トンボ/玉野本社工場/“学生たちの未来創る”モノ作りを

2015年09月29日 (火曜日)

 入学式の前に初めて制服に袖を通す喜びは、多くの人が経験を持っているに違いない。制服を入学式前にしっかり届けることができるのは、国内に生産基盤を持つ学生服アパレルが存在するからこそだと言える。今回は、トンボの基幹工場である玉野本社工場(岡山県玉野市)にスポットを当て、制服のモノ作りにかける同社の思いを探る。

創業時、足袋3足の生産/最新設備導入し続ける

 JR八浜駅を降り、東へ歩くこと約10分、まだ外観が新しいトンボの玉野本社工場が見えてくる。工場は2008年に新築したが、トンボにとっては創業の地であり、歴史を刻んできた場所でもある。

 1876年の創業時、足袋の製造販売をしていた。当時は家内工業で1日わずか3足しか作れなかったという。1920年代、岡山県を中心に学生服の生産が盛んになってくると、トンボも30年から学生服の生産を開始。わずか8年の間に年間72万着の学生服を生産するほど、事業規模を拡大した。

 太平洋戦争を経て49年には当時としては最新の設備機械を誇る、原料から糸、布、裁断、縫製まで対応できる一貫生産体制を敷いた。その後も常に最新機器を導入していく。54年にはシンガー高速ミシンを配置し、生産効率を大幅に引き上げた。81年にはCADを導入、84年にはマーキングまでコンピュータ化する。2003年にはカッティングセンターを設け、業界に先駆けてCAM裁断を稼働するなど、常に時代の先端を追いかける工場として進化し続けてきた。

 04年には2度の台風水害で工場が床上浸水するという被害に見舞われる。このことと06年の創業130周年を機に玉野本社工場の新築を発表、08年10月に現在の工場が完成した。

 工場は現在、物流などを含め従業員が360人で、コートやブレザー、セーラー、スカートなど女子服を中心に月間1万5000着の生産規模を擁する。設備はCAD28台、CAM10台、ミシン530台、アイロンプレス150台で女子服だけでなく、詰め襟服も生産でき、多機能生産ラインとして6ラインを持つ。

 6ラインのうち、仕上げまで一貫でできるラインも2ラインあり、生地の裁断から2時間で制服を作り上げられる。これだけの“超高速”対応ができるのも、カッティングセンターとの接続により、裁断から仕上げ、入庫までが一つの流れとなった、最新鋭の設備・機器を備える工場だからと言える。

 さらに生産管理のTOPS(トプス)システム、自動設計のAGMS(エージーエムエス)システム、工程進ちょく管理のTPAM(ティーパム)システムという独自の最先端のシステムを取り入れ、生産工程の最良の管理、コントロールを行うことで、多品種少量、短サイクル生産を徹底的に追求した工場となっている。

生産性は5年で30%向上/自律性高め、多能工化

 生産本部の井原長武スクール生産部長は「ここ数年で縫製の従業員の平均年齢は35歳と年々若返りが進み、10代から20代の人材が主力になっていることが、工場の大きな強みになりつつある」と話す。

 生産性はこの5年間で30%も向上している。工場新設時から立ちミシンによる短サイクル生産の実現を進めてきたこともあるが、「従業員一人ひとりの自律性を高めてきたことが大きい」と言う。「管理者だけが管理するのではなく、縫っている人も一緒に問題が起こったときに対処できるようにする」ことで、生産が止まってしまうというトラブルが、ここ数年で大きく減っている。

 例えばミシンの調子が悪い場合、すぐに設備担当者を呼ぼうとして、それが時間のロスを呼ぶ。しかし、ちょっとしたトラブルなら自分で対応できるようにすることで、生産性は必然的に上がることになる。

 もちろん、周囲の環境も若手の成長を促す。新卒生は年齢の近い先輩や、班長などと交換ノートを交わし、コミュニケーションを頻繁に持つことで、チームワークを強化。また、それぞれの工程でどれだけ自分が習熟したかが分かるような工夫も取り込む。生産にかかる標準時間に対し、30%、50%、70%、100%、120%と自分がどの段階なのか把握できるような仕組みも構築した。「上司や同僚と良い関係を築ける環境や、モチベーションを高めていける仕組みが、ここ5年の生産性の向上に大きく貢献した」と分析する。工場内には託児所もあり、さらに安心して働ける職場環境も、従業員の定着率を高めている。

 「制服はお祝い品であり、一人ひとりのお客さまの気持ちになってモノ作りをする気持ちを常に持ち続けたい」と井原スクール生産部長。「品質や品格のある“心地良い制服姿”を後世に伝え、学生たちの未来を創っていくのが私たちの使命と考えている」。その言葉はトンボの制服を着用する学生にとって心強い。

11月29日は「いい服の日」/あなたのアイデアが商品化されるかも?

 トンボは11月29日を「いい服の日」として、民間の任意団体である日本記念日協会に登録し、2010年から毎年11月29日に玉野本社工場でいい服の日にちなんだ記念式典を毎年開いている。同社首脳や同工場の従業員が参加し、「学校制服&体操服アイデアコンテスト」として社員や一般からの応募で優秀賞に選ばれたアイデア商品を披露。ざん新なアイデアやユーモアのあふれる商品の紹介で、会場は毎回感嘆の声や笑いに包まれる。

 昨年、アイデア商品は優秀賞、入賞合わせて11作品が選ばれた。優秀賞に選ばれた大阪府の女性のアイデア「ヘアバンドリボン」は、セーラー服のリボンがそのままヘアバンドにもなるという優れもの。ほかにも動きやすい体操服「つなぎジャージ」、激しい運動でもめくれ上がりにくい「アウトインTシャツ」などが優秀賞に選ばれた。

 今年も第6回を開く予定で、9月30日まで学校制服&体操服アイデアコンテストの一般応募も受けて付けている。岡山県内の学校をはじめ、他県の学校からの応募もあり、「学校賞」として表彰することもある。

 単なるイベントだけに終わらず、アイデアを商品化しつつあり、セーラー服の襟が飛ばない工夫(「メクレーヌ」商標)や、制服の裾などに反射材を付ける工夫などは、販売実績もできてきた。今後も広くアイデアを募集しながら、新たな商品開発につなげる。