繊維街道 私の道中記 栗山縫製社長 栗山 泰充 氏(5)

2020年12月25日(Fri曜日)

クリちゃんを助けないと

 北京での失敗は、新たな受注形態を発想するきっかけを栗山に与えた。

 輸入はしたが、検品すると品質が悪い。納期が迫っているのにどうしよう。そんな私の失敗から、緊急縫製に対応する事業を思い付きました。ただ、今の仕事を維持したまま、緊急時の縫製を従業員に強いることはできません。

 そんな時、元タカキュー社長で、私が加盟している「メキキの会」創設者でもある出口光さんや異業種の仲間たちが「栗チャンを助けないといけない」と集まって、ブレーンストーミングしてくれました。その中で、今は別の仕事をしている元社員に、仕事が終わった後、当社のミシンを利用して縫ってもらうというアイデアが出てきました。栗山グループの元社員に呼び掛けると100人ほどが、緊急要員として登録することに応じてくれました。

 この制度は非常にうまくいきました。普通よりずっと高い加工賃をいただくからです。

 例えば、「著名デザイナーの依頼で作ったジーンズが全部B品だった」と飛び込んできたOEM会社がありました。生地の手当てが間に合わないので、解いて縫い直してくれと言う。1、2週間で縫い直しました。

 1枚からの緊急縫製にも対応します。あるアパレルが、重要な顧客がパーティーで着るジャケットを作ったがうまくいかないので1日で縫ってくれと頼みこんできました。10万円の縫製賃で請け、ちゃんと納品しました。商社が、海外縫製用の見本を1着作ってくれと頼んでくることもあります。

 緊急縫製を始めるといろいろな依頼が舞い込みます。紳士服はもちろん、スタイ、ブーティーの縫製、さらにはグログランテープの補強の依頼もありました。高級ゾーンの婦人服を縫う技術を持っているので、どんなアイテムでも縫うことはできる。ただ、スピードが足りないことがあります。そんな時は治具を開発して対応します。

  縫製工場の多くは情報発信に熱心ではない。ホームページさえも持っていない場合が多い。だから、緊急縫製に応じることをうたう栗山縫製のホームページは目立つ。そしてこのことが、これまでとは異なる種類の顧客を呼び込む。顧客数は現在、個人を含め539社に達している。

 自らのブランドで服を販売したいという個人など、既存顧客以外からの受注が増えています。個人が作った服が必ずしも売れているわけではありません。追加発注があるのは100人中3人ぐらい。でも、相当に売れる場合もあります。ある主婦向けにエプロンを100枚納品したところ2日で完売し、千枚追加納品するとそれも直ぐに売り切れ、さらに1万枚納品するとそれも短期間で完売しました。

  新型コロナウイルス禍で、既存顧客からの発注も緊急縫製依頼も減った。しかし、個人顧客からの発注増加で、服の縫製収入はむしろ増えている。これに、マスクや医療用ガウンの縫製が加わり、右肩上がりだった売上高は、これまでにない急角度で増えそうだ。栗山の挑戦は、日本の縫製工場存続の一つの形を示していると言える。

 (文中敬称略、この項終わり)