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2020年秋季総合特集Ⅱ(3)/top interview クラボウ/新たな市場創造が不可欠に/社長 藤田 晴哉 氏/21年度に向けて戦略立て直し

2020年10月27日(Tue曜日) 午後1時28分

 「生活様式などが“ニューノーマル(新常態)”に移る中で、そこにおける具体的なマーケットの姿はまだ見えていない。それを作るために市場創造型ビジネスが求められている」とクラボウの藤田晴哉社長は指摘する。これまでも繊維業界の課題とされてきた大量廃棄問題やサステイナビリティーへの取り組みは新型コロナウイルス禍を契機に対応が加速する。「単独企業ではなく、繊維業界全体やサプライチェーン全体として取り組むことが欠かせない」と話す。このため新たなパートナーシップの締結など体制を整備した。

  ――新型コロナ禍は日本の繊維産業の在り方も大きく変えようとしています。

 繊維産業は元々、多くの課題を抱えていましたが、今回の新型コロナ禍はそれを一段と浮き彫りにしたという側面があります。このため構造的問題を解決するための取り組みも加速するでしょう。ただ、生活様式が“ニューノーマル”へと移っていく中で、そこにおける具体的なマーケットの姿はまだはっきりと見えていません。だからこそ市場創造型のビジネスモデルを構築することが不可欠になったと言えるでしょう。

 例えば、繊維産業が抱える構造問題の一つが衣料品消費の低迷とそれによる大量廃棄問題です。なぜ衣料品の消費が低迷するのか言えば、商品が同質化し、消費者の購買意欲を喚起できていないからでしょう。消費者が本当に欲しいと思えるようなニーズを掘り起こすことが必要であり、そういったモノ作りから廃棄問題にまで対応する必要があります。そのためにはサプライチェーン全体が情報を共有し、必要な量を必要なタイミングで生産することが求められますから、やはりデジタル技術で企業を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)が不可欠になります。

 サステイナビリティーへの要求も新型コロナ禍を経て一段と強まるのでは。この問題は単独企業での取り組みでは限界がありますから、やはりサプライチェーン全体が協力し、生産から回収、リサイクルの仕組みを作っていくことが欠かせません。当社もこのほど伊藤忠商事と戦略的パートナーシップを結び、サステイナブル素材を活用したモノ作りでの連携に加え、繊維業界全体でサステイナブルな社会の実現を目指す組織「アパレルサステイナブルコンソーシアム(仮称)」を設立することにしました。川上・川中・川下の枠を超えた連携のプラットフォームとなれるように活動する構想です。

 こうした取り組みが、新型コロナとの共存に向けた鍵となるでしょう。この流れは今後、一気に加速する可能性があります。

  ――新型コロナ禍の影響を受けた2020年度上半期(4~9月)が終わりました。

 今年は、ある意味で異常事態ですから、半期ベースの業績予想は出せませんでした。実際に第1四半期(4~6月)は海外も含めてまったく事業活動ができませんでしたから。そこで第3四半期後半から第4四半期にかけて回復する計画としています。その意味では第2四半期までの業績は悪いなりにも想定の範囲内に収まったと見ています。ただ問題は、期待していた回復の勢いが弱いこと。これが今後の懸念材料です。

 繊維事業は小売店の休業・営業時間短縮など店頭商況の影響を受け、カジュアル分野を中心に販売が大きく落ち込みました。原糸も打撃を受けましたが、こちらはここにきて回復基調にあります。特に原料改質によって機能を付与する「ネイテック」への注目が高まってきました。ユニフォームも第1四半期は大きく落ち込みました。元々、流通在庫の増加で市況は調整局面だったのですが、そこに新型コロナ禍が重なりました。前期まで好調だった企業向け別注ユニフォームも新型コロナ禍で商談が止まりました。

 一方、抗菌・抗ウイルス機能繊維加工技術「クレンゼ」への注目が急速に高まるなど新しい動きもあります。電気・電子分野の国際標準団体である国際電気標準会議(IEC)の規格に対応した制電ユニフォーム素材「エレアース」も開発し、提案を始めます。営業担当者などがIEC規格に基づく静電気管理技術者(ESDコーディネータ)資格を取得して提案活動を行うなど、文字通り市場創造型の取り組みも特徴です。

 化成品事業も自動車関連が厳しい状況となりました。フィルムもイベント関連やインバウンド関連の需要が消失したことで打撃を受けています。ただ、医療用アイソレーションガウンなどは特需的に販売が増加しました。環境メカトロニクス事業は工作機械が航空機関連用途でダメージを受けています。一方、ロボットビジョンセンシングは他社との共同展開など新しい動きが加速しています。

  ――今後の課題と戦略は。

 本来であれば21年度は中期経営計画の最終年度ですが、現段階でも目標数値からかなりのギャップができてしまいました。目標を引き下げるわけではありませんが、外部環境が一変してしまったので各事業とも戦略を立て直す必要があります。市場創造型ビジネスモデルをどうやって構築するか。今下半期は、それに向けた形を作っていかなければなりません。

 繊維事業はクレンゼやネイテックなどで新しいビジネスを構築することが重要です。伊藤忠商事とのパートナーシップによるモノ作りも具体的にスタートします。アパレルサステイナブルコンソーシアムの立ち上げにも力を入れます。化成品事業は自動車用途で海外も含めて回復が期待できます。半導体向け樹脂加工も新しい技術展開に力を入れます。複合材料関連で開発投資も進めてきましたから、その成果にも期待ができます。環境メカトロニクスはロボットビジョンセンサーで具体的な案件で成果を上げていきたい。

 厳しい環境が続きますが、その中でもいろいろと新しい芽が出ています。これを育て、次の展開につなげていくことが下半期以降の大きなテーマになります。

〈私の新常態/妻とゴルフで真剣勝負〉

 「今年は仕事関係でのゴルフが全て中止になったので、最近は妻とラウンドするようになりました」と言う藤田さん。夫人は数年前からゴルフを始めたばかり。「一緒にラウンドし始めたころは、妻のプレーについイライラしてしまったのですが、最近はだんだんと上達して、ホールによっては私が負ける場合も。いまや真剣勝負になっている」とか。コース外でも夫婦でゴルフ談義が増えた。「おかげで妻の機嫌がすこぶるいい」と笑う。これも新型コロナによる“新常態”。

〈略歴〉

 ふじた・はるや 1983年入社。群馬工場長、鴨方工場長、化成品業務部長などを経て2012年取締役兼執行役員企画室長、13年取締役兼常務執行役員企画室長、14年から社長。