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2020年秋季総合特集Ⅱ(5)/top interview シキボウ/“競争戦略”から“生存戦略”へ/社長 清原 幹夫 氏/新型コロナ後の成長への準備

2020年10月27日(Tue曜日) 午後1時29分

 「“ウイズコロナ”“アフターコロナ”時代は、企業も従来型の『競争戦略』ではなく、社会に必要とされる会社だけが生き残る『生存戦略』が求められるのでは」とシキボウの清原幹夫社長は指摘する。そのためには、衛生加工など社会的要請に応える商品の開発と提案、さらにサステイナビリティーやSDGs(持続可能な開発目標)に対応した取り組みが一段と不可欠になった。新型コロナ禍によって事業環境が厳しさを増す中、“コロナ後”の成長加速・創出に向けた準備を進める。

  ――新型コロナウイルス禍によって繊維産業も大きく変化せざるを得なくなりました。

 ビジネスだけでなく、国のありさま、生活様式なども大きく変わらざるを得ないでしょう。そうした中で、企業も社会の中でどのような役割を果たすべきなのかが改めて問われるように思います。日本の企業は従来、競合他社よりもたくさん売る、安く売る、シェアを高めるといった「競争戦略」に基づいて事業を運営してきました。この競争戦略で勝ち残った企業だけが市場に存在できるという考え方です。しかし、今後は社会に必要とされる会社だけが生き残るという「生存戦略」が求められるのではないでしょうか。

 例えば新型コロナウイルス禍によって抗ウイルスなど衛生加工への社会的要望が急速に高まりました。伝染病を契機に自然環境などの重要性も一段と重視されるようになり、サステイナビリティーやSDGsに向けた取り組みの重要性がさらに認識されるようになります。消費者の視線が変わったのです。こうした変化に対して柔軟に対応することが企業には求められるし、それに対応できない企業は存続できなくなります。

  ――2020年度上半期(4~9月)は新型コロナ禍で繊維産業は大きな打撃を受けました。

 当社も、ほぼ全ての事業で影響を受けています。特に打撃が大きかったのが繊維事業です。緊急事態宣言の際には商業施設や小売店が休業したことなどでモノが全く動かなくなりました。機能資材事業も力を入れていた航空機部材がダメージを受けています。世界中のエアラインが止まってしまい、航空機の生産もストップしているからです。カンバス・フィルターなどの産業材事業は急激な落ち込みこそありませんが、やはり経済全体の状況が悪化する中で、徐々に悪影響が及んできます。不動産・サービス事業は、海外からの観光客が来なくなったことでホテル向けを主力とするリネンサプライ事業が大きな打撃を受けました。ただ、ここにきてようやく回復の兆しがあります。

  ――下半期や来期に向けた課題や戦略は。

 本来なら今期は3カ年中期経営計画の最終年度でした。ところが新型コロナ禍によって前提条件が大きく変わってしまった。現中計の大きなテーマは将来に向けた投資を完了することでした。そこで繊維事業はベトナムにホーチミン事務所を開設するなど海外拠点を拡充し、産業資材は鈴鹿工場(三重県鈴鹿市)の増設を進めました。機能資材も中央研究所(同)に新棟が完成しました。結果的にですが、将来に向けた投資はほぼ完了した形です。

 そこで現中計はいったん置いて、現在の事態に対応するため20年度から21年度までの緊急2カ年計画の策定を進めています。ポイントは「止めること」「変えること」「加速すること」「新たに創ること」を明確にすることです。特に1年目は緊急対策として「止めること」「変えること」に取り組みます。新型コロナ禍によって事業環境が一変しましたから、今後も採算の改善が見込めなくなった分野や事業は思い切って“止める”という判断が必要です。仕事のやり方や提案方法も“ウイズコロナ”の環境に合わせて変えていかなければなりません。

 その上で2年目は新常態に対応することで成長を「加速すること」、そして新たな事業やビジネスモデルを「創ること」に取り組みます。特に後者二つが重要です。なぜなら、それがないと新型コロナ禍による打撃から回復することにならないからです。

  ――具体的にはどういった「加速」と「創る」に取り組むのですか。

 「加速」の一つは、抗菌や抗ウイルスといった衛生加工商品の拡販です。ここに来て、従来は使われていなかった新しい用途での引き合いも急増していますから、これをどのように具体的なビジネスにつなげていくかです。その時に課題となるのは機能に対する評価基準でしょう。他社とも協力して消費者から信頼される基準作りに取り組まなければなりません。

 もう一つは、やはりサステイナビリティーです。この流れは新型コロナ後も加速するはず。ある意味、真剣に取り組んでいる企業と、そうでない企業の差が鮮明になるのでは。そこで燃焼時の二酸化炭素発生量を抑制する特殊ポリエステル繊維「オフコナノ」など最終的な廃棄まで考慮した環境配慮素材に取り組んでいます。生産者の顔が見えるトレーサビリティーへの関心も高まります。生産から消費までトータルでプロデュースするモノ作りが必要です。

 「新たに創ること」では、やはり海外市場の開拓が欠かせません。インドネシアやベトナムの拠点に加えて、業務提携するバングラデシュや台湾の企業とも協力しながら商品開発や販売拡大に取り組みます。デジタル営業の推進も不可欠になりました。海外出張も難しくなる中、ヴァーチャルリアリティー展示会とリアル展示会を組み合わせた提案手法を充実させることで海外からも展示会に参加することができます。オンライン会議システムと併用することでリアルタイムでの提案もできますし、技術部門でも活用できるでしょう。

 当面、厳しい事業環境が続き、我慢の展開となるでしょうが、何とかしのぎ切って、コロナ後の復活に向けて準備することが今期の大きな目標です。

〈私の新常態/ネガティブ・ケイパビリティ〉

 「新型コロナ禍で『この先どうなってしまうのか』という不安に襲われた人も多いだろう」と言う清原さん。そんな時に知ったのが“ネガティブ・ケイパビリティ”という概念。英国の詩人、ジョン・キーツが見出した“不確実さや答えの出ない問題に耐える力”のこと。「現代人は効率的に答えを見つけるポジティブ・ケイパビリティを重視してきたが、いま必要なのはネガティブ・ケイパビリティでは。経営も同じ。ネガティブ・ケイパビリティでこの危機を乗り切りたい」との思いを強くする。

〈略歴〉

 きよはら・みきお 1983年シキボウ入社。2002年繊維部門衣料第1事業部長、08年メルテックス社長、11年執行役員、12年取締役、15年取締役兼上席執行役員。16年6月から代表取締役兼社長執行役員。