繊維機械/激震“エリコン・ショック”/影響力増す中国巨大資本

2012年12月20日 (木曜日)

 12月4日、繊維機械業界に激震が走った。スイスの大手機械メーカー、エリコングループが繊維機械事業のうち天然繊維機械部門と繊維機械部品部門を中国の機械メーカー、江蘇金昇実業に売却すると発表したからだ。紡機・ワインダーの「シュラホースト」、撚糸機の「ザウラー」など名門ブランドを抱える欧州有力メーカーが中国資本の傘下となったことで、欧州繊維機械業界の再編は、最終局面を迎えた。

 近年、繊維機械の需要が中国を中心としたアジア地域に移り、日本メーカーとの競争が激化するなかで収益力の低下に悩む欧州繊維機械メーカーはM&Aなど企業再編による系列化で競争力を維持する戦略を取ってきた。現在、例えば紡績機械関係はエリコングループ、リーター、ツルッツラー、サビオなどほぼ数社に集約された。

 だが、2008年の“リーマン・ショック”、そして12年の欧州債務危機など世界経済の変調のたびに、とくに欧米向け輸出を主力とする中国などアジアの紡績は設備投資の規模を急激に縮小するケースが相次いだ。このため欧州メーカーの、とくに天然繊維用機械部門の収益性が極めて不安定となる。

 しかも欧州メーカーの多くは株主の利益を重視するため低採算事業の存続が難しい。エリコングループのミヒャエル・ブッシャーCEOも「今回の処理は、ポートフォリオ改革への一里塚。浮き沈みの激しい分野を縮小し、高いマージンが取れる化合繊分野に集中することが株主、顧客、従業員の持続可能な利益につながる」と率直に語る。

 欧州メーカーの動きと歩調を合わせて急激に存在感を増したのが中国メーカー。経済成長を背景とした資本力で欧州メーカーを傘下に入れる動きが加速していた。例えば中国恒天集団は多くの繊維機械メーカーを傘下に持つが、最近では不織布機械の独アウテファ、染色機械の独モンフォート、横編み機の伊プロッティなど欧州メーカーを次々と買収している。エリコングループの天然繊維機械部門が中国資本の支配下となったことは、中国資本の台頭と繊維機械業界の再編が最終局面を迎えたことを印象付ける。

 日本メーカーは今後、中国資本となった欧州メーカーと競争しなければならない。エリコン・シュラホーストと長年にわたる競争を繰り広げてきた村田機械は「問題は江蘇金昇実業が、どこでワインダーなどを生産するかだ」と指摘する。いまのところ欧州での生産を継続するとしているが、中国は第12次五カ年規画で「ワインダーの国産化率70%」という目標を明記する。その意味で今回の買収劇は、いずれ欧州の技術を全面的に中国に移管する布石とも考えられる。そうなれば、価格競争に拍車がかかるとの危惧が高まる。

 一方で「アジアのユーザーは『エリコンの機械が中国生産になれば買わない』と言っている」との指摘も。アフターサービスなどに不安があるからだ。今後、日本メーカーは中国系メーカーと本格的な競争に備えて「トップゾーンで一段とシェアを高め、開発力で引き離すことがますます重要になった」との指摘は重要だ。