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2020年秋季総合特集Ⅰ(3)/top interview 東レ/需要拡大分野に向かい合うこと/常務執行役員 三木 憲一郎 氏/強固なサプライチェーン構築

2020年10月26日(Mon曜日) 午後5時0分

 東レは2023年3月期が最終年度の中期経営課題を推進している。新型コロナウイルス感染症の影響などから、繊維事業のスタートは順調だったとは言えないが、三木憲一郎常務執行役員繊維事業本部長は「やるべきことをやり、変化への準備や対応にきちんと取り組む」と前向きだ。新型コロナ下でも中経で掲げた大きな方針は変更することなく、伸びている市場や分野に真正面から向かい合う。“地産地消”を重要ポイントの一つとし、強固なサプライチェーンを作り上げ、成長につなげる。

  ――新型コロナとの共存は、日本の繊維産業をどのように変えるのでしょうか。

 産業界全体でも、繊維産業として捉えても、新型コロナの影響は小さくありません。大きな視点ではプラス面とマイナス面の両方が見えてきます。新型コロナと共存する中で重要なのは、需要が伸びている分野に向かい合うことです。繊維で言えばマスクやガウンなどの需要が拡大しており、ここに積極的に関わること(素材供給)が欠かせません。

 需要が拡大している分野はまだまだあります。在宅勤務やテレワークでスーツを着る機会が減った分、カジュアル分野に脚光が集まっています。運動不足を解消するためにスポーツを始める人が増え、スポーツウエア市場が盛り上がってきたといわれます。そのほか、室内で着用するリラックスウエアやインテリア関係、パソコン周辺機器関連にも注視が必要です。

  ――縮小しつつある市場に対しては。

 衣料品で言えば、やはりビジネスウエアやフォーマル市場が厳しく、これまでと同じやり方ではいけないと思います。スーツ需要はゼロにはなりませんが、従来よりも縮小した市場の中での成長には工夫が要ります。ニーズがどこにあるのかを見極め、求められているものを提案して顧客満足度を高めることが不可欠です。

  ――新型コロナで変わった世界にどのように対応すべきでしょうか。

 新型コロナによる影響のほか、米国と中国の対立も激しさを増すなど、ビジネスを進める上で前提としていた条件や想定していた経済情勢が変化しています。大きな方針は変える必要はないと思いますが、細かな部分では方針の転換が求められるでしょうし、変化には常に目を光らせておかなければなりません。変化への対応や対策は非常に重要だと考えています。

  ――経済情勢をどのように捉えていますか。

 自動車を中心とする産業資材分野は比較的早い回復を見せるのではないかと予想しています。その一方で衣料品分野は厳しい状況が続く可能性があります。昨年が暖冬だったことに加え、20春夏の商戦は新型コロナが直撃しました。セールは必ずしも順調とは言えず、在庫の問題が残っています。今秋冬の動きがポイントになるのではないでしょうか。

 とはいえ、逆風下でも健闘しているSPAやアパレルメーカーは存在しています。日本国内に限らず、欧米でも同じことが言えます。なぜ健闘できているのかを良く分析し、強い企業と連携できる体制を整えることが求められると思っています。

  ――2021年3月期が初年度の中期経営課題を推進中です。繊維事業は。

 「順調な滑り出し」とは言えませんが、地に足を着けてやるべきことやり、変化への準備や伸びている需要への対応にしっかりと取り組めば8月に公表した上半期の売上収益と事業利益は達成できると考えています。サプライチェーンの強化が準備の一つで、止まっている設備を動かしたり、開発用設備を応用して付加価値品を生産したりするなど、徹底的に強化していきます。

 稼働の準備を進めてきたのが、インドのポリプロピレンスパンボンド不織布(PPSB)の製造設備です。当初は20年春に操業を開始する予定でしたが、新型コロナ禍でスタートを切ることができませんでした。ただ顧客のPPSBへのニーズが高まり、その声に応えます。インドは新型コロナ感染者数が多く、安全対策については万全を期しています。

 新型コロナ禍で国や地域をまたぐことが難しくなった時こそ、“地産地消”をベースにした製造・販売体制が求められます。SBはインドだけでなく、中国や韓国、インドネシアにも拠点を持っており、各拠点で地産地消の推進が可能です。製造拠点として成長が著しいASEAN地域にはインドネシアから供給します。

  ――糸わた・テキスタイル・製品一貫型事業の施策は。

 東レ繊維事業の強みであり、拡大のための施策を進めます。顧客との話し合いが前提になりますが、ASEAN地域でのオペレーションを強化・高度化します。域内には東レの工場はもちろん、グループ会社である東レインターナショナルの拠点があり、これらの有効活用によって強固なサプライチェーンを作り上げます。

 衣料品分野は強い向かい風を経験し、各拠点が対策を練り、技術力も高めてきました。地産地消の新しい形が出来上がりつつあり、幅も広がっています。国内外の顧客に対して前向きな仕掛けを行っていけばまだまだ伸びる余地はあります。

  ――北陸産地との取り組みは。

 日本ならではのモノ作りには北陸産地との連携が必要不可欠であり、しっかりと話し合いを持ちながら取り組みを継続的に深めていきます。産地の生産規模は小さくなっていますが、その中で産地企業それぞれが収益を確保できるような方策を講じていかないといけないでしょう。

〈私の新常態/血液検査の数値が〉

 新型コロナウイルス感染症によって在宅勤務が一般化してきたが、それは東レも同じで、三木さんは「平日にこれほど自宅にいたことはない」と話す。最初は自分の居場所がないと感じていたが、不思議なものでいつの間にか違和感を覚えることなく、家で過ごすことができるようになっていた。家族に煙たがられず、今まで以上に会話も弾む。夜遅くまで食べたり、飲んだりする機会が減るなど、規則正しい生活を送り、血液検査の数値も改善した。新常態は三木さんに健康をもたらした。

〈略歴〉

 みき・けんいちろう 1982年入社。2007年1月東麗〈中国〉投資董事兼東麗合成繊維〈南通〉董事、同年12月短繊維事業部長、12年長繊維事業部長、13年産業資材・衣料素材事業部門長、16年テキスタイル事業部門長兼トーレ・テキスタイルズ・ヨーロッパ非常勤会長、同年6月取締役繊維事業本部副本部長などを経て、18年6月東レインターナショナル代表取締役社長。20年6月に東レ常務執行役員繊維事業本部長に就任。