タイ/スパイバー、BCG経済で期待大/日系バイオベンチャーが始動

2021年04月06日(Tue曜日) 午後1時25分

 クモ糸の遺伝子を元に人工構造タンパク質を使った新素材の開発・生産を手掛けるSpiber(スパイバー、山形県鶴岡市)がタイの東部ラヨーン県で建設を進めてきた工場が完成し、3月29日に開所式を開いた。植物由来のため、石油に依存せず、生分解可能な次世代の素材の量産がタイで始まる。式典にはタイ投資委員会(BOI)のドゥアンチャイ長官らが列席し、タイ政府が重点施策に掲げる「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済」への貢献に期待を示した。

 工場はラヨーン県のWHAイースタンシーボード工業団地1(ESIE1)の3360平方メートルの敷地に完成した。サトウキビやキャッサバ由来の糖を原料に、人工構造タンパク質素材「ブリュード・プロテイン」の原末の商業生産を今年末をめどに始める計画だ。年産能力は数百トン。原末は、鶴岡市の本社工場に送られ、繊維や樹脂、フィルムなどのさまざまな形態に加工する。アパレル素材のほか、自動車部品、毛髪素材など多様な用途での活用が見込まれている。現時点でポリエステルやナイロンなどの石油由来の素材に比べて生産コストは高いものの、環境性などの付加価値によって十分なニーズがあると見込んでいる。

 スパイバーのタイ法人、スパイバー・タイランドの森田啓介社長によると、タイ工場は、鶴岡市の本社工場の100倍の生産能力があり、原料調達の優位性を含め、生産コストは半分以下に抑えられるという。当面の目標としては、安定生産の軌道に乗せることを挙げた。スパイバーとしての売り上げ目標は非公表としつつ、市場規模は数十兆円を見込んでいると話した。

 スパイバーが生産する人工構造タンパク質は、植物資源を元に微生物が生産(発酵生産)するため、化学繊維と違って石油に依存しないことが最大の特長だ。生分解性も期待されており、世界的な問題となっているマイクロプラスチックによる海洋汚染の抑制にも有効と考えられている。

 これまでに、ブリュード・プロテインを使ったTシャツやアウトドアジャケットを商品化したほか、トヨタ自動車と共同で同素材を使った「レクサス」向けの自動車シートのコンセプトモデルを作成した。

〈米国にも生産拠点、タイはマザー工場に〉

 森田氏は、量産化に向けた工場の立地としてタイを選んだ理由について、原料であるサトウキビやキャッサバといったバイオマス資源が豊富であることや、生産に不可欠な電気や水などのユーティリティーの供給が安定していること、BCG経済を推進するタイ政府から好条件の優遇措置を得られたことなどを挙げた。

 スパイバーは昨年10月、米国の穀物メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)との提携により、米国でもブリュード・プロテインの原末の生産拠点を設ける計画を発表。タイ工場は、日本や米国の各工場の生産の効率化などに向けた研究開発も担うマザー工場として位置付けている。

〈タイ政府、技術移転や人材育成にも期待〉

 29日の式典には、日本側から梨田和也駐タイ日本大使や日本貿易振興機構(ジェトロ)バンコク事務所の竹谷厚所長、タイ側からBOIのドゥアンチャイ長官、高等教育・科学・研究・イノベーション省傘下の科学技術開発機関(NSTDA)のナロン長官らが出席した。

 ドゥアンチャイ長官は、「タイは世界の農産物生産の中心の一つであり、スパイバーのような新進気鋭の世界的なバイオベンチャーが生産拠点を置いた意義は大きい。タイの農産物の高付加価値化のほか、バイオ分野での人材教育への貢献にも期待する」と語った。

 一方、経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J―Startupプログラム」などを通じてスパイバーを支援してきた日本政府も、タイのBCG経済における日本企業の存在感を高める上で、スパイバーの貢献に大きな期待を表明。経産省の担当者は、NNAに対し、スパイバーのタイにおける事業活動の開始を契機に、BCG経済におけるさまざまな分野で日本企業の存在感をアピールしていきたい意向を示した。

 タイではBCG経済分野への投資が拡大している。環境配慮型の製造業の拡大が要因で、BOIによると、昨年の同分野への投資奨励事業の申請額は1148億バーツとなり、前年比17%増加した。ドゥアンチャイ長官によると、昨年の同分野への申請件数は494件。申請された事業の中では、植物工場の運営事業が50件と目立った。

 3月26日付「バンコクポスト」によると、タイ工業省はBCG経済をさらに加速するための新たな委員会を立ち上げた。スリヤ工業相は、特にバイオ技術を積極的に活用することで、国内の農業や食品、健康・医療、エネルギー・バイオ化学といった分野の付加価値を高め、向こう6年で国内総生産(GDP)の24%に相当する4兆4千億バーツを生み出したい意向を示している。

[NNA]