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特集 スクールユニフォーム(1)/コロナ禍に揺れる学生服業界

2020年10月23日(Fri曜日) 午後4時35分

 学生服業界の変化は、2020年代に入り新たな段階へと移行しつつある。学生服メーカーの取り組みは、制服のモノ作りだけでなく学校支援の色合いも強まっている。そうした中で新型コロナウイルスの感染が拡大し、提案の面で影響が出ている。非接触の対応含め、デジタル技術の導入もこれまで以上に求められそうだ。各社はさまざまな変化に対応を迫られている。

〈新型コロナの影響色濃く〉

 新型コロナ禍は、学生服業界の製販をはじめ、商流を劇的に変えた。業界が最も繁忙期となる3~5月に同感染症がまん延したことから、生産や供給、販売とあらゆる面で大きな影響が出てきた。明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)の河合秀文社長はこの間の変化について「今までにない経験が多かった。新しいやり方を少しずつ学んでいる」と振り返る。別表のように新型コロナ禍の影響で、コロナ前、拡大時、アフター・ウイズコロナでいろいろな変化が出てきている。

 まず、商品の供給・開発を見ると、学生服メーカーはこれまで生徒の合格発表後から入学までに納品し、半袖シャツや水着など夏物は入学後5月ごろまでには納品していた。しかし、新型コロナ禍の影響によって一部、上衣で納期の調整などが余儀なくされた。夏物は休校のために販売が遅れ、水着では授業が中止となって需要がほぼ立ち消えとなった。

 アフター・ウイズコロナへと移行しつつある現状は、常に制服を清潔に保つ衛生の観念から買い替え需要の活性が見られつつある。さらに抗ウイルス加工などのニーズも拡大。明石SUCは店頭商品で、抗菌・抗ウイルスなどに効果がある空気触媒加工「ティオティオプレミアム」の販促を強化している。小学生の体育着で新型を投入するとともに、従来から取り扱ってきたシャツや詰め襟学生服、給食着などティオティオ関連の豊富な商品ラインアップを改めて訴求する。

 生産面ではコロナ禍で大きく変化したわけではないが、学生服メーカーを中心に相当な危機感が生じた。4月下旬から突如沸いてきた「9月入学制」の検討だ。従来、入学前の1~3月が学生服メーカーにとっての繁忙期となる。しかし、実質秋服のシーズンに入る9月に入学となった場合、秋服からの納品が予想され、採寸や納品が3月ではなく夏前に調整される恐れがあった。

 大幅なスケジュール変更はこれまでメーカーが築いてきた根本的な生産体制の根幹を揺るがす。9月は秋服のシーズンとはいえ、残暑で暑く夏服からの入学になれば、スケジュールが大きく変わってしまう。

 その後、同制度は21年入学には間に合わないとの判断で見送りとなったものの、新型コロナの影響次第で業界の商流が変わってしまうことがより明白になった。

 アフター・ウイズコロナにかかわらず、大手を中心に生産でAI(人工知能)の導入やモノをインターネットにつなぐIoT化を既に進めていたが、ますます生産の効率化に向けた動きが加速しそうだ。菅公学生服は、工場のAIやIoTの活用で「事務作業などの自動化や省力化につながっている」(尾﨑茂社長)。

 トンボは瀧本と生産背景を共有し効率化を推進、前期は最終段階で減益だったが、増益への転換を目指す。瀧本の販管費を削減するほか、トンボ海外工場の共有やシステム統合などを進め「今期には瀧本の黒字化を達成したい」(近藤知之社長)。コロナ禍の影響を加味しつつ、物流や生産体制を見直し、次の成長に向けた一手を探る。

〈販促にも“非接触”広がる〉

 展示会の販促にも変化が見られる。これまで総合展示会などの開催が中心だったが、感染拡大以降は少人数の対応による内見会などに変更した。

 アフター・ウイズコロナが定着してきた現在、11月中旬に菅公学生服が実施する学校関係者向けのオンライン展示会など新たな試みが広がる。

 同展では制服・体操服の360。バーチャルリアリティー(VR)ファッションショーを展開するほか、非接触型スマート採寸など感染防止に向けた取り組みを紹介。尾﨑社長は「これからの制服や納入の在り方、継続する教育ソリューション事業含め幅広く提案できる場にしたい」と話す。

 商談では対面式の学校訪問が中心だったが、新型コロナ禍で学校訪問の自粛が求められた。アフター・ウイズコロナ対策として3密を避けた方法が求められ、リモートの対応が増加。

 トンボはウェブ環境を増強し、リモート営業やリモート会議の体制を整えた。菅公学生服や明石SUCも同様に対応を進め、社内的にも在宅勤務や時差出勤などの運用を進めている。

 このように、新型コロナ禍は業界の通例や商慣習を根本から大きく変えた。「新しい生活様式」を念頭に、当面対応の更新が必要になりそうだ。

〈採寸の在り方に影響〉

 学生服メーカーが新型コロナ禍で感染防止の面から最も慎重にならざるを得なかったのは採寸だ。新型コロナ禍前は学校で集団採寸の形を取っていたが、“3密”を避ける形の分散式や、採寸自体をしない(各生徒の体格に合わせた規定サイズの納品)など対応を改めた。

 アフター・ウイズコロナでソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保が求められる中、非接触の採寸も遠隔による方法が検討されつつある。一つの転機となったのは、伊藤忠商事が8月に発表したバーチャル採寸とネット通販のシステム。IT技術による採寸は以前から検討が進んでいたが、同システムの発表で、その広がりと業界の動きに注目が集まってきている。

 トンボ、菅公学生服、明石SUCの大手3社は非接触による採寸を検討。設備やシステム詳細は現状明らかになっていないが、菅公学生服は今春にも一部学校に提案し、一定の評価を得た。

 素材メーカーや繊維商社でも、ニッケ、アカツキ商事(東京都墨田区)、ナカヒロ(大阪市中央区)、チクマ(同)が連携し、生徒の手採寸とネット上の入力によるシステムを運用する。こちらも、今春既に一部学校で実績があった。

〈大手は過去最高の売上高更新〉

 大手3社の2019年度決算が出そろった。各社ともMCの獲得で堅調さを維持しており、5期連続で過去最高の売上高を更新している。明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)は20年5月期連結売上高が269億円(前期267億円)、昨年5月に瀧本(大阪府東大阪市)を子会社化したトンボは同6月期連結売上高が384億円(同382億円)、菅公学生服は20年7月期連結売上高が370億円(同357億円)と実績を積み上げた。

 明石SUCはスクールで新規採用校数が目標の100校を大きく超え、過去最多となる成果を上げた。「500人、千人級のマンモス校の採用を得た」(河合社長)ことなどから、生徒数の面でも増加が目立った。

 トンボは「スクールで大都市圏を中心に採用校数が増加」(近藤社長)し、主力3事業で前期実績を上回った。菅公学生服も「スクールとスポーツが計画通りに推移し、MCは前年並みの勝率を確保」(尾﨑社長)した。

 大手3社の業績が堅調に推移する一方、少子化の加速で生徒数が減少し、市場の縮小は続いている。厚生労働省の発表で、昨年の出生数が90万人を下回り86万人程度と過去最少になったことは記憶に新しい。生徒数が減少する中で大手3社への集約が続き、今後、競争のさらなる激化は避けて通れないものとなりそうだ。

〈来春の出足堅調も警戒感強く〉

 トンボの近藤社長が「6月からは前年対比増収で推移している」と話すように、大手3社とも来入学商戦に向けての出足は堅調のようだ。明石SUCの河合社長も「過去最多の前年ほどではないものの、中学校を中心にMCを獲得している」と言う。「各社のシェアはこの数年安定しており、大手3社が市場をけん引する形は変わらない」(菅公学生服の尾﨑社長)ものとみられる。

 来春に向けたMCの動向は、数字の面でも堅調さが見える。ニッケによると、来年のMC校数は9月末時点で216校となっている。

 今入学商戦の272校と比べて少なくなりそうだが、性的少数者(LGBT)への対応などの影響で中学校を中心にMCは増えている。ここ10年200校以下にとどまるケースが多かったことを考えれば、新規採用を獲得する機会はありそうだ。

 それでも、新型コロナ禍の影響が長引き、学校での採寸や商談は引き続き厳しいものになることが想定される。各社は急激な経済の冷え込み、不透明な先行きへの警戒感を高めている。

 学校への営業活動などは、緊急事態宣言が解除されて以降も引き続き制限される状況にあり、各社の商談は遅れている。店頭商品なども買い控えが目立っており、経済低迷の影響は尾を引きそうだ。

〈収益改善に向け値上げへ〉

 生徒数の減少や新型コロナウイルス禍で販売実績の積み上げが不透明になる中、来春に向けては収益の改善も大きな課題となる。原材料や物流費、人件費などさまざまなコストが高騰し、大手3社も17年度以降減益基調が続く。

 前期は明石SUCとトンボが3期連続で最終利益を減らした。菅公学生服はコスト削減が奏功し3期ぶりに最終損益を黒字化したが、引き続き厳しい環境の中で利益確保が求められる。

 そのような中で、収益確保に向けて価格改定の動きも出てきた。トンボは8月、スクールとスポーツで値上げを発表。定番商品では既に価格を改定した。別注は交渉中だが、契約期間のあるもの以外は1年以内に実施を予定している。

 菅公学生服と明石SUCも、エリアごとなど個別の交渉を進めている。新型コロナ禍で衣料品の使用シーンが制限され節約志向が高まる中、「品質の高い商品は一定のコストが必要になることを改めて周知」(明石SUCの河合社長)するなどして、値上げへの理解を浸透させる。

〈企業の利害超えて教育支援/ニッケ教育研究所/理論と実践の両面から研究〉

 ニッケは2019年10月、ニッケ教育研究所を設立した。企業から独立した一般社団法人として企業の利害を超えて「“可能性を拓き、人を育てる学校制服”その効用を科学的に解明、発信」「“誰も置き去りにしない”教育を支援し、未来を担う子どもたちの育成に貢献」「さまざまな視点から教育の可能性を模索し、将来社会で輝く人材の輩出に貢献」を活動理念に掲げる。

 研究所はさまざまな活動での教育支援を目指しており、特に学校制服のメリット・デメリットにフォーカスした研究活動と学校制服の効用を啓発する活動に取り組む。学校制服の効用・価値についてはこれまでさまざまに語られてきたが、感覚的なものが多い。そこで科学的アプローチに基づき学校制服が子供たちの共感性にどのような影響を及ぼすのかなどについて調査研究を進めている。

 研究を担う顧問に小学校元校長の勝本孝夫氏、甲子園大学心理学部の市川祥子助教を迎えた。理論と実践の両面から研究を進める。学校や教育行政を訪問して関係性を築き、PTAや地域とのつながりを深めながら情報発信に取り組む。

 4月には会報誌「未来Watch」を創刊(年4回発行)した。講演会や学会発表にも力を入れるほか、ウェブでの発信にも取り組む。