繊維街道 私の道中記  澤田会長   澤田 隆生 氏(5)

2020年11月20日(Fri曜日)

今から3年後が楽しみ

 澤田を創業して52年目となる今年、思いがけない事態に遭遇する。新型コロナウイルス禍だ。だが澤田はこの危機に対して世間一般とは少し異なる見方をしている。

 新型コロナウイルス禍で繊維業界も大変な打撃を受けています。当社も例外ではありません。ただ、私はこの経験が数年後には生きてくるのではないかと感じています。よく「人生には三つの坂しかない。上り坂、下り坂、そして“まさか”」と言いますが、“まさか”を体験している人とそうでない人とでは、大きな差が出てくるものです。実際に今、産地や企業の中で、それまではあり得なかったような変化が生まれています。

 例えば当社は早くから本社と大阪、東京の営業所の間でオンライン会議を導入していました。ですから新型コロナ禍で海外出張ができなくなっても、すぐに香港と上海の子会社ともオンライン会議ができたわけです。私もたまに顔を出すのですが、そうしているうちに現地スタッフと親しくなるなど距離がぐっと縮まりました。私だけではありません。本社、営業所、海外子会社の従業員の間の一体感が今まで以上に高まっています。これは従来のように担当者が出張していただけではあり得なかったことです。

  新型コロナ禍をきっかけに産地や産地企業に新たな動きも出てきた。

 産地はこれまで主にB2Bのビジネスでやってきました。ところが一時的にB2Bの仕事が減少したことで、B2Cに踏み出さざるを得なくなりました。その時に、得意の商品を消費者にどのように訴求できるかが問われます。それができた企業が今後、新しい形で出てくるでしょう。リスクを取りながらも、前に出ていける企業だけが生き残ることができると思います。新型コロナ禍は、そうした流れを加速させました。

  澤田でも新型コロナ禍の中で若い従業員が中心となって新たな挑戦が始まっている。

 当社でも現在、若手が中心になって最終製品をやっています。東京営業所を一部改装してショップも出しました。元々、セーター用に開発した和紙の糸「カミファイン」を使って「ホールガーメント(WG)」横編み機でマスクに編み立てて販売したところ、これがヒットしています。予想以上の売れ行きとなっていることから急遽、WG横編み機を増設し、現在もフル稼働です。

 新型コロナ禍によって、産地の中で、あるいは企業の中で頑張る人と、そうでない人の差が、ものすごくはっきりと見えるようになったのではないでしょうか。それは企業の間の差にもなっていきます。だから、変な言い方ですが、私は今から3年後ぐらいが非常に楽しみなんです。新型コロナ禍による危機を乗り越えた人は、とんでもない経験を積んでいるわけですから、そういった人がその後、どんな新しいことに挑戦するのか見てみたい。そこから日本の繊維産業や繊維産地の新しい可能性が見えてくるはずです。

  これまで数多くの“まさか”を体験してきた澤田にとって、現在の新型コロナ禍もまた乗り越えることで新たな可能性を切り開く契機だと感じている。そして、若い世代にはそれが可能だと信じ、彼ら・彼女らを見守り続けている。

(文中敬称略、この項終わり)