インドネシア内販向け布帛シャツが厳しい商況にある。一方で、日本向けニットシャツは在宅勤務の増加や酷暑を背景に堅調という。

 日清紡テキスタイルグループの3工場の稼働率は4月以降70~80%ほど。日本向けのユニフォーム素材が比較的堅調だが、日本向けシャツ、欧米、中東、インドネシア内販向けは苦戦する。

〈固定費削減や開発加速/操業度低下をチャンスに〉

 かつてない急速な商況の悪化にさらされる現地日系企業は今後どのような戦略でこの“コロナショック”を乗り切るのか。素材メーカー、商社から多く聞かれるのは固定費削減だ。新型コロナの負の影響は人の力が及ばないだけに、「小さくても着実にできることを」という思いがにじむ。

 各社、素材の品質向上や高付加価値化も加速させる方針だ。新型コロナ禍以前から汎用素材が、中国やローカル企業の価格攻勢にさらされていたことが背景にある。操業度が低い今を開発や試験生産の好機と捉え新型コロナ禍以降のビジネスチャンスに備える姿勢がうかがえる。

 特に欧米や日本向けを想定した環境に優しい素材のインドネシア生産が盛んになりそうだ。東レグループや帝人フロンティアインドネシアがこの分野で先行するが、シキボウの紡織加工場、メルテックスもサステイナブル素材の開発に力を入れる。綿100%素材の生産施設の整備、再生ポリエステル綿混素材の開発、綿素材でオーガニック認証の取得も検討する。

 東洋紡グループも開発のスピードアップ、日本からの生産移管の加速、汎用商材比率の低減を戦略に掲げる。豊島グループのTYSMインドネシアは「インドネシアで当社だけが売り込める差別化素材の開発を進める」方針だ。日清紡テキスタイルグループは「新型コロナと共生するニューノーマルに対応した生産計画と商品開発を進める」と話す。